私の生き方〜ある社会人の場合〜

小さな頃、お姫様に憧れてた。

皆からチヤホヤされて

ステキな王子様に出会って恋をして

私もいつか物語の主人公になるんだって思ってた。


大人になるに連れてそんな願望は減ってったけど、お姫様みたいな大恋愛をしてみたい!っていう気持ちだけは未だに残ってた。



高校生の頃、恋をした。

中学から仲良くなった男の子だ。

当時、その男の子から良く目線を感じていて、私は親友と結構一緒にいてたから、仲間に入れて欲しいのかな?と思って誘ったら、いつしかいつもの3人組!みたいになってた。

あの頃は純粋だったから特に男女の好き嫌いはなかったけど、後から『ずっと、君のことしか見てなかった。』なんて臭いセリフ吐いたときは笑ってしまった。


高校に上がる時、男の子から告白された。

恋心が上手くわかんなくて、そのときは『ごめんなさい。』って言っちゃった。

初めはよくわかんなかったけど、親友の助けもあって段々と恋心を理解してきて。

いつしか、あのときの返事をなんで断ったんだろう……って後悔するようになった。


高校1年生の時の文化祭で、親友と一緒に回ろうとしたとき、男の子からお誘いを受けた。

親友は気を利かせたのか、他の子と回るよ!なんて言って、申し訳ないと思いつつ、喜んでお誘いを受けた。


お化け屋敷とか、ゲームとか。屋台なんか回ったりして、いかにも青春!みたいなことをして。

その日の夕方のキャンプファイヤーで、改めて告白されて、うん、って頷いた。

嬉しかった。

私の夢が叶った。


好きな人と恋をして、付き合う。

いつか、この人と命を育んで、このまま結婚まで行くんだろうな、なんて夢想してた。



高校3年生の卒業式前のこと。

親友のご両親が亡くなった。

自殺だったみたいだ。


その時の親友の顔は今もまだ忘れられない。

初めて……、初めて、人生に絶望した顔を見た。

今もまだ、脳裏に焼き付いている。

忘れられない、忘れてはならないものとして、私の中に刻み込まれた。


親友を慰めてみたが、あまり効果はないみたいだった。

私の言葉やハグに、泣いたりありがとうって笑顔になってたけど…………

何年あの子と一緒にいると思ってる。わかるものはわかる。多分、私の声は親友には届いていない。

仕方がないよ。

両親が亡くなっただけでなくて、自殺したんだから。


多分だけど、その日から、親友は両親の自殺の原因となった全てを……この町の全てを憎んだ。


当時の私にできたことは、親友を慰めることだけだった。

きっと、理解は出来なくても、悲しみを共有することはできるはずだと思って、足繁く親友の家へと通った。

でも、親友の心はずっと閉じたままだった。



だからだろう。

大学受験の頃、私の志望が地元の大学で、親友が県外の大学だったときに、毎日でも連絡を取り合おう!とか、休みの期間会おうね!なんて言ってたっきり、5-6年会うことも無く、そもそもとして連絡が取れなかった。

