第33話:母を呼ぶ声
「何とか、出れたが……どういう状況だこれ」
爆発を盾の効果――聖域で防いだ俺達は、見事あの小部屋から脱出出来た。
山道には爆発に巻き込まれた跡がある。誰も巻き込まれていないといいが……。
いやしかし外の空気うめえ!
「りったん! 見て、もうここ頂上付近だし、先を走る人がいる!」
<ひめの>がそう言って走り出した。
「マジか! くそ、追い付けるか!?」
その瞬間、聞き覚えのある声が前方から響いた。
「今のは……ガラビットか!? あのくそ野郎、前にいる!」
「急ごう!」
俺達が山頂に辿り着くと――そこは何とも複雑怪奇な状況になっていた。
「もう! なんであんたそんなポンコツっぽい見た目なのに足速いのよ!」
「お前が遅えんだよ<ななね>」
そこでは、<ガラビット>が<ななね>を背後から羽交い締めにしていた。
「お前ら! 一歩も動くな!」
<ガラビット>が俺達を見て、そう叫ぶ。
「いや、動くなと言われても……なあひめのん」
「うん……」
俺達は困惑しながら、ガラビット達の背後にある吊り橋へと進んでいく。見れば、<ステラ>が既に渡り終えており、余裕そうにこちらを観察していた。
「<ステラ>さんが一番乗りかな!?」
「じゃあまだ間に合うぞ!」
「行こう!」
「いや、お前ら待てこら! <ななね>が死んでもいいのか!?」
<ガラビット>がそんな事を言ってくるが、意味不明だ。俺らからすれば、二人の争いはどっちでもいい。
のだが……流石に無視するわけにはいかない
「いや、死ぬって大袈裟な。それより、俺ら先行っていい?」
「いい訳ねえだろ! おい、お前ヒーローなんだろ? だったらまた前みたいに助けてみろよ!」
ガラビットがダガーを<ななね>の喉元に突きつけている。いや流石に俺も前みたいにカッとなったりはしない。ここがゲーム的な世界なのはもう十分に分かっているしね。
「うーん。どうしようひめのん」
「……? どうでもいいから早くいこ」
「ですよねえ!」
<ひめの>が何を迷うとばかりに進む。そりゃあそうだよなあ……いやでもドラ吉の時と違ってなんか<ひめの>さん凄くドライじゃない!?
「あはは、良いね! 私は無視して先行きなよ! でもりったんには助けてほしいな~」
<ななね>が嬉しそうにそう笑った。
「いかせてもらいますね、<ななね>さん。もちろんりったんは私と一緒にですが」
<ひめの>がなぜか怖いぐらいの笑みを浮かべる。なんでそんなバチバチに視線を交わしているのこの二人!?
「な、待てよお前ら! そんなことしたら<ななね>のリスナーに嫌われるぞ!?」
ガラビットがまた今さらなことを言うので、俺が呆れた声を出した。
「こちとら無所属だぞ? 他のリスナーの事なんて気にしてられるか」
「ならもっかいななねとダイブしな!」
ガラビットがいつぞやと同じように<ななね>を崖の方へと突き飛ばした瞬間――
「レディの扱いが雑な男は嫌われるよ? って君はそもそもそういうキャラだったね」
俺が走ろうとしたと同時に、山頂にある岩の陰から突如、青髪の男が飛びでてきて崖から落ちそうになった<ななね>を抱き止める。
それは、イベント前に出会ったあのナンパ野郎――<ライル>だった。
「大丈夫かいハニー。いやあ、ダンスバトルをこなしてその後山の中を通ってきたのだけど、間に合って良かったよ」
<ライル>が<ななね>を抱き抱えたまま、笑顔を浮かべた。どうやら、あいつは俺達と同じルートを辿ったようだ。あそこの分かれ道で右を選んでいたらきっと、ここに出ていたのだろうな。
「あ、ありがとう。でもちょっと顔近い」
<ななね>が、鼻息がかかる距離にある<ライル>の顔に対し眉をひそめたのを見て、俺は思わず笑いそうになる。
「嵐牙ライル……! くそ!」
一方<ガラビット>はというと、俺達に背を向けて走り出し、吊り橋を渡っていく。
「追うよりったん!」
「ああ!」
<ななね>にも<ライル>にも今は興味はない。
今なら、まだ三着に間に合う!
「いこう!」
俺達は走って、吊り橋を渡っていく。
既に渡り終えた<ガラビット>がこちらを睨み付けている。
あれ、なんか嫌な予感がする。
それは、俺達が丁度吊り橋の中央部にたどりついた時だった。
「ああ、うぜえ! 一応依頼されたから色々やってみたがよお、やっぱり俺マジでお前が嫌いだわ! そろそろここで死んどけ! じゃあなヒーロー!」
<ガラビット>がそう叫ぶと――
「っ! りったんマズイ!」
「あのクソ野郎!!」
ダガーで吊り橋を支えていた縄を切り裂いたのだった。
「ぎゃはは! 落ちろバーカ! これでミッションコンプリートだ!!」
ガラビットの笑い声と共に、浮遊感。
「うわああああああああ」
「落ちるうううううううう」
「きゅううううううう!!」
背中にしがみついているドラ吉までもが悲鳴を上げながら、俺達は吊り橋と共に落ちていった。
***
・あああああああ!!
・ガラビットのボケええええええ!
・マジで最悪だなあいつ
・あああ……ここまで頑張ったのに
・冷めた
・萎えた
・何とかならんのか!?
