千五百九十四話 普通と違った
「あの、アラッドさんは最初、どういった方とされたんですか」
朝食を食べ終えた後、二人ともなんとか再度絞られた状態から復帰。
その後、若いアマゾネスたち……リサーヌたちと共に集落周辺の森を探っていた。
「へぇ~~~。リサーヌ、アラッドのこと結構気に入っちゃった感じ?」
「アマゾネスとして、気に入らないわけないでしょう。ただ、それはそれとして戦う者として敬意を持っているからこそ、アラッドさんほどの方がどういった方を初めての相手として選んだのか気になるの」
リサーヌの言葉に、他のアマゾネスたちもうんうんと何度も頷く。
彼女たちは何度もアラッド、スティームと模擬戦を行っており、当然のように全戦全敗していた。
スティームにも勝てていない彼女たちだが、それでもまだ……彼と戦い、スティームの足元の輪郭は把握出来る。
ただ……アラッドは、その足元すら見えなかった。
どれほど、何度も模擬戦を行っても底が見えない。
レニスと似ているか、それ以上の存在……そんな人物の初めての存在となれば、アマゾネスであるリサーヌたちだけではなくとも気になるというものだった。
「初めての相手か……歳上の人だった。強いか弱いかで言えば、強い人だったな」
「アラッドよりは強かったのか?」
「…………当時でも、互いに本気で戦うなら……俺の方が強いと思う。それでも……あれだな。頼りになる人だった」
今でも、目を閉じればその顔を……その姿を鮮明に思い出せる。
「寄りかかることが出来る安心感を持つ人物、と言えばいいのかな…………俺の初めての相手は、そんな女性だった」
「そ、そうなんですね」
思ったよりも赤裸々に語ったアラッド。
そこまで語ってくれるとは思っておらず、尋ねたリサーヌや話を聞いていたアマゾネスたちは何故か若干頬を赤くしていた。
(今思うと、あの人が今世での初恋の相手……になるのかもしれないな)
おそらく、今後どうこうなることはない。
多分……下手に行動しない方が良い。
本能的にそう思うアラッド。
ただ、悪くはないとも思っていた。
(前世の恋愛経験……歴を考えれば、ある程度喋れて至ることまで出来ただけでも上出来だろうな)
コミュニケーション能力がゼロではなかったものの、決して恋愛力は高くなく、初恋どころか中高の恋愛すら成就しておらず、良い雰囲気にすら辿り着かなかったアラッドからすれば大成長と言えなくもなかった。
「スティームはどうだったんだ?」
「僕? 僕は家のメイドの人だったよ」
「へぇ~~~、そうなのか」
「というか、大半の令息たちがそうだと思うんだけど……アラッドはそうじゃなかったんだね」
「……それ、初めて聞いたんだが」
「えっ…………」
本当に初めての事を聞き、若干空気が固まってしまう。
「えっと……ほら。婚約者と初めてする時、やり方が解らなかったら男側が恥をかくでしょ?」
「それは…………まぁ、そうなるだろうな」
アラッドも初めて行為を行った時、完璧とはほど遠く……なんなら一回目に関しては普通にリードされた記憶しかない。
「だから、どの家もメイドの人が相手をすると思うけど…………アラッドの家は違ったたんだね」
「それは……どうだろうな。それなら、そういう話が俺の耳に入るはずだ……………………母さんが、父さんに何か伝えたのかもしれないな」
「あ、アリサさんが?」
「あぁ。母さんは元冒険者だろ。それで、俺は昔から冒険者になることを宣言してた」
「…………冒険者としての活動の中で、経験してほしいと思ったから、フール様にメイドとの初体験はなしでって伝えたと……あり得そうではある、かな」
スティームは何度かアリサと話したことがあり、模擬戦……試合も何度も行っているため、ある程度彼女の性格などを知っていた。
「「「「「アラッド(さん)のお母さん……」」」」」」
先程までの話はどっかに飛んでいき、リサーヌたちの興味はあのアラッドの母親に移った。
「な、なぁ。アラッドの母さんって、どんな人なんだ?」
「俺の母さんか? 元冒険者で、結構豪快で……美人で…………今でも強い。というか、先日あったゴリディア帝国との戦争にもバリバリ前線で戦ってたらしい」
「へぇ~~~、なるほど……って……なぁ、アラッドって……侯爵家? ってとこの、子供なんだよな」
「あぁ」
「侯爵家って、貴族の中でもかなり偉いんだろ?」
「みたいだな」
「そんな家の…………ふ、夫人? ってなると、そういう場所に出たらダメなんじゃないのか?」
全員……若いアマゾネスたちだけではなく、スティームも同じ考えを持っていた。
普通に考えて、あり得ない。
侵略戦争が起き、既に敵軍が街周辺まで迫ってきているといった状態であればまだしも、今回の様な状態での戦争に参加するなど……魔法が超得意であれば後衛から、というのでギリギリ。
剣士として最前線で戦うなど、周りに優秀な剣士や戦士、魔術師たちがいたとしても色々とアウトである。
「普通ならアウトだろうけど、うちの母さんは普通じゃないから。ゴリディア帝国との戦争が決まったら、強くなる為にって……家臣を何人か連れてダンジョンで鍛え始めたからな」
「「「「「…………」」」」」
(解る……その気持ち、本当によく解るよ)
この時、リサーヌたちは子供であるアラッドが男であるため絶対にあり得ないのだが、彼の母親であるアリサという人物は、自分たちと同じアマゾネスではないのかと、本気で疑った。
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