虚ろの愛情

鵙の頭

Aの話

 夜道、暗い誰もいない路地裏。

 私は道の真ん中にある水たまりの前で屈んで、

そして水たまりの水を掬う。

 私はそのまま、泥水を啜る。

 今日もまた、泥水を啜る。




「おはよう。朝早くにごめんね?寝てたでしょ?」


「ううん、いいよ。早起きできたし」


 君は私が朝早くに電話をすれば、必ずそう答えてくれる。

優しいなぁ。なんて優しい人なんだろう?


「ふふ、ありがとうね?」


「全然いいよ。

それにしてもどうしたの?何かあった?」


 君はそうして私を心配してくれる。いつもそう。

私のことを第一に考えてくれる。それが私は、とても嬉しい。


「嫌なね、夢を見たの」


 私のことを第一に考えてくれるし、私の悩みをまるで私になったかのように真剣に考えてくれる。

 そこが最高に好き。


「嫌な夢? 大丈夫?

どんな夢を見たの?」


 いつも、親身に私に寄り添ってくれて。

 そして、いつも私のことを理解した気持ちになってくれる。

 私が傷つけば、傷ついてくれる。

 私が傷つけようとすれば、傷ついてくれる。

 そして、傷ついても怒らずに、そんなことがあったんだ、辛かったねって自分のことは置き去りにして私の心配をしてくれる。

 そんな君が、最高に好き。


「貴方以外の人を好きになる夢を見たの」


 一瞬、彼の息遣いが止まる。

 分かる。分かるよ。


「夢の中でね、私は貴方を振って。

そして別の人と付き合うの。

目が覚めたらすっごい嫌な気持ちになっちゃった。

貴方のことが好きなのに。他の人と付き合うつもりなんてないよ?」


 なんでそんなこと伝えるの?って思ってるよね。

 心がキュッとしてるよね。私が他の人と付き合うところを想像して。

 そして、君は全部それを押し殺して。


「そんな夢を見たんだ。辛かったね。

…………大丈夫だよ。僕達は付き合ってるから」


 そういうところが、最高に好き。

 顔を見たいな。君の顔を。

 悲しみに歪んで、そして健気に自分の気持ちを押し殺しているその顔を見たい。


「そうだよね。私達付き合ってるもんね。

大好き、好きだよ」


 ねぇ、ほんとのことなんだよ。


「…………うん。僕も大好きだよ」


 ほんとに大好き。君のこと。




 

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