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 そのために、まずは国王である父親に相談をした。

「父上。お願いがあります。いざとなれば私はこの命に代えても敵兵と戦って我が国を守ります。ですが、先日、ヴィンセントから、私がいかにこの国にとって大事な存在であるかを説かれました。分かっていたつもりですが、私は自分の立場をまだきちんとは理解しておりませんでした。国のために、まずは己の命を大切にしなければいけないのだと、改めて気付きました。つきましては、大変恐縮ながら、ケイト王女と同じ、赤髪の鬘を作って頂けないでしょうか? それも、まるでケイト王女の弟かと錯覚するくらいの、極上の品質の鬘を、です。もし非常事態になれば、私がその鬘を被ることで、敵に見つかっても、まるで敵国兵士たちが崇拝する王女の弟のように見えて、一時的にたじろがせる事が出来るかもしれません。このようなことをお願い申し上げることで、お前は己が可愛いだけなのだろう、または軟弱者であると罵られても構いません。まずは自分の身を守ること。それが、この国の王子として生まれた者の使命だと確信しています」

 防御力を上げるという意味では、この説明は強ち間違ってはいない。ただし、あくまでレオが鬘を必要としたのは、「敵兵を倒すため」だった。

 息子を溺愛している国王は、レオの頼みを聞いて即座に鬘の作製を指示した。“愛する息子の命が掛かっている”というのは、何よりも国王の行動原理になりやすかった。

 まずはケイト王女を身近で見て、髪の見た目と髪質を見極めることにした。兵士たちが職人を守る形でケイト王女に接近するのは至難の業だった。ケイト王女がいる時は、大抵はその近くに四天王もいるからだ。そもそも一定の距離まで近付くことさえ困難だった。

 しかし、数ヶ月を掛けて観察をすることに成功した。その後は、森中を探して、ケイト王女の髪の毛を見つけて持ち帰らんとした。女たちを警戒しつつ、更には魔物も警戒しつつ、広大な森の中から探し出さねばならず、これもまた相当に骨が折れることだったが、兵士達は大切な王子に何かあったら大変だと、文句も言わずに働いてくれた。それに、ケイト王女の頭から直接髪の毛を抜くなどという自殺行為に比べたら、これでも難易度はかなり低くなっていた。

(それでも相当面倒くさいよな。俺だったら絶対に音を上げるけどなー。うちの兵士たちは、本当に凄いな)

 そして、ケイト王女の髪の毛を見つけて持ち帰った後は、ベテランの職人たちが数人掛かりで、その髪質に近い色・見た目・重さ・触り心地の鬘を作ることに心血を注いだ。

 レオに直接被せてみて、違和感がないかどうか、ケイト王女の弟のように見えるかどうかなどを何度もチェックし、また作り直し、という工程を幾度も繰り返した。

 そしてやっと完成したのが数ヶ月前。

 そこから、レオ自身が何度も被って、その状態で魔物相手に戦闘を行う想像をして動いたり、女相手に戦う想像をして動いたり、ということをシミュレーションし、ようやく最初の遊撃をしたのがつい二日前のことだった。その日は運悪く敵兵と遭遇できなかったのだが、昨日、遊撃を始めて最初の獲物が夢にまで見た復讐の相手だったのは、本当に運が良かった。

 赤髪の鬘は、予想以上に上手く機能した。明らかに女たちはケイト王女を彷彿とさせる髪の色に動揺していた。

(まぁ、三人目のまだ幼い女にどれくらい効いたかは知らんが……)

 まだケイト王女に直接会ったことが無い可能性もある幼い女だと、効果が薄いかもしれない。しかし、そのような経験値の低い女であれば、鬘のアドバンテージ無しでも何も問題は無かった。

(さて、今日は南側を回るか)

 今日は、ショタ国の斥候は森の北部から開始している(当たり前だが、王家の者たちには自国の兵士たちの動きは筒抜けだ)。北部から中央、そして南部、という順番に見回り、その後城壁内に戻ってくるので、レオは南から回ろうと思っていた。

 魔物は、森のどの部分かによって、その数も強さも変化する。中央は魔物がほとんどおらず、いたとしても弱い魔物ばかりだ。南部は、魔物の数が中央よりも多く、更に中央の魔物よりも少し強い。一番厄介なのは北部で、魔物の数も強さも中央や南の比ではない。だから、森の中で北部だけは、女たちと同程度に魔物も警戒しなければいけなかった。

 ただし、千年に一人のショタと言われるレオにとっては、北部の魔物も大したことは無かった。森で襲われた五歳のあの日以来、戦略的に国外へ一切出なかったレオは、二日前、五年振りに国外に、そして森に行ったが、そこで生まれて初めて魔物と戦ってみた時に、北部の魔物を五十匹ほど特に苦労も無く殺すことが出来た。レオにとっては、単純に武力で制圧が出来ず心を動かさなければいけない女たちの方がよほど面倒だった。


「キャアアアアーーー!」

 レオが南部へとたどり着くと、女の悲鳴が聞こえた。

(ビンゴ! 今日もツイてる!)

 レオは声が聞こえた方へ全力で走っていった。

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