第8話 花火

「みさきちゃんはいつかとんでもないことしそうだね!」


同級生が放った何気ない一言は私をずっと苦しめた。


小学4年生の時、いきものがかりだった私は、毎週の仕事であった水槽の水を入れ替える時に金魚やら出目金やらが入っているまま、何気なく水槽の水を排水溝に流して、汲み置きしておいたバケツの水を水槽に入れた。

ポカンとする周りの反応をみて、しまった、と私は排水溝に手を突っ込んだがヘドロばかりが手に絡みいて手が真っ黒になった。私は真っ黒のヘドロのついた両手で頭をかかえこんで泣いてしまった。

水槽に入った透明な液体を見るのがしばらくのいきものがかりの仕事になった。

私は毎晩祈った。何かのきっかけで金魚や出目金が、卵かなにか、いや、突然でも出現するとかして水槽に戻るように。

寝る前も授業中もずっと祈った。

しばらくしていきものがかりは廃部になった。


小学6年生の時、すっかり私は赤ちゃん扱いのまま取り巻き達にあやされて生活していた。

ちょっとした段差や、ちょっとした水たまりを見つけては、私に注意しながら帰宅をしていた。そんなある日、帰宅途中、ビルの隙間の薄暗い隙間にか弱い声の捨てられた子猫を見つけた。

「かわいいーー!!!うちに餌あるから持ってくるね」「私毛布持ってくる!」「みさきちゃんはこの子達がどこか行かないか見張ってて!」

2匹いた子猫はガリガリでノミだらけだった。少し汚い。母猫はどこに行ったのか。私はその子猫の影、エアコンの室外機の下で横たわってウジが沸いた母猫を見つけた。

きっと赤ちゃん産んで死んじゃったんだ。

よく見ると周りに子猫の死骸が何匹も横たわっていた。これはあまりにもかわいそうだと思い、埋めてやろうとすっと手を伸ばした瞬間子猫はびっくりして飛び出した。

私はビクッと腰を抜かして座り込んだ。

そして車道に飛び出した2匹の子猫は大きなミニバンに轢かれた。

1匹はぺちゃんこに、もう一匹は体の半身を轢かれたのかのたうち回って苦しむ子猫。私はどうしたらいいと頭を抱えて泣き出していた。

各々自宅から持参してきたペット用品を片手に呆然と友達連中は立ち尽くしていた。

みな無言でお墓を作って猫の家族全員のお墓を作った。誰も口にしなかったが痛いほど非難の視線を感じて私は走り出して家に帰った。夕ご飯は何を食べたか覚えていないが、お母さんだけは異変に気づいて何かあったの?って聞いてくれたけど私は俯いたまま首をふった。

また寝る前にあの子猫たちがまた明日生まれ変わって現れてほしいとお祈りして寝た。

その日夢を見た。

金魚と子猫が私を電気椅子に縛り付ける夢だった。何かの映画だったか忘れたがきっとその描写だった。私は木製のギシギシきしむ椅子にすでに両腕と両足を椅子にベルトで括られていて、周りには金魚や子猫の執行官が浮いたり、のたうち回ったりしている。どこからか出てきた黄色のスポンジに金魚が口からビューと水を出して濡らして子猫はそれを適度な水分量になるようにギュッと絞る。

