第28話 レジスタンス
それは突然だった。
神と崇められる氷の竜がその氷の玉座にいる限り壊れることの無いこの国を覆う永劫不朽の氷蓋に亀裂が入り、その亀裂から穴が生まれ、一匹の竜と女の人が──────
「ちかれた」
「あ!こら!まだお着替え出来ないんだから竜の姿でいなさいって言ったでしょ!」
……訂正、二人の姉妹がウチの目の前に空いた穴から落ちてきた。
ーーーーーーーーーー
「えぇっと、それじゃあ改めて。私はルシィーナ、そしてその子はー……」
「もふ、もふもふ」
「……ノートゥーン、私の妹です。すいません、その子触り心地がいい者が好きでして、許してあげてください」
「あはははは……大丈夫やでー」
ぴょこぴょこと金色のもふもふとした耳を動かしながら、自分の尻尾に抱きつくノートゥーンを見てそう笑う女の子へと、ルシィーナは深く頭を下げる。
「それじゃウチも。ウチはカナイロっちゅーもんや。ほらお嬢ちゃん、そろそろ離れんとお姉さんが寂しそうにしとるでー」
「んえー……もっとモフモフしてたいー。でも分かったー」
「お、偉いなぁ。ほな今度この国の美味しいもんを食べさせてやらんとなぁ」
「わーい!美味しいもんだー!」
「ふふっ♪この子ホンマ可愛ええなぁ」
「にしても、ノーちゃんが地面に潜ったと思ったらその下にこんな街があるなんて、本当にびっくりしたよ。ね、ノーちゃん」
「うん。竜の気配が地下にあるから一か八かで地面を殴ったけど、まさかこんな大きな街が地下にあるとは思ってなかった」
カナイロに案内されながら不思議と冷たくない氷の階段を降りながら、二人は階段の内側の方にある街を見てそう感想を言う。
そんな二人の前に広がるその街は、曇りの無い深い青色の氷で造られた建物で出来た街がすり鉢状に広がっており、天井は青く煌めく氷の蓋に覆われていた。
しかし反対に、すり鉢状の街の底には異様な雰囲気を放つ四角く恐ろしい程に深い青色の大きな氷が鎮座している。
「でも天井を突破した場所にカナイロさんが居てくれて本当に助かったね」
「もし居なかったらって考えるとゾッとするよー」
「アハハっ!んな大袈裟な事はしとらんよ。んまぁ確かに、ウチが居らんかったらちーっとだけ危なかったかもしれんけどな?」
ケラケラとそう笑いながら言うカナイロを前に、ルシィーナとノートゥーンはついさっきの出来事を思い出す。
ーーーーーーーーー
『むぎゃっ!』
「た、助かっ……た?」
地面へと突き刺さったノートゥーンの上で、ルシィーナは伸びながらも今しがた突き破って入った氷の地面を眺めつつ、生きている事の喜びを噛み締めていた。
『シ、シィー……喜んでる所申し訳ないんだけどどいてくれないー?重いんだけどー……』
「えー?もうちょっとだけもふもふさせてよぉ」
『いつもならいいけどさぁ。僕も疲れてるんだよ?それに……』
「あ、あんたら……い、今天井から」
文句を言いながらもルシィーナを乗せたままズボッと地面から顔を引っこ抜いたノートゥーンは、目の前で固まっていたもふもふの尻尾と獣耳を持つ金髪の女の人へと目をやる。
「あっ。えー……っと、こ、こんにちは!私はルシィーナ、この子はノートゥーンって言うんです!今はこの子こんな魔物みたいな見た目だけど、すっごくいい子で──────」
「お願いやっ!ウチに、いやウチらに力を貸してーな!」
そしてそんな女の人、カナイロは慌てて自分達が敵ではない事を伝えようとしていたルシィーナに深く頭を下げたのだった。
ーーーーーーーーー
「そういや、結局あの後やってきた全身真っ青な三角頭巾を被ってた人達ってなんだったの?」
「あー、あの如何にもヤバそうな雰囲気の奴らやろ?アイツらは青氷教会つってな?街の底にヤバそうな氷があったやろ?あの中に寝とるこの国の神を崇めとる集団や」
「なるほど。というか大丈夫そうな気がしたから着いてきたけど、今更ながらカナイロは大丈夫だよね?その、実は青氷教会の人とかじゃ……」
階段を下り、街中から路地裏へと入った所で唐突に現れた扉の前で立ち止まったカナイロに対し、不安そうにそう訪ねたノートゥーンにカナイロは悪そうな笑みを浮かべ扉へと手をかける。
「ウチか?フッフッフッ……「ウチら」はなぁ──────」
「お!カナイロ戻ったか!」「お姉ちゃんおかえりー!」「あらぁ?お客さんかしらぁ?」「カナイロちゃんその子達は?」「おっと、これはまたべっぴんさんが二人も」
