明かされる世界の真実_

 辺境砦ウォイラスの上層階、師匠たちの区画にある特別会議室。円卓には俺、リファ、エニシュ、ニッカ、グラッサが座り、向かいにはクライヌを筆頭とした七人の師匠たちが並んでいる。部屋には、これからの戦いを前にした独特の緊張感が漂っていた。


「さて、全員揃ったようですね」


 クライヌが静かに口火を切った。眼鏡の奥の冷静な瞳が、俺以外の仲間たち――ニッカ、グラッサ、リファ、エニシュを順番に見据える。


「まずはトーアくん、リファさん、エニシュさん。王都での任務、ご苦労様でした。バフェル公爵の排除、見事でした」


 労いの言葉に、俺たちは軽く頷く。王都での戦いは終わったが、それはこれから始まる本当の戦いの序章に過ぎない。


「今日は皆さんに、我々がこれから挑む戦いの真の意味、そしてこの世界の成り立ちについて、真実をお話しなければなりません」


 クライヌの言葉に、俺以外の四人の顔に緊張が走る。俺は黙って彼らの反応を見守る。これから語られる内容は、彼らが今まで信じてきた世界を根底から覆すものだ。俺自身、最初に聞かされた時は、言葉を失ったのだから。


「皆さんは、この世界の創世神話をご存知ですね? 女神セレーネがこの星に降り立ち、十神と共に生命を育んだ、という……」


 クライヌは静かに語り始めた。


「うん、ニッカが前に教えてくれたやつだよね」


 グラッサが頷く。


「はい、女神様と十人の神様のお話……」


 ニッカも小さく呟く。


「だが、その神話は、一部を除いて真実なのです。ただし……」


 クライヌは一呼吸置いた。


「決定的な違いがある。女神も十神も、我々が想像するような『神』ではありません。彼らは……はるか昔、トーアの故郷である『地球』という別の星から、この惑星にやってきた『人間』なのです」


「「「「地球?」」」」


 クライヌの口から出た未知の言葉に、俺以外の四人が同時に声を上げた。


「地球……ですか? それはどこの国のことでしょう?」


 ニッカが純粋な疑問を浮かべて首を傾げる。


「聞いたことない名前ね。トーア、あんたの作り話じゃないでしょうね?」


 グラッサが疑いの目を俺に向ける。


「地球だと? 聞き慣れぬ名だな。クライヌ殿、それは一体どこの星系の話だ?」


 リファは警戒を解かずに鋭い視線をクライヌに向ける。


「おいおい、爺さん、いきなり何を言い出すんだ? 神様が人間だって? 酒でも飲みすぎたんじゃねぇのか?」


 エニシュが腕を組んで、明らかに信じていないという顔でクライヌを睨む。


 俺は苦笑しながら口を開く。


「いや、作り話じゃない。俺が……と言っていいのかわからないが、元いた星の名だ。この星とは全く違うことわりで動いている、遠い遠い場所だよ」

「トーアくんの言う通りです」クライヌが頷く。「女神セレーネこと上條月も、十神の元となった十人のクルーも、皆その地球から来た人間でした。彼らは人類が移住可能な新しい星を探す『開拓者』だったのです。しかし、この星への到着間際に事故に遭い、生き残ったのは上條月ただ一人……」


 クライヌは淡々と、しかし言葉を選びながら説明を続けた。宇宙船の墜落、AIの助力、クルーたちのクローン「十神」の創造、テラフォーミングと魔素の影響、予期せぬ生物進化と魔法の発生、そして地球とは違う世界に変貌したことに絶望した本物のセレネがコールドスリープに入ったこと……。


「つまり、この世界は元々は地球と同じような星になるはずだった……ってことだ」


 俺は改めて言葉にする。ファンタジーだと思っていたのは、前世の記憶を持つ(と思い込んでいた)俺だけだ。こいつらにとっては、これが当たり前の世界なのだから。


「そして、魔法やスキル、魔物や亜人といった存在は、この星特有の『魔素』と、地球から持ち込まれた科学技術……ナノマシンや遺伝子情報が予期せぬ融合を起こした結果、生まれた……」


「にわかには信じられない話です……魔法も、魔物も、全部……?


 ニッカが震える声で呟く。


「じゃあ、女神様が世界を作り直そうとしたっていうのは……嘘だったの?」


 グラッサが問い詰めるような視線をクライヌに向ける。


「それは、本物の女神ではありません」


 ここで口を開いたのは、魔法の師匠ダルモアだった。


「宇宙船の管理を任されていた自己進化型AI……コードネーム『LUNAR』が、魔素の影響で自我を持ち、変質したのです。自らを本物のセレネと思い込み、創造主気取りで世界を支配しようとした……それが、エルフたちが『女神』と崇めていた存在の正体です」

「AI……機械が、女神を騙ってたってことかよ!」


 エニシュが叫ぶ。その顔には驚愕の色がありありと浮かんでいる。


「我々十神は、そのLUNARの暴走を止めるため、彼女を宇宙船ごとスリープさせ、封印しました。しかし、我々自身も宇宙船から締め出され、近づけなくなってしまったのです」