私はガチガチと口を鳴らしていて、すっとそのスポンジが頭に乗った感覚がわかる。

出目金が空中を動いて大きな電気のブレーカーのようなものにヒレをかける。

次の瞬間私は真っ白の世界に飛ばされる。

これが死んだ後の世界なんだ。


汗びっしょりで朝5時に起きた。濡れたパジャマを脱いでシャワーを浴びる。冬の始まりのことだった。

「みさきちゃんはいつかとんでもないことしそうだね!」

昨日の友達が開口一番にそう言った。

私は静かにごめんね。としか言えなかった。そしてまた頭を抱え込んで泣きだした。

そうか、私はいつかきっととんでもないことしちゃう人間なんだ。

私はとんでもないことをしないために、何もしないことを選んだ。

中学生になった私は宿題や決まったことはやるがそれ以上の事はしないようにした。私はきっと自分の行動の結果を想像できない人間なんだ。

結果が想像できる範囲で生きていこうと考えた。林間学校も、修学旅行も仮病で休んだ。

それでも私はまた、やらかしてしまう。

高校の入試の時に普段は行かない熱田神宮に参拝に行った時私は何故か参拝だけしておけばいいのに何故か友達に誘われて白鳥庭園に行った。

この結末は見えているのか。今になると後悔しかない。

私たちは合格祈願に鯉のエサを買ってあげることにした。

その時なぜか私はエサの入ったカップごと春先の動きの鈍い鯉の前に放り投げた。

また、周りがぽかんとする。

ああ、またやってしまった。

ほおっておけばいいのにその紙でできたカップを拾おうと思い切り池に手を突っ込んだ。そしてそのまま池に落ちた。一張羅の姉からもらったコーチのコートは池の藻なのかヘドロなのかよくわからないものだらけになった。

一緒に行った友達はまたかという顔したが、私は、ああ高校は落ちたなと直感した。そして希望校は落ちて二次試験でかなり実家から遠い高校に進学することになった。

また連絡するからね!離れててもお母さんたちは見てるからね!絶対連絡するよ!といったあの子たちは今日まで連絡がない。

中区から名鉄ローカルで1時間半。

もう疲れた。何も考えたくない。誰とも関わりたくない。誰も傷付けたくない。

知り合いもいないこの場所はとても都合がよかった。誰とも関わらなくて済む。愛想がいいけどちょっとつまらない女の子だね。そんな評価でよかった。

機械のような日々を送りたかった。

でも想定外は起こるものだ。しかも想像の範疇を超えるレベルで。


部屋でゴロゴロして、過去のことを考えて、穿り出して、「明日」を予習していた私の前に突然そいつは現れた。

「お願い!いま世界はでもんz」

「いいよ」

「・・・・え?あちき何の話してたっけ?」

「多分世界を救って的な話だと思うよ」

「言ってねええ!!言ってねえええええええ!けどおおまかあってる!え、未来予知とかできる系のかた?スピリチュアルなかた?」

未来予知、ふふふふふ。そんなものができたら私はどれだけ救われたか。

「あなた妖精?」

「私は無意識の救世主のアンジェラ!そしてはあなたは、え、順番がおかしくて、え、ちょっとパニック。」

そいつは体の半分もある大きな羽で頭を覆った。昔の私を見てるみたい。

「私は何になるの?敵、味方?」

「大雑把!!!それでいいよって言ったの?どういう感情?」

「救うほう?壊すほう?」

「断然救うほうよ!魔法少女になって世界を救うの!」

「世界を、救う、私が」

「そう!まあ、相手は、その、あれ、ちょっと、あれだけど」

「死ぬかもしれないってこと?」

「いやーーー、平に、ひらーーーに言ったら部分的にそう」

「何そのポンコツアキネーター、ふふ。別に死んでもいいよ。誰かの役に立って死ぬなら」

「え、こわ、ごめん。やっぱ前言撤回。この話はなかったことに」

「なんで!!!」

母親がびっくりして1階から声をかけてきた。ちょっと忘れ物ー!っと返事する。

「ええええ、声でか、そんな、声、出すんだね。ちょっとお姉さんドキドキしちゃったよ。」

お姉さんという単語に少し心がひりつく。

「私は自殺願望なんてないよ。でも誰かのために、今まで迷惑をかけてきたみんなのために、死ぬならいいよ、って言ったんだよ。」

私は区切り区切り話す。

「なに?あんた前科持ちなの?見かけによらないわね。万引き?エンコ―?」

「そんなことしてない。何もしてなくても私は周りに迷惑かけちゃうんだ。だから。」

だから死んでもきっと「いつかきっとこうなるんだと思ってました」とニュースで同級生がインタビューに答える想像がよぎる。

「まあ、自己献身だと思っておくわ。今回は頭数をそろえたいから自己献身タイプはあんたで十分ね」

「ほかにもいる?」

急に不安がよぎる。

「そうね、2桁は集めたいわね。前回は数で圧倒されたから。少なくともチームプレーで戦えるよう・・」

「じゃあやめる」

「そうね。あんたは先頭で・・・・え!やめる!詐欺やん!!え、感情追いつかん!なんでよ!最初に説得するのがなんで契約直前なのよ!オレオレ詐欺を止めたコンビニの店員みたいになってるやん!なんでやん!関西弁なのか、私は一体何弁をしゃべっとんねん!」

