第19話 令嬢

「うぬぁぁ……」


「いやぁー、金板って組合でお金に変えないと使えないんだねぇ」


「メガ串焼き食べたかった……」


「ごめんねぇノーちゃん」


 道中の宿街にて、お金に余裕があると思っていた二人は報酬の金板を換金し損ねた結果、元から持っていたお金だけで過ごしていた。


「でもほら!今日は宿で寝泊まり出来るし、次の街に着けば換金出来るから!ね!」


「そしたら贅沢していい?美味しいのいっぱい食べていい?」


「うんうん!いっぱいご飯食べようねー!」


(所で、さっきからつけられてるみたいだけど。シィー、どうする?ここで潰す?)


(流石に衆目の前で何もされて無いのにこっちから攻撃するのはまずいし、少し路地裏辺りにでも引き込んでから締め上げよう)


(ん、分かった)


 呑気な会話をしながらも自分達をつける者がいる事に気づいた二人は、そうテレパシーで会話した後に取り押さえるべく裏路地へと入る。

 そして路地裏に入って近くの建物の上にノートゥーンとルシィーナが隠れ、少し遅れて通路に入って来たキョロキョロしている二人に乗っかり取り押さえる。


「くっ!このっ……離せっ!」


「くそっ!いきなりこんな事して許されると思ってるのか?!っておい!漁るな!」


「許されると思ってるよー。だって、こんなのが出てくるんだもん」


「こっちからも出てきたよー」


 そう言ってすぐさま取り押さえた男達の手荷物を漁っていた2人の手には、長く太いロープと大きな麻袋、そして大人しくさせる為であろう何かの薬剤が握られていた。


「このロープは?」


「ロ、ロープくらい持ってても、何もおかしくないだろ!」


「んじゃこの人一人は入る麻袋は?」


「か、買い物に使うんだ」


「なら最後に、この薬は?」


「……ポーションだ」


「ふーん……」


「ほら、別に怪しくなかっただろ?分かったんなら離せよ。今なら許してやるからよ」


「それは申し訳無いことをしました。でもその前に、ノーちゃん」


「はーい」


 ーーーーーーーーーーーー


「くっ……!殺しなさい!恥ずかしめを受けるくらいなら死ぬ方がマシですわ!」


 多分地下であろう窓の無く薄暗い部屋の中、唯一の明かりであるランプの光の元手足を縛られた金髪の少女は目の前の男に向かってそう叫ぶ。


「はっ。お前は大切な商品なんだ、殺す訳がねぇだろ。さて、もう2、3時間くらい立つってのにあいつらは何処まで買い物に行ってんだか……っと噂をすれば」


「戻ったぜアニキ」


「わりぃ、遅くなった」


「おう。随分買い込んだ……って訳じゃ無いんだろう?」


「へへっ、そいつ以上の上玉を見つけてよ」


「2人組だったんだが片方はデカすぎて袋に入らなくてよ、物陰でクスリ飲ませて寝かせてきた。ほら、お前の後輩だ、面倒見てやれよ」


「こ、こんな小さい子まで……!貴方達に恥は無いのですの?!」


「恥で食って行けるならこんなことしねぇよ。んで、もう一人デカすぎて置いてきてんだったか、そいつどうすんだ?こいつの身内とかなんだろう?」


「それなら、この後箱にでも詰めて─────」


「箱にでも詰めてどうするつもりなんですかー?」


 どこからかそんな声が聞こえたかと思うと、次の瞬間杖で天井を砕き割ってルシィーナが部屋の中へ乗り込んでくる。

 そして杖を大きく振り回し、薙ぎ払うようにして刃のついている方ではなく峰の方で殴り、三人中二人を気絶させる。


「あ、アニキ!?て、テメェ薬で寝てたはずじゃ!いや、それよりもどうしてここが分かった!」


「どうしてって……ノーちゃんに場所教えてもらったからだけど?」


「ノ、ノーちゃん?お前の妹の事か?!ふざけるな!お前の妹ならここに!それに、お前は気絶させた後確かに俺が睡眠薬を飲ませた筈だ!」


「だって私は飲んでないもの。さて、説明する義理もないしっ!」


「んぎゃっ!」


「これでいいよね?ノーちゃん」


「ん、バッチリ。後はこいつら詰所に引き渡せばお金ができる」


「うわぁっ?!あ、貴女起きてらっしゃったの!?」


「ん、だってさっきまでこの体は分体だったからね」


「ぶ、ぶんたい?」


「まぁノーちゃんには殆ど毒が効かない力があるんだよ」


 最後の一人を刃の部分を覆う鞘で叩き伏せて気を失わせると、軽く1撫でして起きたノートゥーンと軽くそう会話した後、驚く金髪の子にそう適当に答える。

 ちなみになぜルシィーナが眠らずこの場所に来れたのかというと。

 ルシィーナの口に忍んでいたノートゥーンの意識がある小さな本体がルシィーナの代わりに毒を飲み、その後先に持っていかれた分体の置かれたこの部屋まで本体が本当は毒を飲んでないルシィーナを案内しただけである。