「この国の人達をあの愚神、氷の天蓋から解放するレジスタンス「白雪の氷狼」や!そして改めてようこそ、神に自由を奪われた氷蓋の国ヒャルコアカルテコへ!」
カナイロが開けた扉の先に居たカナイロと同じ様に耳や尻尾を生やした人達を前に驚く2人へと、カナイロはそう自らとその仲間達を紹介するのだった。
ーーーーーーーーーー
「耳がなーい!」「うひょお!尻尾もねぇ!」「なんだありゃ?背中からなんか生えてる!」「あっちは背がたけぇ!」
「えーっと、カナイロさん?これはー……」
「もふ、もふもふいっぱい……!」
「ハハッ!記録にある限り、二人は初めて外からやって来た人やからなぁ……堪忍したってな。っと、着いた着いた。ささっ、二人共遠慮せず座ってもろて」
「えーっと、でも……」
「カナイロの言う通り、遠慮せず座ってくれ。さて、それじゃあこれがどういう状況なのか説明をして貰おうか、カナイロ」
「はいはい」
カナイロに先客の居るテーブルに相席するよう言われた二人は、先客の細身だがしっかりした体付きの男にそう言われ躊躇していた二人が同じ席に着くと、男はそう言ってカナイロに事情を話させ始める。
「……成程なぁ。まさかカナイロのやってた「掘ればそのうち外に出れるはずやぁ!」がこんな形で成果を出すとは」
「うっさいわいっ!」
「だがこれで青氷教会の連中が騒がしかった訳が分かったな。さて、事態の把握を最優先にするべきだったんで後回しにさせて貰ったが俺は白雪の氷狼リーダー、バリーだ。氷蓋の外から来たお客人、我ら白雪の氷狼は君達を歓迎しよう」
「なんてカッコつけて言うとるけど、こいつはウチの幼なじみでな。白雪の氷狼リーダーなんてやけどホンマは怖がりでなぁ、気楽にバリーと呼んでやってーな」
「ちょっ、カナイロ!やめっ!」
「ハッハッハッ!テメェに威厳なんてハナからねぇよ!諦めろ!」
「んなぁっ?!テメッ、ギンイロ!」
「思ったよりも優しそうな人だね、シィー」
「ふふっ♪そうだねノーちゃん。でも……カナイロさん?ひとつ、いいですか?」
「ん?なんやシィーナちゃん、遠慮せずなんでも聞いてーな」
「なんで私達を、ノーちゃんを真っ先にこの人の所に連れてきたんですか?紹介が目的……って訳じゃ無いですよね?」
今までののほほんとした雰囲気は何処へやら、鋭い光を目に宿してルシィーナはカナイロへと明確な敵意を持ってそう尋ねる。
「そりゃここで一番偉いやつやからな!……なんて、信じるわけないか。ええで、本音話したる。合った時にも言うたけど、ウチはアンタら二人に手を貸して貰いたいと思っとる」
「それは貴女達の活動に、ですか?」
「せや。二人が砕いて入ったあの氷蓋はそう簡単に砕けるもんやない。仮に今回みたいに砕けたとしても、あんたら隠した時みたく青氷教会が来るとどうしようもあらへん」
「歴史上、1度だけあの氷蓋に穴を開けて数人が外に出たという記録はあるが、それでは意味が無い。我らの目的はこの国ヒャルコアカルテコに暮らす民全員を氷蓋から解放する事なんだ」
「その為には、道中見たやろ?あの街の底に鎮座してた神座、でっかい氷ん中におる神様を倒さなならんねん。そしてあんたらはその神様が作った氷の蓋を砕いた。その力を見越して、ウチらに力を貸して欲しいんや」
「そういう事でしたか……どうする?ノーちゃん」
「僕は構わないよ。というか、あの氷の中に居るやつに僕達も用事があったし」
「ほ、ホンマか?ウチらに手ェ貸してくれるんか?」
「ノーちゃんがそう言うなら私としてはなんの反対もないですし、喜んでお手伝いさせてもらいますよ」
ノートゥーンとルシィーナが顔を見合わせてそう言ったのを見ると、カナイロは嬉しそうにぱぁっと明るい笑顔を浮かべながら尻尾を勢い良く振る。
「でも作戦を起こすなら早い方がいい。竜は自分の住処、領域に踏み込んだ他の竜の存在を感知する事ができる。だから僕の存在はもうバレてる」
「なるほどなぁ……でも、その点についてはモーマンタイや!」
「え?それってどういう……」
「ふっふっふっ……!なんせウチらは明日、その神様ん所に殴り込みに行くんやからな!」
「「えぇぇぇえ!?」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます