第5話

 少女が魔力を封印されたことにより退学となった時、執務室に押し入った。その時も彼は千古の水瓶を必要に警戒していて。

 あれはそういうことだったのか……とネリとマルクは頷きあった。


「セイラアっていうのは、もしかして司法高官ジャスティシアのことかな」


 ルグレの走り書きを手に取ったウルルクが言う。

 察しがいいんだからとネリは関心していると、彼は続けて言った。


「マナの樹とか、俺はじめて耳にしたから良くわからないけどさ。つまりは魔力を手に入れられなかったから、今度は俺――幻浪族マーナガルムの血を手に入れようとした。んで、君たちが隠してるネリのに勘づいていた大指導主グランドデュークは、当初の予定を変更して標的を変えた……だからネリと、ついでに俺が狙われていたってことでオーケー?」

「察しがいいのも大概にしなさいよね。困るじゃない、あたしが」

「……あ、あのネリちゃん、ボク思うんだけど。アレの事、ウルルクくんには話してもいいんじゃないかなって」


 目線で殺せそうなほどの睨みを浴びたマルクは、名前通り背中を丸め縮こませた。

 ――そう、思ったことは言われなくとも何度もある。

 知っていて欲しい、と。

 けれど知ってしまったら、きっと戻れなくなる。

 幻浪族というだけで日頃から命を狙われているのに、これ以上危険に巻き込みたくない。そう、身を案じて話さないことを決めたのに。

 どこか抜けてる幼馴染みはこれだから……。

 ネリは盛大に息を態とらしく吐いた。


「ここまで来て知らぬ存ぜぬ、じゃ済まないことは理解しているのよ」


 フランダール家に生まれたものの宿命、そして体内に宿る賢者の石について何も明かさないまま一緒にいて欲しい――ましてや、その力を貸してほしいだなんて口が裂けても言えるものじゃなかった。

 これは単なる喧嘩じゃない。

 命を掛けた、立派な魔法戦争なのだから。

 意を決しマルクに背中を押される形で、ネリは口を開いた。

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