きっと、私と会うこと、連絡を取ることが親友の憎しみを増大させているんだ。

そう思って、私は親友からの連絡を待つ事にした。








親友と連絡が付かなくなって5年。

大学卒業を間近に控えた私の妊娠が発覚した。

もちろん、相手は今も付き合っている彼だ。

今も待っている親友のことは引きずっていて気持ちは暗いけど、それでも女性として好きな人との子供を授かったことは、それをものともしないくらいにとても嬉しかった。

両親、特にお父さんは、『社会人一年目は大変だから。』という理由で子供はまだ産むな、と話を聞いてくれなかったけど、お母さんは渋々ながらも応援してくれた。

私は、彼とならどんな壁も乗り越えて家族になれる。

そう、思っていた。






でも……そう思っていたのは私だけだった。


私は、妊娠を彼に告げた。

これから大変だけど、頑張っていこう!とも。


でも、『何言ってるんだよ、冗談だろ?』とか『社会人一年目から負担が大きいよ!』って取り合わず、私は彼との生活に限界を迎えてしまった。


彼と初めての大喧嘩。

これまでの鬱憤を晴らすかのように、大好きだったはずの彼に酷い言葉をかけてしまった。

もちろん、本気で思っていることもあったけど、一部は妊娠による不安定なところもあったんだろう。

『浮気してるんでしょ!』とか『私のこと嫌いになって、別れたかったんでしょ!』ってある事ないことを口から滑らせた。


彼は一緒に暮らしていたアパートを飛び出していった。

すぐに帰ってくると思った。けど、幾ら待っても彼は帰ってこなかった。


最初に後悔が来た。

どうしてあんなこと言ったんだろう……。

どうして妊娠したんだろう……。

妊娠さえしなければ、彼とまだ上手くいっていたのかな……。


ふと、少し違和感の残るお腹の下をさすってみた。


小さな命。

ちょっと転んだり、食生活を悪くしてみたり……

少しのことで失う命。

失うことで、彼が戻ってくる。

本気で、そう思った。


お腹に手を当て、押し込もうと少し力を入れた。

これで、赤ちゃんが、私に宿る命が……死ぬ。

これで、彼が帰ってくる……。


さらに、力を入れようとしたそのときだった。


ポタッ……ポタッ…………。


目の前がじんわりとぼやけて来て、何も見えなくなり、


「どうじで……、どうじで力が入んないの……っ。」


お腹に当てていた手は力無くたれてしまった。


涙が枯れるまで散々泣いたあと、次第に母親としての感情が膨らんで、我が子をどうにかして育てなければって思うようになった。


まずは、母親に電話した。

事情を説明すると「いつでも帰っておいで。」って優しく言ってくれて、すぐに実家に帰った。

両親なら、きっと私のことを受け入れてくれて、この子のことを守ってくれる、そう信じて。


家に帰ってきた私を迎えたのはお母さんでなくお父さんだった。


「ただいま……。」

「おかえり。まずは、上がりなさい。」

「うん、」


お母さんは?とは聞かず、お父さんの言うよう家に入る。

居間に着くと、お父さんはドシっと椅子に座って正面側の椅子へ座るよう「んっ。」と首を傾けた。


お母さんを探すために、ふと居間の端にある台所に目を向けた。

台所には、解凍されたお肉と醤油、生姜、それと少なくなった植物油があった。

お母さんは、いつも私に辛いことや嬉しいことがあった日に唐揚げを作ってくれる。多分だけど、お母さんは少なくなった油を買いに出てたんだろう。


お母さんがいないことを確認して、私は椅子に座る。

お父さんの方へ向くと、お父さんは真剣な目でこちらを、いや、私のお腹をみていた。


「その子は、どうする……?」

「私……、私は、この子を産みたい。」


お父さんは、そう言った私を少し睨んだ。


「ただでさえ、社会人一年目で忙しくなるというのに、シングルマザーだと?」

「お父さんたちに、手伝って欲しいのっ。」

「甘えるなっ!母さんも俺も忙しいんだ!その上、身重になるお前の面倒をみろだと!?巫山戯るのも大概にしろっ!」


お父さんは、声を荒げた。

確かに、甘えている。

それはわかってる。

でも、両親は受け入れてくれると思っている。

両親はいつでも私の味方をしてくれる。

そう思ったから…。

だから、ここへ…………



「じゃあ……、じゃあ、どうすればいいのっ!?」

「そんなものっ!堕ろせばいいだろうっ!!」

…………ピシッ!





たった数秒、たった数言。

たったそれだけが、私の中にある数十年の思いに亀裂を入れた。


信じていた。

彼なら、受け入れてくれるって


信じていた。

両親なら、受け入れてくれるって


走馬灯のように駆け巡る彼や両親との日々。

それが瓦解していくような感じがした。


私は『何を』信じればいいの……?

私は『誰を』信じていいの……?