・橋落とされて、団長達も絶賛落下中だぞ
・あああ……フィナーレ……
・儚い夢だった……
・いや、待て、おい! お前ら見ろ!!
・……!! 嘘だろ!?
・こんなことってあるのか……!?
***
ああ終わりだ。落下したら間違いなく死ぬだろう。そうしたらゲームオーバーだ。
「くそおおおおおおおここまで来れたのにいいい!!」
「……聖域展開はもう一回できない!? 落下と同時に使えば、着地できるかも!?」
だが<ひめの>は諦めていなかった。
「無理だよ! 玉から光が消えてる!」
「駄目かああああ。なにかないかな!?」
「きゅううううううう!!」
ドラ吉が怯えている。くそ、何とかドラ吉とひめのんだけでも助けられないか!?
と思った瞬間――赤い影が俺達の真下に飛び込んで来た。
それは俺達の落下の衝撃を弱めながら、その背中に乗せる。
それは――
「……
「嘘!?」
「きゅう!!」
そう。それは俺達を洞窟の中で襲ったあのドラゴンだった。
「まさか……ドラ吉、お前が呼んでくれたのか!?」
「きゅい!」
ドラ吉の嬉しそうな声が俺の仮説を裏付けた。ドラ吉のピンチに、母親であるこのドラゴンが駆け付けてくれたんだ!
「ギャルアアアアア!!」
ドラゴンが咆吼と共に、急上昇。俺と<ひめの>は必死にその背中にしがみつく。
あっという間に、山頂へと躍り出たドラゴンの背中の上で、俺は呆気にとられるガラビットを睨み付けた。
「そんなのありかよ……くそ! くそ! なんで落ちて死んでねえんだよ! 死ねよ! 落ちろよ! これじゃあせっかく事前情報もらっていたのが全部台無しじゃねえか!」
そう、落ちた橋のたもとで叫ぶ<ガラビット>の背後に――<ステラ>が迫る。
「事前情報?」
「あ、いや、今の……無しで」
「――お前が落ちろ」
「へ? あ……」
ドン。
ステラがガラビットの背中を蹴り付けると、ガラビットの身体が宙へと投げ出された。
「てめえええええええええ!! 覚えてろおおおおおおおお」
そんな事を叫びながら――ガラビットは奈落へと落ちていった。
「ざまあねえぜ」
俺がそうこぼすと、ドラゴンは山頂へと着地。俺とひめのんが降りると、しばらく俺の背中にしがみ付いたままのドラ吉と視線を交わし、そしてそのまま去っていった。
「良いのかドラ吉。一緒にいかなくて」
「きゅい!」
「そうか」
俺はドラ吉の答えの頷いた。そんな俺達のやり取りを見ていた<ステラ>が口を開いた。
「言葉分かるの?」
「なんとなくだけどね」
「そう。で、どうする? 一番は私、次は貴女達で、その次はなさそうだけど」
ステラがそう言って、神殿の中へと入っていくので、俺達もついていく。
そこには転移装置らしき魔法陣が敷かれていた。
「あの、さっきのどうする……とは?」
俺がそう聞くと、ステラが肩をすくめる。
「フィナーレの話。何するつもり? イベント側は三組のつもりだったから、かなり尺が余るし、それぞれのパフォーマンス時間が増えると思うけど。そっちはそれだけの尺を稼げるパフォーマンスあるの?」
「……ないです。そもそもパフォーマンスも、既存曲をするぐらいしかなくて」
<ひめの>が正直にそう答えた。
俺達にはオリジナル曲なんてないし、仮にあったとしても、それをそんな大舞台で出来るクオリティに仕上げる時間もなかった。
なのでいくつかの有名曲をダンスアレンジにして、<ひめの>がボーカルとダンスをやるつもりだった。俺はこっそりそれを姉から聞いて練習して、当日にサプライズで合わせるつもりだったのだが……
「そう。なら提案。貴女達、私の曲はできる?」
「へ? それは、はい。でも、<ステラ>さんと被るからそれは止めようってりったんと言ってて」
そう。
<ステラ>の曲であれば、ひめのんは完璧に近い。だが当然フィナーレに<ステラ>が出た場合、本人の後にコピーを晒したところで、白けるだろうと思っての判断だった。
「じゃあ、
「こ、コラボですか!? で、でも良いんですか……? 私達無所属ですけど」
<ひめの>がドギマギしながら答えた。おい、どういうことだよ<ステラ>……いや光岡さん!
「所属なんて関係ないでしょ? 私、貴女が私の曲を練習してた動画、見た上で言ってるから心配しないで。リッタについては何の心配もしてないし。貴女も踊れるんでしょ?」
「……ああ」
勿論だ。
ひめのんが万が一<ステラ>の曲をやるとなった時に合わせられるようにと、練習はしたし曲も頭に入っている。
「これは私の為でも、貴女達の為でもないからね」
「へ? どういう意味です?」
「……貴女は誰の為にパフォーマンスをするの?」
「ああ……そうですね。その通りですね。そうするのが一番……
<ひめの>がそう答えると、<ステラ>が微笑んだ。
「じゃあ、大丈夫そうね。さあ、行きましょう。みんな……待っているもの」
そう言って、ステラが転移装置へと入っていく。
「……行こうりったん! フィナーレだよ!」
「……ああ!」
俺達は自然と手を繋いで転移装置へと足を踏み入れた。
フィナーレが――始まる。
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