「お母さまの声! こっちの方から聞こえたけど……お母さま?」

 母の声を聞いたイヴが歩いて近付いてきた。

 そこにイヴが見たのは、蹲って泣いている赤髪の少年だった。

「!」

 絶世の美少年だった。お姉さん国にも美人は大勢いるが、その少年は男であるにも関わらず、今まで自分が出会ったどの女性よりも美しかった。思わず見とれてしまうイヴ。

 本来なら、男は注意しなければいけない存在のはずだ。しかし、その少年は、見るものを即座に魅了してしまう。イヴは、警戒する機会を逸してしまった。

 ぽーっと見とれていたイヴだったが、はっ! と我に返り、少年に質問する。

「こんにちは。えっと、この辺で、お姉さんたちを見なかった? あたしよりも少しだけ背が高い二人のお姉さんなんだけど」

「ひぃっ!」

 イヴの姿を見て、明らかに怯えた様子の少年。

「お姉ちゃんも、ボクのことをいじめるの?」

 潤んだ綺麗な瞳。その身体は恐怖に震えている。触れば壊れてしまいそうな繊細な美少年に上目遣いで見つめられると、本能的に守りたくなってしまう。

「大丈夫よ。あたしはそんなことしないわ」

 イヴは、「よかった、あたしと同じくらいの年齢の子かな? この子はあたしを攻撃したりしないわ」と思い、ホッとした。

 イヴは少年に事情を尋ねた。

「こんな所で、どうしたの、僕?」

「あのね、二人のお姉ちゃんが来て、ボクのことをいじめたの。それで、必死に逃げて隠れたら、二人はボクを探しにどこかに行っちゃったの」

 思い出すだけで怖いのか、話す少年の声は震えていた。

 無垢な少年の怯えた様子を見て、「お母さまたちったら、こんないたいけな子を怖い目にあわせちゃったのね」と、関係者として責任を感じるイヴ。上目遣いで見つめてくる少年の潤んだ綺麗な瞳を見て、思わずその頭を撫でながら、

「もう大丈夫よ。あたしが守ってあげるから」

 と言った。

「本当?」

「ええ、本当よ」

「よかった! えへへ」

 無邪気な笑顔。思わず心が動いてしまいそうになる。

 その時イヴは、「いけない、そう言えば、お母さまが「男と会ったら、心を動かしてはいけない」と言っていたような……」と思ったが、少年が、

「ねぇ、お姉ちゃん?」

 と話しかけて来たため、

「なぁに?」

 と答えて、また少年へと意識を集中してしまった。

「あのね……ボク……お父さんが、戦争で死んじゃって……一人ぼっちなの……」

 切なげな表情で話す少年の言葉に、思わず胸が苦しくなるイヴ。

 何か言わなければ……そう思った時に、少年が言葉を続けた。

「お姉ちゃん……お願い……ボクのお姉ちゃんになって欲しいの」

「えっ!?」

「お姉ちゃん……ダメ……?」

 上目遣いで見つめてくる少年の潤んだ瞳。

 それを見た瞬間、イヴは「キュン」としてしまった。

 身体が輝き出し、足元から消滅していくイヴ。

「こ、これは……!?」

 イヴは、「何か変だ……! 何でこの子は、一人でこんな森の奥にいたんだろう!?」と、ようやく疑問を抱いた。

 レオは内心ほくそ笑み、しかし表には出さず、相変わらず純真無垢な少年を演じ、

「どうしたの!? お姉ちゃん!? 大丈夫? やだよ、お姉ちゃん! どこにも行かないで! お姉ちゃんがいなくなったら、ボク、ボク!」

 と、涙を一杯溜めて、イヴに抱きつく。

 その姿に、さらにキュンとしてしまうイヴ。先ほどよりも、身体が消滅するスピードが上がっていく。

 イヴは焦って、「いけない! このままじゃ消滅しちゃう! ……え? 消滅? ……お母さまたちが姿を現さない理由って、そんな……まさか……!?」と、ようやく目の前の少年が元凶であることに考えが及ぶ。

 しかし、既に足はほとんど消えかかっていた。このままなら、全身が消えるのも時間の問題だ。

 だがレオは、攻撃の手を休めず追い討ちを掛けて一気に消してしまおうと思った。

(女たちに情けなど無用なのだ。この汚らわしい生き物たちには)

 レオがイヴに止めを刺そうとした瞬間――

 ――イヴの身体が発する光とはまた別の光が現れて、余りの眩しさにレオは思わず目を閉じた。

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