私は…………



「はぁぁっ!?そっちこそ巫山戯ないでよっ!!」


お父さんの言っていることも理解出来ない訳ではない。

でも、この子を堕ろすことだけはしたくない。


「お……、お前っ!親に向かってなんだ!その態度はっ!?」

「お父さんが、『堕ろせ』なんて言うからじゃない!」

「それはっ……それは、お前のためだろうっ!?」

「私のためって……、どこがよっ!!」

「それは……っ」

「ほらっ!すぐに言えないじゃない!結局、シングルマザーの私っていう世間体が気になってるだけなんじゃないのっ!?」

「そ、そんなわけあるかっ!いい加減なことを言うなっ!」


白熱していく言い合い。

お父さんとこんなに言い合うのも初めてだ。

最近、嫌な初めてが続いていく。


数十分の終わらない言い合いに、終止符が打たれる。


ガラガラッ……「ただいま〜」


お母さんが帰ってきた。


扉が開けられる音ではっとした私たちは、言い合いをストップする。


居間に来たお母さんは不思議そうにこちらをみていた。

お母さんは私の方を見た。


「あら、どうしたの?そんなに怖い顔して……。」

「なんでもない……。」


何かあるはずだが、何も無いという私に、今度はお父さんの方を見た。


「お父さん?」

「いや、なんでもないぞ。」

「あら、そう?」


そういって、お母さんは台所に買い物を置いた。


「そういえば、今日は唐揚げにしようと思うの。食べてくわよね?」


やっぱりだ。

お母さんは私がくれる言葉を知っている。

でも……


「いや、いい。やっぱり帰る。」

「そんなぁ……せっかく、買い物にも行ってきたのに……。」

「…………ごめん。」


そそくさと居間から飛び出し、玄関から出る。

お母さんには申し訳ないけど、当分この家に来ることはないだろう。

せっかくの唐揚げも、これからは食べることが出来ないと思う。

お父さんの言葉は、それほど、私の心に刺さってしまった。

恐らく、この家にいると、私は両親が嫌いになってしまう。

それは、嫌だ。

お父さんとも、お母さんとも仲良くしたい。

でも、今は無理だ。


私は1人、誰もいなくなったアパートで、買って帰った冷たいお惣菜を食べた。



悲しい出来事は続くとよく言われる。

でも、そんなことに負けないよう、気分転換にお仕事のお休みの日に赤ちゃん用品を買いに出ていた。

赤ちゃんを育てるにあたって必要なものは多い。

だからこそ、少しでも負担を減らすために両親の助けが欲しかった。でも、思い出すだけでムカつくから買い物に専念した。



それから数ヶ月。

私のお腹はほんのり膨らみを帯び始めてきた。

家の中は、既に赤ちゃんがいるのか?って程に準備万端だ。

嬉しい。

そんなおり、さらに嬉しいことがあった。



毎年あるこの町での同窓会。

それに、遂に親友が参加するというのだ。


待ちに待った親友との再開に、胸が弾んだ。

勢いが余ってしまって、向こうからの連絡を待つ事にした自分を忘れて空港まで迎え行こうか!?

なんて送ってしまう始末。


偶然にもすぐに既読がついてしまって、あちゃーっと思ったけど、いいの!?って返ってきて心底ホッとした。

文面だけだけど、親友があのことを乗り越えたんだって確信できた。





同窓会の日の前日、親友を迎えに空港へ車で向かった。

久しぶりに会う親友は変わってなかった。

むしろ、都会感があってかなり大人びた気はする。

でも、その中身は高校3年生のあの頃の前のときと同じだ。

悲しいことが続けば、その後に嬉しいが続く。

人生はプラスマイナスゼロだ。

なんて思った。


親友との再開。

あいつはいないことにむしろ清々して楽しい同窓会。

親友は「いっぱつ殴るわ。」とか言ってたけど……。


すごく、すごく楽しい時間だった。

最近のことを忘れるくらいに。

気が緩むくらいに。


妊娠中はダメだと知っていたのに、酔い潰れるくらいまでの飲酒を行ってしまった。




2日後の朝の検診の日。


死産がわかった。

私の、宝物が、なくなった……


このときの気持ちをなんて言えばいいか。

改めて思い出しても、わからない。

後悔?悲しみ?

それとも喪失感?

色んな感情が混ざりあって、私の頭は真っ白になっていた。


母親に電話すると「そう……。」としか言われなかった。ただ、涙が溢れ出て止まらない私の懺悔や喪失感の言葉を拾う受話器を離さず、『うんうん……。』と頷きの声を返してくれた。


午後、死産を聞きつけたお父さんがアパートにやってきた。

ピンポーンと音がなり、インターホンでお父さんが来たのを確認する。


鍵を開け、「開けていいよ……。」というとガチャッと勢いよく開いたドア。

そして、そこには満面の笑みを浮かべた『何か』がいた。


「聞いたぞっ!死産だって!?やっと、その荷物を堕ろしたのか!よかった!お前はいい子だ!」



パリンッ…………………………



























それからのことは、覚えていない。

気がついた時には、病院のベッドにいた。


ベッドから起き上がると、右手にスマホがあった。

スマホを立ち上げると、会社やら取引先やらの連絡が色々と来ていた。

およそ1ヶ月立っていたみたいだ。

ふと、通知の溜まったLOINを立ち上げた。

そこにある唯一ピン留めされたLOINのアカウントに、目が離せなかった……。





私は、迷いなく文字を打ち込んだ。






















ガラガラッ!


