「好きだよ」
いつも部屋にあるぬいぐるみが彼女らしさで一杯のテディベアだ。
誰にもらったか、は聞いたことがない。聞く必要もない。部屋で見るのは彼女と机と宿題しかないのだから。
薄茶で黒目、ピンクのリボンを首に巻いて、それは鎮座し続けている。
始まりと終わりを知っていると思えば、少しばかり嫉妬が湧き出た。
「テディベア、いいなあ」
「え? あー! 可愛いでしょ、お気に入りなんだあ」
そこまで愛されるテディベアは幸せ者だと思う。
道具だって、心があれば愛される方がいいだろうし、お気に入りなんて言われた日は飛び跳ねるくらい嬉しい。私は、嬉しい。
「意外に高いよね、テディベア」
「そうなんだよぉー。高級なものになると凄いケタだよね」
「ほんとほんと」
いくらか知らないけれど綺麗な毛並みは、お安いモノではないと思う。
ずっと綺麗でいられるなんて、なんて羨ましい。
ずっと変わらずいられるなんて羨ましい。
私たちは勉強をしているのだ。次に繋ぐステップを踏んでいた。
歳を重ねて、ずっと一緒にいられるか分からない。部屋にあげてもらうのも、地元に残るのも、何もかもの未来が分からないまま、私は、ただただ工夫もしないで「遊びにいってもいい?」しか聞けない。
だって、ずっと一緒にいようね、なんて、もう言えないのだ。
もし彼女と幼馴染みで小さい頃から一緒だったら、幼い約束ができたはずで、それは叶えられる可能性のある約束のはずだ。
たとえ妄想であったも幸せな夢を見ていいはず。
「県外の公立うけるからさあ、一緒にいられるのは、あとちょっとだけだねえ」
彼女は言う。
知っていた。
知っていた。
知っていた。
知ってる。
ここで「私も同じところだよ」と言える? お互いに相談せずに、彼女は勝手に決めてしまったこのことを、どうやって止められた?
知らないところで知らない人と友達になるなんて、我慢できない。
どうしてこうなったんだろう、もう少しマシな思考にならないのか。
これしか解決方法がないんだ。ごめんね。
「どうしたの? 包丁?」
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