「さてと、それじゃあ私達は行くから、気を付けて帰るんだよ?」


「ちょっ、ちょっとお待ちになってください御二方!」


「ん?何か用?」


「お礼!お礼をさせてくださいまし!」


「「お礼ー?」」


 ーーーーーーーーーーーー


「「いっただっきまーす!」」


「あ、あのー……ワタクシが言うのもあれですが、こんな物で良かったのですか?お礼ならもっと他にも……」


「ご飯こそ最高のお礼。美味しいものに勝るものはないよ」


「ねー!お金とか権利とか、そんな物よりこういったその時々でしか味わえない物を一番美味しく味わえさせてくれた事が一番ありがたいよー」


「そ、そうですか……やはり冒険者にはこういった方々が多いのでしょうか?」


 机に並んだステーキや揚げ物、サラダに果物の盛り合わせといったこの街で食べられるであろう美味しいものに2人は囲まれていた。

 あの後、何度も是非お礼をと食い付いてきた金髪の子を断りきれず、ならばという事で美味しいご飯と宿を二人は用意して貰っていた。


「一宿一飯の恩は大きいからね。僕ら冒険者への恩はこれくらいが丁度いいんだよ」


「そうそう。それに私達は冒険者、最低限の金銭は当り前とはいえ明日をも知れない身なんだから、少なくとも私達はやっぱりこういったものの方が嬉しいかな」


「し、しかし!やはり公爵令嬢が命を救って貰ったにもかかわらず、料理と宿しか礼をしてないなどと……」


「まぁまぁ、これでも食べて落ち着いて」


「んむっ?!あ、美味しい」


「ふふっ。でしょ?所で貴女はなんでここに?見た所というか公爵令嬢って言ってたし、ここに一人で居るような身ではないでしょう?」


「えぇっと、実はその……私王都でお父様お母様と買い物中はぐれてしまいまして、そのまま迷子になってる間に攫われて、気がついたらここにといった具合でして……」


 恥ずかしそうにそう言う金髪の子を見て、二人は少しだけギョッとした顔になった後、声こそ出さないが口とお腹を抑え、肩を震わせ笑い始める。


「し、仕方ないじゃありませんか!そんな胸を張って言える事じゃありませんけど、私方向音痴なんですの!それも屋敷で迷子になるくらいの!」


「ふふっ!それは凄いねぇ」


「関心しないでくださいよ!というか、私の事はどうでもいいのです!お二人はこれから何処へ?」


「竜の伝承を調べに王都の図書館へ」


「竜?ですか?」


「そうなんだー。私達竜を追い求めててね、何か手がかりを手に入れようと思って」


「でしたら!私がお役にたてますわ!」


「「ん?」」


「入るだけなら私達サーティアだから、多分大丈夫だよ?」


「いえ!あの図書館には一定以上の位を持つ身元がはっきりした貴族や王族以外使えない、貴重な資料を集めた場所があるんですの!私が居ればそこにも入れますわ!」


「おぉー!それは助かるね!」


「うん。助かる」


「なら決定ですわね!お礼は図書館の利用と王都の宿提供させていただきますわ!」


「ありがとー!それじゃあ私達からは道中の警護と屋敷までの送り届けをさせてもらおうかな?それでいいノーちゃん?」


「もちろん。恩には恩で返すべきだもん」


「決まりですわね!っとそういやまだ名乗って降りませんでしたわね。ワタクシはファトルメイト。ルーノ・アルメニア・ファトルメイトですわ!」


「ファトルメイトちゃん、ファトルちゃんだね!なら私達も、私はルシィーナでこの子はノートゥーン、これからよろしくね」


「僕からも、よろしく」


「こちらこそ、これからしばらくの間よろしくお願いしますわ!」


 がっしりと握手を交わしながら、3人はそう約束を交わしたのであった。

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