もうそろそろ戻ろうかと思い、来た道を戻ろうとしたときに、レオ達は気付いた。道に迷った、ということに。

 レオも馬鹿ではないので、何も考えていなかった訳ではない。レオたちが暮らすショタ国を取り囲む城門はそこそこの高さがあり、森の中からでも見えると踏んでいた。が、森はそんなに甘いものではなかった。生い茂った木々は外界の景色を全て遮断し、見えるものと言えば、青々とした緑だけだった。

「やや! 道に迷ったな! でも、諦めないぞ! 俺、頑張る!」

(やたら前向きなマイクは、こういう時に頼りになるな。まぁ、それは精神的な支えになるとか暗くならないで済むとか、そういう意味であって、決して“どうやったら帰れるか”という問題を解決する能力は一切期待していないけど)

 すると、いつも二人の後をついて来るだけの引っ込み思案のジョシュアは、信頼していた二人も帰り道が分からないと判明するやパニックになった。

「ヤダー! おうち帰るー! わぁ~ん!」

 と、ジョシュアは当てずっぽうで前も見ないで、走り出した。

「あっ」

 とレオが思わず声を上げ、直後に起きる事態が予測できてしまったが、時既に遅し。

 予期した通り、ジョシュアは見事に転んでしまった。

 そして、冒頭へと戻る。


 膝を擦り剥いて泣き出したジョシュアに対して、レオが慰めていたが、泣き虫なジョシュアは一向に泣き止む気配がなかった。

「ひっく……ひっく…」

「おい、ジョシュア。いい加減にしろよ。そうじゃないと……」

「待て、レオ! 何か聞こえないか?」

 あまりにも泣き止まず、さすがに切れそうになったレオの言葉を、何かを察知したマイクが遮る。

「……本当だ! これは……足音……!?」

 足音はどんどん近付いてくる。

 大人たちが、夜更かしや悪戯など、悪さをする子どもを脅かす時に使う言葉は二つある。

 一つは、『悪魔が来て食べちゃうぞ』というものだ。

 そして、もう一つが――

「あら、可愛い♪」

「本当! こんなところで、男の子たちに会えるなんて!」

 ――『女が来て殺されるぞ』である。

 目の前に現れた、簡易タイプの鎧に身を包んだ十七~十八歳ほどに見える巨乳美少女二人の笑顔を見ながら、レオは大人たちの言葉を思い出していた。

「お姉さんたち……誰?」

 今まで何度も大人たちから脅し文句として聞いて来た、悪名高い「女」を生まれて初めて目の当たりにして、さすがのポジティブマイクにも緊張が走っているようだ。

(マイクが「頑張る」という言葉を使わずに初対面の人と言葉を交わすのなんて、生まれて初めて見た。いや、よく考えたら、初対面の人と話すのに何でコイツは毎回「頑張る」と言ってるんだ? って、問題はそこじゃない。この人たちは……?)

「あたしたち? あたしたちは、お姉さん国の人だよ。今日、すごく天気が良かったでしょ? だから、ハイキングしようと思って、森の中にやって来たの!」

「そろそろ帰ろっか~って話してたんだけど、泣き声が聞こえてさ。『もしかして、誰かが魔物に襲われているんじゃ!?』って思って、やって来たわけ。見たところ、魔物じゃなかったみたいで安心したけど、そっちの子は、転んじゃったのかな?」

 驚いて泣き止んでいたジョシュアだったが、そう指摘されて、思い出したかのように、また泣き出した。

(いや、驚いて痛みが止まるなら、その程度の痛みだろうがよ! 大人しく泣き止んどけよ!)

 と、心の中で突っ込むレオ。

「どれ、お姉さんに見せてごらん。あら~、痛かったね~。でも、大丈夫! お姉さんに任せて! 癒やしの精霊よ、傷付き倒れた哀れな者を癒やす力を我に貸したまえ。『おねヒール!』」

 すると、患部にかざした手が白く輝きだし、その光が患部を包み込んだ。

 光が消えた時には、傷は無くなっていた。

「スゲー!」

 生まれて初めて見る魔法に、口をあんぐりと開けて驚くレオとマイク。

「どう?」

「もう痛くないよ! お姉ちゃん、ありがとう!」

 ようやく泣き止んだジョシュアが、笑顔で女に礼を言う。

「ボクたちは、どうして森の中にいるの? あたしたちみたいに、ハイキング?」

「探検に来たんだ。そしたら、迷子になっちゃって……」

「そうだったのね! じゃあ、ショタ国側の森の出口まで連れて行ってあげるわ!」

「本当? ありがとう!」

 傷を治してもらったことですっかり打ち解けたジョシュアが、普段からは考えられないほど饒舌になっている。

 前をジョシュアと金髪ポニーテールの女が手を繋いで歩き、後ろをマイクとレオを両脇に従えた青髪セミロングの女が手を繋ぎながら歩く、という構図で歩き始めた五人。

 好きな食べ物や好きな遊びといった、他愛も無いことを話しながら歩いて行く。

(みんなは「お姉さんたちは怖い人たちだ、見たらすぐ逃げろ」って言うけど、良い人たちじゃん!)

 予想と違い優しい様子の女たちに、レオは胸を撫で下ろした。

「ほら、見える? ここを真っ直ぐ歩いていったら、森を抜けるわ」

 気付けば、木々の間から僅かに城壁が見えた。

 三人とも、たった半日しか経っていないにも関わらず、数週間ぶりに故郷に戻って来たかのような、深い安心感を覚えた。

「お姉ちゃん、本当にありがとう!」

「お姉さん、ありがとう!」

「ありがとう!」

 三人がお礼を言うと、

「良いのよ。可愛い男の子たちが困っていたら、助けないわけにはいかないわ」

 と、優しく微笑んだ。

 すると、青髪セミロングの女が、鎧の胸当てをじっと見ているマイクの視線に気付いて、

「もう、この子ったら、あたしの胸ばかり見て。エッチ♪」

「ち、違うよ! お姉さんたちは何で鎧を着てるのかなって思ってさ」

 顔を赤くしながら、マイクが否定する。

「この森には魔物が出るからよ。でも、今は邪魔ね」

 そう言うと、二人とも胸当てと篭手を手際良く外してしまった。

 すると中から胸元の大きく開いた布の服が現れ、青髪セミロングの女はマイクに、金髪ポニーテールの女はジョシュアにそれぞれ近付き――

「せっかく仲良くなれたのに、お別れしないといけないなんて、寂しいわ!」

「もう転んだりしないでね。またジョシュア君が怪我したらって思ったら、あたし、胸が苦しくって、耐えられない!」

 と言いつつ、二人を優しく抱き締める。

「お姉さん! な、何か当たってる……! お、俺、気にしないように頑張る!」

「あわあわあわ……お、お姉ちゃん……!」

 真っ赤になって、じたばたするも、ぎゅっとされて柔らかな身体に包まれて動きを止める二人。

 どうやら、その感触を堪能しつつ、初めて嗅ぐ甘い香りに脳まで蕩けそうになっているようだった。

(でも、俺はもっと幼い女の子の方が好みだな。あ、でも、「この二人がもし幼かったら」って想像すれば、イケるかも……)

 と、レオが思った、その時――

 ――突然マイクとジョシュアの身体が輝き出した。

「え?」

「何……これ!?」

 見ると、二人の身体が、足の方から少しずつ消えていく。

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