数時間後、急に病室の扉が勢いよく開かれた。

少しビクッとしたが、開けた人を見てむしろ安心した……。


「麗奈!大丈夫っ!?」

「……っ!?…………あっ、サクラちゃんか……、うん。大丈夫……だよ?」


大丈夫じゃない……。でも、大丈夫って言いたくなる。

心配して欲しいけど、心配して迷惑をかけたくない相手。



私の親友……、さくら。



ハァハァ、と息切れしているところを見るに、かなり急いで来てくれたんだろう。

それだけで、すごく、嬉しい……。

もう、これで残すものがない…………。



さくらに、事情を説明した。

さくらは、私のために怒ってくれた。慰めてくれた。

私が、して欲しいことをいっぱいしてくれた。


ありがとう。さくら。

ありがとう。ありがとう。ありがとう。


もう、伝えきれないくらいに、ありがとう。





さくらが、私の家の片付けをすると言って病室から出ていった。

寂しかった。

そばにいる時は、嬉しいやありがとうでいっぱいだったのに、さくらが病室から出た途端、胸の奥から冷たい『何か』が這い上がってきて吐きそうになった。


でも、さくらならすぐに帰ってきてくれる……。

そう、『信じて』……。










2日経っても、さくらは病室に来なかった。


限界だった。

胸の奥から這い上がる冷たさが全身を駆け巡り、もう、身体が耐えきれなくなってしまった。


私は、ナースにちょっとお出かけしますね?

といって病室から出ると、誘われるように、どこかへ歩き出した。

























新田町には、ある伝説がある。

それは、自殺が誰にも邪魔されることなく完遂できるという伝説のスポットだ。


きっと、私は、追い求めていた。


信じる人がいなくなったこと。

愛する人がいなくなったこと。

心の支えだった宝物を失ったこと。

大好きな親友と最後に話せたこと。


私は『死』を追い求めていた。

だからこそ、ここに来れたんだろうと思う。

新田町が生み出した伝説の場所へ。







宛もなく歩いている私の前に現れたのは、赤い屋根の小屋がある小さなバス停と、田園風景だった。

女の勘という訳では無いけど、なんとなく理解していた。

ここが、私の町に伝わる場所なんだって。


バス停には、時刻表はなく、いつ来るかわからないのと、歩き疲れたので、小屋の中にあったベンチで休む事にした。



私はベンチに座ると、これから死ぬんだから、とこれまでのことを思い返していた。

小さな頃のこと。

初めてさくらに会ったこと。

あいつと出会った中学生のこと。

文化祭の告白のこと。

高校卒業間近に襲った親友の悲劇のこと。


そして……、妊娠して、色んな絶望にあったこと。


私が思い描いたことが全て空回りする現実にやっぱり嫌気がさす。


こんな人生だったのか…私の人生って……。

つまんない人生だったなぁ…………



…………でも、さくらと出会えたのは嬉しかった。

最後に、さくらと会えて、私のために怒ってくれて、嬉しかった。

また、さくらとお話したいな……。

さくらに会いたい……。

ねぇ、さくら……。

私、ここにいるよ?

さくら……

さくら…………………………


………………


………


……



「麗奈ァー!」

「っ!?さくらちゃん!?」


私の名前を呼ぶ声に、ビクッとして、声のする方へ向くと、さくらちゃんがこっちに走ってくるのが見えた。


「どうして、ここに……」


ハァハァ、と息を荒げているさくらちゃんの顔をみると、めちゃくちゃに怒っていた。


「どうして、病院から出ていったの!」

「どうしてって……死ぬためだよ………。」


さくらちゃんがここに来てくれたのは嬉しい。

けど、死ぬことで、私は解放されたかった。

この人生から……。


「死ぬって……っ、どうして私に相談しないの!」

「っ、!私がサクラちゃんに話して、どうにかなる問題じゃないのッ!だからっ……お願い。私を、死なせて………?」


心からの願い。

私は、死にたい。

多分、さくらちゃんも、こういう気持ちだったのかな……。

さくらちゃんは…………さくらちゃんは、どうやって、乗り越えたの?


さくらちゃんは、私の言葉に少し狼狽した後、決心したように、強い瞳になった。


「どうにかなる、ならないとかの話じゃない!

あんたが、私を助けたから!

