21
その日、ラボに帰ると、コウは千夏に聞いてみた。
「千夏ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「何よ?」
「この子見たことある? デビルコンタクト退治してるみたいなんだけど」
コウが自分の眼鏡から千夏のPCへとURLを送る。
「どれどれ。あ~、これね。ニュースでやってたわね。知ってるわよ」
「そっか、ニュースでやってるから、みんな知ってるんだね」
「違うわよ」
「へ?」
「この子、お爺ちゃんのお得意様だから。確か、観音様みたいな……えっと……そうそう、
(ん?)
「え? お得意様? えっと……それって、まさか……」
「うちから何度か火炎放射器を買ってくれた子よ」
(博士~! こんないたいけな子に火炎放射器売っちゃってたんか~い!?)
内心突っ込むコウの隣で、千夏が続ける。
「あと、確か身体強化スーツも買ってくれてたわよ。服の下に着るタイプの、身体強化の効果がある透明な薄い全身スーツを」
「……ガチでデビルコンタクト退治してるんだね、この子」
「そうね。特に身体強化スーツはあくまで『鍛えた肉体を更にブーストさせるため物』だから、身体強化のデビルコンタクトと対等に戦おうと思った場合、女の子だと――いえ、男でもかなり鍛えていないと厳しいと思うわ」
「そこまでしてデビルコンタクトを倒したいんだね……凄いな……」
いや、あんたも似たようなもん――どころかそれ以上でしょ、と言わんばかりに千夏が半眼でコウを見詰めるが、コウは気付かない。
ちなみに、ニュースにまでなってしまっている少女に対して、少女以上にデビルコンタクトを倒して来たコウは、ニュースは疎か動画サイトにアップされることすら無い。
それも全て、監視カメラの映像を千夏が全てハッキングして消去してくれているお陰だ。
負んぶに抱っこで、コウは千夏に深く感謝していた。
(何か千夏ちゃんにお返しが出来たら良いんだけどな)
千夏に向き直ると、コウは何気無く話し掛けた。
「千夏ちゃん」
「何よ」
「えっと、その……」
「何? はっきり言いなさいよ」
「千夏ちゃんも、学校行きたい?」
「何いきなり? そんな質問、意味ないでしょ? だって、そんなの無理だってあんたも知ってるでしょ?」
膠も無く断ずる千夏に対して、しかしコウは尚も食い下がった。
「ちゃんと答えてよ。もしもの話だからさ。もしも行けるなら、行きたい?」
「ああもう、しつこいわね! そりゃ行きたいわよ! 行けるもんならね!」
その返事に、コウは微笑を浮かべた。
「分かった。じゃあ、僕がその夢、実現するよ」
「はぁ? あんた何言って――」
「僕が、終楽園を倒して、この世のデビルコンタクトを全て倒す。そして、全部終楽園のせいだって皆に知って貰って、博士の汚名を晴らす。そしたら、博士は勿論、千夏ちゃんのことを恨む人たちがいなくなるでしょ? そしたら学校行けるよ」
「何言ってるの!? 全部だなんて、そんなこと出来る訳ないでしょ!」
「やるよ。僕は、千夏ちゃんの夢を実現する」
天を仰ぎ、天井の更に上、地上よりももっと上、未来を見据えるその凛々しい横顔に、不意に胸が高鳴ってしまった千夏は――
「コウの癖に調子乗ってるんじゃないわよ!」
照れ隠しにコウの背中をバン、と叩いた。
「ハハハ。でも、僕、本気だから」
頬を紅潮させながら目を逸らし、ピンク髪ツーサイドアップの毛先を弄る千夏に対して、
「じゃあ、観音寺さんのこと教えてくれてありがとうね」
と言って、コウは部屋を出て行った。
少しして――
「あーもう! 何なのよ何なのよ!? コウの癖に! 以前冗談で『もしこのラボが襲撃されたらどうする?』って聞いたら、『千夏ちゃんは僕が守るよ』とか言うし! 本当、何なのよあいつは!?」
髪を掻き毟り、一人絶叫していた。
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