王都到着と潜入
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*******クライマックスに向けての最終章、始めます*********
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「ったく、無駄にデカい壁だよな。ここを越えるのも久しぶりだ」
眼前に聳え立つプレアソール王国の王都を囲む外壁。その威容を見上げながら、俺は隣に立つ仲間の背中を軽く叩いた。最後にこの壁を見たのはいつだったか、もう正確には思い出せない。辺境砦での十年は、俺の中の時間の感覚を曖昧にさせていた。
「トーア、感傷に浸っている暇はないぞ。早く中に入る」
低く、しかし鋭い声で俺を窘めたのはリファだ。背中に負った大剣スカーレットバスターが、夕暮れ前の陽光を反射して鈍い光を放っている。彼女は、俺が兄グラースからの呼び出し……いや、命令に近い手紙を受け取り、急遽王都へ向かうことになった際に、師匠たちが護衛として付けてくれた、俺のかつての戦友であり、剣の師匠の一人でもある。
「わかってるよ。それにしても、この時間でも門は混んでるな」
俺たちが到着したのは、王都の南門。辺境砦から王都へ向かう際に最も近い門であり、それ故に人や馬車の往来が激しい。門を通過しようとする人々が長い列を作り、衛兵たちが一人一人身分を確認しているのが遠目にも見える。
「表から堂々と入るのか? 勘当されたお前がカシート家の紋章を見せても、逆に怪しまれるだけだと思うけど」
リファが訝しげに俺を見る。彼女の言う通りだ。下手に騒ぎを起こせば、バフェル公爵の息がかかった者に俺たちの動きが察知される危険性もある。
「まさか。裏口から失礼させてもらうさ」
俺はニヤリと笑みを浮かべると、人混みから少し離れた壁際へと移動する。リファも心得たように、周囲を警戒しながら俺に続く。
「昔取った杵柄ってやつを見せてやるよ。いいか、俺の動きに合わせろ」
「ふん、お前に合わせるまでもない」
軽口を叩き合いながらも、俺たちは衛兵の巡回の僅かな隙を突く。俺は壁に手を触れると、土魔法でほんの一瞬だけ、足をかけるための小さな突起を作り出す。それと同時にリファが、まるで猫のような身軽さで壁を駆け上がり、俺が突起を消すよりも早く、壁の上に到達していた。
「相変わらず無茶苦茶な身体能力だな……」
「お前も早くしろ。見つかるぞ」
壁の上から手招きするリファに、俺も負けじと身体強化魔法を重ねがけし、一気に壁を飛び越える。
音もなく壁の内側に着地した俺たちは、すぐに物陰に身を隠し、周囲の気配を探る。平民街だ。最後に見た時と変わらない喧騒と活気がそこにはあった。
「さて、ここから貴族街まではどう行く? また壁越えか?」
「いや、さすがに貴族街の壁は警備が段違いだ。こっそり門を抜ける」
俺たちは人目を避けながら、裏路地を選んで貴族街へと続く内側の壁を目指す。道中、すれ違う人々の会話から、やはり王位継承問題に関する不穏な噂が流れていることを確認する。
「『第二王子を推すバフェル公爵が、また何か企んでるらしい』、か。思ったより状況は悪そうだな」
「だから私たちが来たんだろう。さっさと終わらせて砦に戻るぞ。ニッカたちが心配だ」
リファの口から、砦に残してきた仲間たちの名前が出たことに少し驚く。普段は他人にあまり興味を示さない彼女だが、今回の旅で多少なりとも情が移ったのかもしれない。
貴族街の門は、平民街とのそれとは比べ物にならないほど警備が厳重だった。しかし、俺たちは事前にグラースから受け取っていた特別な通行証と、リファが辺境砦から持ち出した(おそらくダルウィー作の)認識阻害の魔道具を使い、怪しまれることなく門を通過することに成功した。
途端に空気が変わる。静謐で、整然としていて、そしてどこか冷たい。それが貴族街の空気だ。磨き上げられた石畳、手入れの行き届いた庭園、壮麗な屋敷。俺にとっては息苦しいだけの場所だ。
「空気がまずいな」
リファが顔をしかめて呟く。彼女もこの貴族特有の空気が苦手なのだろう。
「全くだ。さっさと用事を済ませるとしよう」
俺たちは足早にカシート家の屋敷へと向かう。夕暮れが迫り、屋敷の窓からは暖かい光が漏れ始めている。だが、その光景に俺の心が和むことはない。むしろ、これから始まるであろう兄との対峙、そして見えざる敵との戦いを前に、僅かな緊張が背筋を走っていた。
やがて、見慣れた紋章が刻まれた門が見えてきた。
門番は俺たちの姿を認めると、俺の姿を見て嫌な表情を浮かべたが、リファが示した辺境砦の印(これも師匠たちの誰かが用意したのだろう)を見ると、慌てて敬礼し、主への取り次ぎのために屋敷の中へと駆け込んでいった。
「さて、始めようか。リファ」
「ああ。トーアの兄貴の見せ場、作ってやらないとね」
不敵な笑みを浮かべるリファと共に、俺は開かれた門の中へと、静かに足を踏み入れた。
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