第56話 王国の伝説級魔道具
部屋から出たシオンはアンと共に玉座の間に移動した。
「『我、王の血を引く者』」
シオンは玉座に手を触れ、言葉を唱える。
すると玉座が後ろに動き、玉座があった場所に一本の杖が置かれている。
その杖は先端に五つの魔力が込められた石、魔石が埋め込まれている長杖。
王国に代々伝わる
『五天魔杖』はその名の通り、五つの魔法を発動させることが出来るアーティファクト。
魔法のスキルを持たずとも五つも魔法を使えるという、正しく伝説級の力を持つ魔道具。だが力が強力な代わりに消費魔力も膨大だ。
「本当は帝国との戦争まで取っておきたかったけど……」
「今は先の事を考えている余裕はありませんね」
「分かってる。アン、警戒をお願い」
シオンはポケットから錠剤が入った小瓶を取り出し、中に入っている錠剤を一粒飲み込む。
「っ、あ、あぁぁ……」
シオンは胸を抑え、苦しみに耐える。
「姫様っ」
「ぁ、はぁ、はぁ。大丈夫。……【千里眼】」
シオンはスキルを発動させる。
【千里眼】の本来の力は視力の上昇。遠くを見たり、相手の一挙手一投足をとらえることが出来るというもの。
だが今回シオンが発動した【千里眼】は通常時のものと能力が異なる。
(かなりの数の騎士が倒れている。けど目立った外傷は無い、気を失ってるだけ?)
現在シオンの目には城の中で倒れている騎士たちが映っている。
それは本来の【千里眼】には無い能力。
そんな力が使えるのはシオンが先ほど飲んだ錠剤の影響だ。
シオンが先ほど飲んだのは『
その名の通り使用した者の魔力を増幅、強化するという薬。それに加えて、強化された魔力によりスキルまでもが強化される。
強化された【千里眼】の力はありとあらゆる場所を見ることが出来るというもの。見る場所が遠いほど消費魔力が大きくなる。
(私たちに一番近いのは、……見つけた。あれは、開化真?それに忍田いばら、それと男性が一人)
シオンの目には騎士たちと戦っている真の姿が映っている。
(まさか生きていたとは。……開化真の持つあの鎌。魔道具?いや、一瞬で騎士を倒しているところを見ると、まさかアーティファクト!?)
シオンは一度【千里眼】を解除する。
「一体どうなっているの?」
「姫様?」
「……敵がここに向かってくる。ここから撃退するから」
「承知しました。支援はお任せください」
シオンは『五天魔杖』を握り、【千里眼】を発動させる。
(……敵確認)
シオンは真たちを視界にとらえ、『五天魔杖』に魔力を流す。
「『フォースマジック・ショット』」
『五天魔杖』の魔石が光だし、炎、水、風、土、四属性の魔法が発動し、真たちのもとに向かって飛んでいく。
「はぁ、はぁ」
「姫様、魔石です」
「ありがとうアン。……」
『魔力強化剤』により魔力が増えているとはいえ、【千里眼】と『五天魔杖』の同時使用は魔力を大量に消費する。
そうして消費した魔力を回復するため、事前に魔力を魔石に貯め、補給している。
(『五天魔杖』、私では本来の力は発揮できないけど、四属性の魔法を受けて立っていられる者なんてっ!?)
シオンの視界には、四属性の魔法を受けて平気な顔をしている黒仁の姿が映る。
「そ、そんなっ!?」
「姫様どうされました?」
「……アン、あなた魔法が直撃して普通に立ってる人を見たことある?」
「……姫様、魔物ではなく人ですか?」
「そう人、魔法を受けても平気な顔をしている人間」
「そんな人間見たことも聞いたこともありません」
「そうよね。……『フォースマジック・ショット』」
シオンは魔石から魔力を補給し、回復した魔力を使って魔法を放つ。
「今度こそっ!?」
再び放たれた四属性の魔法は黒仁たちへ襲い掛かる。だが先ほどと同様、魔法は黒仁よって防がれる。
「……」
「姫様?」
「また防がれた。何あれ、本当に人間なの?」
「姫様、落ち着いてください。まずは魔力の補充を」
シオンは混乱しながらもアンから魔石を受け取り魔力を補充する。そしてもう一度魔法を放つ、だが結果は変わらず黒仁によって防がれる。
「っ、まだまだ!」
シオンは何度も魔法を撃つが、全て黒仁に防がれ、足を止めることなく進んでくる。
そしてついに階段を抜けられる。中でも真が一人走り出し、玉座の間に向かってくる。
「姫様、魔石を」
「う、うん。……」
シオンは消費した魔力を回復するが、王国のアーティファクトが全く通用していないせいで精神的負担が掛かっている。
「アン、もうすぐここに敵が来るわ。敵は開化真、私たちが召喚した勇者の一人」
「確か唯一スキルを持たない勇者でしたね。にもかかわらず一人でミノタウロスを相手にしたとも」
シオンはアンの言葉に頷き、視た情報を伝える。
「どうやってここに来たのか方法は分からないけど、敵は彼らの世界の人たちだと思う。それに加えて彼は騎士たちを一撃で気絶させることが出来る鎌のアーティファクトを持っている」
「アーティファクト!?姫様、姫様は早急に逃げるべきです」
「そうね。でも、彼を止められるのも私しかいない。今この杖を使えるのは私だけなんだから」
『五天魔杖』は大量の魔力を消費する。そして魔力量の大半は遺伝で決まる。王族、貴族は魔力量が多く、シオンは王国でもトップクラスの魔力量を誇る。
「それと、アンには開化真の仲間を追って欲しい。魔法を防いでいた男性と、召喚した勇者の一人である忍田いばら。この二人はたぶんだけどお父様のもとに向かってる」
シオンは杖が置かれていた場所から外套を取り出し、アンに手渡す。
「姫様……」
「アン、お願い。私の大切な人を、家族を、守って」
「……承知しました。無理はしないでくださいね」
アンは玉座の間から出て、黒仁といばらの先回りをしに走った。
そして一人残ったシオンは、改めて装備を確認し、『五天魔杖』を扉に向けて構える。
「【千里眼】」
シオンは【千里眼】を発動させ、真が来るのを待った。
異世界に全てを奪われた俺は裏世界の異能力者(エージェント) 影束ライト @rait0
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