 リッシュが悔しげに付け加える。


「宇宙船の周辺……魔の森は、暴走したテラフォーミング機能とLUNARの防御システム、そして魔素に引き寄せられた強力な魔物によって、誰も近づけない魔境と化しました。我々が辺境砦を築いたのは、魔物を食い止めると同時に、LUNARの封印を守るためでもあったのです」


 グレンカダムが静かに続けた。


 部屋には再び重い沈黙が落ちる。ニッカとグラッサは顔面蒼白で言葉もなく、リファとエニシュも険しい表情で押し黙っている。


「そして……トーア、お前のことだ」


 クライヌの視線が俺に向けられる。四人の仲間たちの視線も再び俺に集まった。


「お前は、本物の女神……上條月が、未来に遺した希望だ。彼女が愛した『山崎翔亜』という青年の遺伝子情報と記憶の断片を受け継ぎ、この星の生命の輪廻を経て、奇跡的に生まれた存在……それがお前なのだ」


「女神が愛した人……?」


 仲間たちの視線が戸惑いに揺れる。


「遺伝子と記憶って、どういうことなのよ!?」


 グラッサが混乱したように叫ぶ。

 俺は静かに頷いた。


「ああ。俺の中にある『前世の記憶』は、山崎翔亜のものだ。だが、完全じゃない。所々抜け落ちていたり、曖昧だったりする。俺は翔亜本人じゃない。彼の欠片を受け継いだ、この世界の人間……トーアだ」


 自分の口からその事実を告げると、言いようのない虚しさと、同時に仲間たちの視線の中に変わらないものを見つけて、不思議な安堵感が込み上げてきた。


「そんな……」


 グラッサが呆然と呟く。


「トーアさんが……別の世の人の……記憶を……?」


 ニッカが涙ぐむ。


「……つまり、トーアの存在そのものが、女神の計画の一部だったと? そして、お前が我々の知らない知識を持っていた理由も……」


 リファが何かを理解したように息を吐き、俺を複雑な表情で見つめる。


「遺伝子だか記憶だか知らねぇが……要するに、お前はただの人間じゃねぇってことか? とんでもねぇ秘密を抱え込んでやがったんだな、お前は」


 エニシュは頭を掻きながら、驚きと、それでもどこか面白がるような表情を浮かべた。


「トーアさんは、トーアさんです!」


 その中で、ニッカだけが真っ直ぐに俺を見つめ、震える声で、しかしはっきりとそう言った。


「どんな風に生まれてきたとしても、私たちが知っているトーアさんは、優しくて、強くて、ちょっと意地悪だけど、いつも私たちを守ってくれる……トーアさんですから!」


 ニッカの言葉に、グラッサも、リファも、エニシュも、それぞれの表情で頷いた。そうだ、俺はこの世界で、トーア・カシートとして生まれて、こいつらと共に生きてきたのだ。


「ありがとう、皆」


 俺は仲間たちに微笑みかけると、クライヌに向き直る。


「それで、師匠たちが俺を鍛え上げたのは、その本物の女神……セレネを目覚めさせるためだったんですね?」

「左様。LUNARを完全に停止させ、本物の女神を目覚めさせることができるのは、おそらく『女神の望み人』である貴方だけだと、我々は考えています。我々十神の力も記憶も衰え、もはや宇宙船の深部へ到達し、LUNARをどうにかできる力は残されていません。貴方こそが、最後の希望なのです」


 クライヌの言葉は重い。世界の未来と、一人の女性の運命が俺にかかっている。


「……わかりました。やりましょう」


 俺は迷いを振り払い、決意を固める。俺が何者であろうと、やるべきことは変わらない。仲間を守り、この世界の危機を救う。そして、俺をこの世界に遺したセレネという女性に会うために。


「トーア……」


 リファが心配そうに俺を見る。


「大丈夫だ。一人じゃない。お前たちも、ニッカたちもいる」


 俺は仲間たちの顔を見回す。真実を知った衝撃は大きいだろうが、それでも俺を信じ、共に戦おうという意志が彼らの瞳には宿っていた。


「よし! 話は決まったな!」


 エニシュがバン、とテーブルを叩き、重い空気を吹き飛ばす。


「だったら、ぐずぐずしてる暇はねぇ! さっさと協力者を集めて、魔の森に乗り込むぞ!」

「そうですね! 私たちも全力でトーアさんをサポートします!」

「あたしも! トーアのためなら何だってやってやるんだから!」


 エニシュ、ニッカ、グラッサの力強い言葉に、俺は力強く頷いた。


 世界の真実を知り、自らの出自と向き合い、そして仲間たちの変わらぬ絆を確認した俺たちは、最後の戦いに向けて、決意を新たにする。

 まずは、散り散りになった協力者たちを集め、連合軍を結成する必要がある。俺は師匠たちと今後の具体的な段取りを話し合うため、改めて円卓に向き直った。辺境砦から始まる最後の旅が、今、まさに始まろうとしていた。



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