第25話 手掛かり

「ったく、貴女方お2人が逮捕されたと聞いた時は本当に焦りましたわ」


「ごめんねファトルちゃん。心配かけちゃって」


「次は犯人を絶対捕まえる」


「院長さんがせっかく無罪を主張して下さったのですから、ノートゥはそんなに血気盛んにならないでくださいまし!」


「ちぇー」


「ったく、シィーナさんも何か言ってあげてください」


「んー、そう言われても私も逃がした事が悔しいしなぁ」


 孤児院前での戦闘の翌日、朝食を取っていた二人の元へやってきたファトルメイトは昨日の一連の事件に関してそんな調子の2人にため息を着く。

 ちなみに、あの二人の詳細は未だわかっておらず、王都の警戒網が強まっているのが現状である。


「そういや、図書館司書が竜についての文献まとめ終えたのでお2人をお呼びくださいと連絡がありましたわ。今日は私も暇ですし、3人で有用な物を探しませんこと?」


「ファトルちゃんいいの?」


「良いも何も、目を離したらまた二人は何かしでかしそうですもの。お2人が王都にいる間はできる限りお目付け役として私がついてるようお父様に言われましたもの」


「それってどちらかといえばファトルが迷子にならないようにじゃ……」


「何かいったかしらノートゥ?また昨日みたいにしますわよ?」


「イエナニモ」


「また昨日みたいにファトルちゃんにオシャレしてもらったらノーちゃん?私達がこういう事できる機会はあんまりないんだし」


「少し、少しくらいなら僕もいいよ?でも昨日みたいにあんなふりふりの奴とかだけは嫌なの!ほらご飯も食べたし早く調べに行こ!」


「「はーい」」


 昨日の逮捕されかけた後のショッピングを思い出し身を震わせ、そう言ってそそくさと宿を出るノートゥーンの後を二人はおいかけるのだった。


 ーーーーーーーーーーー


「さて、とりあえず司書さんが用意してくれてた分は読みきったわけだけど……」


「竜に繋がる明確な情報は殆どありませんでしたわね」


「だねぇ。ほら、ノーちゃん起きてー」


「んみゃっ?!ねっ、寝てたっ!?」


「そりゃもう2冊目でぐっすりよ」


「うぅ……シィー、ごめんー」


 ルシィーナに耳をふにふにと触られ、がばりと勢い良く身を起こしたノートゥーンはしょんぼりとしつつルシィーナに寝てた事を謝る。


「ふふっ、気にしないでノーちゃん。それにあんまり収穫無かったし」


「あ、そうなんだ。残念」


「ですがやっぱり竜に関する話は御伽噺やら伝承やらが多かったですわね。お2人の故郷にはそういった物はありませんでしたの?」


「僕達の故郷の?なんかあったっけシィー」


「御伽噺とか伝承かぁー……んー……特にないなぁ。あっ、でもあの子守唄は他じゃ聞かないかも」


「子守唄……ですの?」


「うん。ノーちゃんが小さい頃は一緒に寝る時よく歌って上げてたんだ〜♪可愛かったんだよ「お姉ちゃんお歌歌ってー」って夜な夜な私が作ったぬいぐるみ抱っこして」


「ちょっ、シィー!」


「あら、ノートゥにもそんな可愛らしい時期が」


「う、うるさいなぁ……!僕がまだちっちゃい頃の話なんだから仕方ないでしょ!」


「はいはい♪それで、どんなのだったんですの?」


 意外なノートゥーンの過去に驚きつつも、食いかかってきたノートゥーンを軽くあしらい、興味津々と言ったようにファトルメイトはルシィーナにそう訪ねる。


「えっとねー「青雪降り散る白雪原、キラリと光る氷天井、もふもふさんがひーふーみー、仲良く一緒に暮らしてる。夢見る竜と暮らしてる」だったかな?」


「へー……って、ん?シィーナさん、その、最後の方の歌詞で……」


「最後の方の?夢見る竜とー……あっ!ノーちゃんっ!」


「……まさかこんな近くにヒントがあるとは」


「でも流石にそれだけでは場所どころか本当に竜が居るかどうか……」


「いや、正確な場所は分からないけど僕達の故郷に竜がいるのは間違いないかもしれない。そうだよね?シィー」


「うん。氷晶大峡谷の向こう側なら」


「ちょっ、ちょっとお二人共!私を置いて話を進めないでくださいまし!一体何が分かったんですの?」


 ファトルメイトの指摘により、そんな幼い頃の思い出にヒントがあった事に気がつき、早速話し合い始めた二人へとファトルメイトは何が分かったのかを訪ねる。

 そんなファトルメイトにルシィーナはどういう事なのかを丁寧に説明したのだった。


 ーーーーーーーーー


「うぅ……先を急ぐわけでも無いのでしょうし、もう少しゆっくりしていってもいいじゃないですかお二人共……」


「まぁ確かに先を急ぐわけじゃないけど、一緒に居ればいるだけ別れは辛くなるからねぇ」


「うぅぅ……」


「それに、一生会えないって訳じゃないし。その……また遊びに来る」


「うぅ……言質取りましたわよノートゥ。絶対、絶対また来てくださいまし!約束ですわよ!」


「はいはい」


 あれから数日後、カルラドアコア行きの船が出る北西の港町へと公爵の好意で送って貰った二人は、ファトルメイトと別れの前の一時を過ごしていた。


「私も私でお二人の力になれるよう、竜について色々と調べてみますわ!」


「お、頼りになるねぇ。でもあんまり迷子にはならないようにね?」


「ど、努力しますわ!」


「カルラドアコア行き定期船、間もなく出港致します!お乗りの方は急いでご乗船ください!」


「っとそろそろ行かなきゃ。それじゃあまたね、ファトルちゃん、それにユウメシスさんも」


「お世話になった。次は土産のひとつやふたつくらい持ってくるね」


「楽しみにさせて頂きます」


「どんな竜だったか、お話聞かせてくださいまし!」


 大きく手を振るファトルメイトと深く頭を下げたユウメシスに別れを告げ、二人は目的の為に故郷のあるカルラドアコア行きの船へと乗り込むのだった。

 そして別れから一ヶ月後─────


「んっ……んんっ…………もう朝?」


「んみゅう……おにゃかいぱー……へへへ……」


「ふふっ♪可愛いなぁほんと。ほら、ノーちゃん起きて。もう朝だよ」


「んん……もうあさ?」


「朝だよノーちゃん。ほら、いい天気だよ!さ、冒険に行こう!」


 懐かしい身に染みる寒さとその陽の光を浴び、一年ぶりに戻ってきたコラルジハルラの朝、宿屋の窓を開け、全てを凍てつかせる風に緋色の髪をなびかせ、ルシィーナはノートゥーンへと手を伸ばした。

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