　　　　　〈九〉

　漸く、女の言っていたその集落とやらへ辿り着いた頃には、すっかり夜も更け、既に村には人の気配すら全く感じられなかった。とは言え、今は一刻を争う──。

　いつしか狐達は姿を消し、ヒズミは女とミカヅキを連れて、その集落で一番手前に位置していた一つの家を訪ねてみる事にした───。

…………………………

……………………

「──はいはいはい。何事かね、一体。こんな夜中にどちら様？」

「夜分遅くに申し訳ない。私は旅の者だが、途中で怪我人を拾って…。その者に此処へ連れて来るよう頼まれたのだが───、」

「まぁ、怪我人？あらあら、どうしましょうかね。それは道中、大変だったでしょうに。…どれ。その娘さん、ちょいと見せてごらんなさい……って。─！、おや、まぁっ？！あんれ、この人っ、まさか、“ヒムカ様”じゃないのかい──？？」

「……え、と？」

──バタバタ、ガタンッ、ドタドタドタ……

「何だ─。こんな夜中に何を騒いでおるんだ、お前は──…」

「あ、アンタ…！大変だよ、ヒムカ様がっ───」

「……ヒムカ様、だと？何だ、どうした！？ …っ！、怪我をなされたのか！！ ──暫し、その者達を待たせて置け。隣の連中を起こして来る…！！」

「あいよ。頼んだよ──」

──バタバタバタ…、ドンドン、ドンッ!!

「──おい！、起きてくれっ！！寝とる場合ではないぞ、お前ら…！！」

──ガラッ…

「んあ～…。何事だぁ、一体…？？」

「ヒムカ様だっ──、怪我をなされておる…！！」

「………何、だと！？そ、そりゃ、大変だっ…！！ ──オイッ、お前、起きろ…！！」

……………………

……………

「───本家へ、誰か急いで使いをやれっ！それと、誰かこの者達に案内を…！！」

　───村の者達は女の姿を見るや否や大騒ぎとなり。その集落一、大きな屋敷である総本家とやらへ、ヒズミ達はすんなりと通されたのだった──。

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