38

 その後、暫く青塚――リュウは、高浜開明の家で療養しつつ滞在した。

 

 姉が殺された時。

 余りのショックに、あのままでは心が死んでしまう所だった。

 そこで、青塚は――自己防衛反応として、無意識にだが――自分の心を二つに分けた。

 元々ある人格――コウは、まだ姉が殺されたという現実を直視出来なかった。

 そこで、リュウという別人格を作った。

 筋トレをしたり、走ったりと、身体を鍛えていたのは、コウだ。

 だが、コウは姉が殺されたという事実を

 ただ漠然とした不安と焦燥感、そしてそれらを上回る、理由無き圧倒的使命感があり、『強くなるためには行動しなくてはいけない』という姉の言葉だけを頼りに、今は離れて暮らす姉のことを思いつつ、日々身体を鍛えていた。

 また、情報収集をしていたのもコウだが、コウ自身はそれが絶対に必要だと思いながらも、何故必要なのかは分かっていなかった。

 そして、リュウは、街中で不良たちを相手に戦い、実戦を重ねた。

 

 しかし、コウでないと眼鏡剣は使えない、ということが分かったため、それから暫く、リュウはコウに語り掛け続けた。

 初めは対話すら拒否していたコウだったが、徐々に返事をするようになっていった。


 そして、一ヶ月が経ったある日。

 この日も、ソファに座り。

 二人は、瞬時に入れ替わりながら、会話し、意思の疎通を図った。

「なぁ、コウ」

「何?」

「てめぇは、姉貴のことが好きだったよな?」

「好きだよ。君は?」

「好きに決まってんだろうが」

「ハハハ。だよね」

「………………」

「………………」

「……あの夕日、覚えてるか?」

「僕がカレーだ! って当てた日のこと?」

「そうだ」

「綺麗だったよね」

「ああ。で、姉貴もスゲー綺麗だった」

「うん。そうだね」

「………………」

「………………」

「姉貴は強ぇよな」

「うん、それに優しい」

「………………」

「………………」

「姉貴の言葉をずっと覚えてたから、てめぇは身体を鍛え続けて来たんだろ?」

「そうだよ」

「………………」

「………………」

「俺にとって、姉貴が世界で一番大事だ」

「僕もだよ」

「………………」

「………………」

「なぁ、コウ。てめぇ、本当はもう気付いてんだろ?」

「………………」

「姉貴が死んだってことに」

「………………」

「姉貴が殺されたってことに」

「………………」

「なぁ、コウ。俺たちで一緒に仇を取ろうぜ?」

「………………お姉ちゃんは、そんなこと望んでな――」

「望んでねぇかもな」

「!」

「いや、間違いなく望んでねぇだろうな、姉貴なら」

「だったら何で?」

「俺がそうしたいからだ」

「!」

「てめぇは違うのかよ? 姉貴の仇を討ちたくねぇのか?」

「………………」

「どうなんだ、コウ?」

「………………よ」

「何だって?」

「……討ちたいよ! 僕だって!」

「じゃあ、やることは一つだろうが?」

「……でも、僕一人じゃ」

「あ? 何言ってんだてめぇ?」

「え?」

「俺とてめぇの二人で倒すんだよ」

「!」

「今までだってそうだろうが。てめぇがアホ程身体鍛えてなきゃ、いくら俺が喧嘩したってこんなに急激に強くなれるはずねぇだろうが。俺は戦うのは好きだが、鍛えるのは大っ嫌いだからな」

「……二人で?」

「ああ、二人でぶっ倒そうぜ、あの野郎をよ」

「……うん! 分かった!」


 こうして、コウは姉が殺されたという現実と向き合うことに成功し、眼鏡剣グラッシーズソードを使い戦う覚悟を決めた。

 そして、眼鏡剣グラッシーズソードを扱うための特別な眼鏡を高浜開明から貰った。

 そして、一ヶ月の間――どころか、一週間しか掛からなかったらしいが――に孫娘が炎のデビルコンタクトの居場所を突き止めてくれていた。


 そして、コウはリュウと共に、姉の仇を討つために、一ヶ月振りに地上へと出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る