高校3年生のあのとき、あんたが私を助けたからッ………。

だから、私は今も生きてるんだよ!

お節介な麗奈は大好きッ!でも、そこは嫌いだッ!


……だからッ、私も勝手に助ける!

いろんな人に相談してもらって

なんならこの町一緒に抜け出して

一緒に生きようよ!


この町で生きるなんて、馬鹿のすることだよ!


麗奈が居たから生きれたっ!

麗奈が居たからここに戻ってきたっ!

両親を失った私に残った希望は麗奈だけなんだよっ!


だから、死なないでっ………お願い、、お願いだからっ!私を、1人にしないでっ!」


泣きながら話すさくらちゃんを見て、私は気付いた。

さくらちゃんは乗り越えてなんていなかった。

ただ、私がした慰めを希望にして生きていただけだった。ただの人よがり。


それでも……それでも、さくらちゃんは、私なんかを希望にして…………


「ぐすっ……、勝手な押しつけで、ごめん。

でも!私は、麗奈に死んで欲しくない!」

「サクラちゃん……」


そうだ……そうなんだ。

私は、私が私であるための『何か』が欲しかった。

彼に裏切られ、お父さんに裏切られ、赤ちゃんを失い、私が『私である』と言ってくれる誰かがいなくて寂しかったんだ……。

悲しかったんだ……。


きっと、それは、さくらちゃんも一緒だったのかな……。

ご両親が亡くなって、頼れる人も信じられる人もいなくなって……。

自分を自分としてさらけ出せる人がいなくて、辛かったんだよね……?


「だから!一緒に帰ろ!?こんなとこ、麗奈ちゃんがいていい場所じゃない!


 さぁ!」




さくらちゃんの伸ばした手は、少し震えていた。

さくらちゃんも怖いんだ。

ここで、私に拒否されることが……。

それは、さくらちゃんにとって、希望を失うことと同じだから……。


でも、勇気を出して私に問いかけて来てくれている。

希望を失わないよう、自分で歩いている。


私も、さくらちゃんみたいになれるかな……。

いつか、彼のこと、両親のこと、赤ちゃんのこと。

これからのことを受け入れて進めるかな……。


伸ばされた手からさくらちゃんの顔へと視線を移す。

そこには、私をめいいっぱいに映し出した瞳が映った。


そこには、私しか映っていない。

キラキラと輝く瞳の中に、さくらちゃんの中に私という存在がいるっ、

受け入れるかどうかは、わからない。

けど、さくらちゃんとなら、きっと、大丈夫な気がするっ!


「……うんっ!」



さくらちゃんの手を取って走り出した私たちは、気づいたらあの場所から出てしまっていた。

さくらちゃんが無くし物をしたと言ってどこかへ行こうとしたが、まださくらちゃんが近くにいないと怖い。

申し訳ないけど、さくらちゃんの無くし物は諦めてもらった。


それから、2人で病院へ戻り、案の定、何も言わずに出ていった私をナースの方が怒ったが、なぜだか私を見る目が微笑ましいものだった。


それからというものの、病院の検査で精神的異常もなくなり、晴れて退院した私は、お母さんとさくらちゃんに連絡して役所で戸籍登録をさくらちゃんの住むところへと移した。


お母さんにはちょくちょく連絡するね、とは言ったが、お父さんがいる限り、家には絶対に帰らない!とも宣言した。

お母さんとさくらちゃん、ちょっと笑ってた。


アパートも引き払って、仕事も辞め、退院から2ヶ月がたった頃、私はさくらちゃんとの同棲を始めた。


さくらちゃんは頑なに「これはっ!シェアハウスですからっ!わかってる、麗奈!?こ!れ!は!シェアハウスゥッ!!」と言ってたけど、私は同棲気分だ。

これは譲れない。


もちろん、お互いに……私はないと言い切れるけど、男ができてもシェアハウスを続けることは決めている。

私を倒してからさくらちゃんと付き合うことだな。

ふふん。



…… はっ!?この音はさくらちゃんが帰宅して来た音だっ!?

今日も、さくらちゃんをおで迎えしなければっ!?



私は、これまでの経験や、これからの生活を綴るブログを閉じた。


「おかえり、サクラちゃん!お疲れ様ー!!」











ちなみに、更新しているブログの名前はこうだ。



『私の生き方〜大好きな親友とともに暮らす毎日〜』

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サクラ・サク カキツ @book_kakitu

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