「チーム、プレーは、私、苦手」

「しおしおになってるやん!おいしい浅漬けのつかり方になってるやん!もう!やめろ!えせ関西弁で突っ込ませるな!」

私はプイっと背中を向けて明確に拒絶の意思を表す。こどもっぽい?そうかも。そういうことしないとみんなから赤ちゃんみたいに扱ってもらえないから。

「さっきみんなに迷惑かけたって言ったのってそういう感じ?私のせいで甲子園負けたみたいな?」

「女子は甲子園でれないよ」

「甲子園を拾うな!周りに迷惑かえるかもってことを心配してるのね!じゃああんたはアタッカーってことで紹介するわ」

くるっとアンジェラに向き直す。

「アタッカー?」

「そう!アタッカー!あちきの魔法少女になったら自分でいろいろな魔法が出現するんだけどあんたは攻撃が主体になるように力を振るわ。前衛ね!それはもう敵からバシバシ攻撃されるし、バシバシ相手をぶっ飛ばさないといけないの!」

「アタッカー。いいね。」

「でしょでしょでしょ!やる気んなった!」

「いや、全然。ほかの人と一緒だと嫌」

「だあーーーーーー!!!!脳が!ちっぽけな脳が、は、れ、つ、するーーーーーー!!!」

アンジェラは小さな頭を大げさにぼりぼりとかきむしる。

「じゃー私から説明する!あんたは前衛で、とことん戦ってもらって、もう動けなくなってからほかの人たちは行動する!これでどう!これでだめならクーリングオフ!」

私は満足な回答を得られてこっそり笑ってからしぶしぶのような顔をして首を縦に振った。


アタッカーというのは私の気質にあっているものだった。

この世界はすでに「やらかしている」状態で、現れるデモンズたちはそんな「やらかしているやつ」だった。

だから私は喜んで前線に出た。力の限り暴れた。やらかしなんてない。みんな倒すだけ。

力が出なくなっても、右腕がなくなっても相手を燃やし尽くす。

それが私の戦い方。償い方。

気持ちのいい自己犠牲の後はみなそれぞれがそれぞれで戦いそしてデモンズに打ち勝っていった。

心地いい。償いは心地いい。痛ければ痛いほどいい。


「いつも、みさきちゃんばかりだね。無理してない?」

戦いが終わった後、皆思い思いの話をしているのを聞かず、少し距離を取って座り込んでいた私の顔の横に狸顔がぬるっと顔を出した。

「うわ!びっくりした!」

「さっきから呼んでたけど、疲れちゃってるよね?」

「いや、そう、いうんじゃ、ないけど」

言葉がつむげない。ほっといて、と言えるほど私は強くない。

「今日もすごい戦いだったね。ほとんどみさきちゃんが倒しちゃったね。」

「いや、うん。今日も、全然大丈夫だったよ。気にしないでね」

私は少しでもこの会話を切り上げたくてぶっきらぼうな言いぐさになってしまった。やらかしてしまったか?

「みさきちゃん見てるとちょっと辛くなるんだ。なんでもいいから愚痴とかあったら教えてね。」

それだけ言うと皆のところに戻りさっとコンパクトを掲げて帰宅したようだった。

愚痴かー。愚痴。愚痴。愚痴そんなのあったっけ?思考を放棄していた私はまた思考を再開する。


私は気の迷いか瑞佳を誘ってみた。

急な誘いにもかかわらず狸顔はまん丸の笑顔で現れた。

「こんなとこにコンパクトで呼び出したら誰かに見つかっちゃうよー!」

「あ、うん、ごめん、トイレだから大丈夫かと思って」


私は天王川公園という高校生が青春するための公園のトイレに瑞佳を呼び出した。

個室から2人、一緒に出てくるって状況どうなんだろう。また、私は結果を想像できてなかった。

「2人でトイレから出るってどう思われるだろうね。」

瑞佳の言葉にびくっとする。

「ちょっと、悪いことしてるみたいで、楽しいね!」

私は頭に手を乗せるところだったが、その言葉にハッとして、静かに瑞佳を見つめた。

「タイミング!タイミングよく出よう!」

二人で回りの音を必死で拾う。トイレのドアにピッタリと耳をつけて通行人の様子を伺う。

「別に悪いことしてないけど、悪いことしてましたって顔ででてみよっか!」

この子は。

「うん。そうしよう。とうとう、どうとう、堂々としてしてして・・・」

「とうとうだったら事後じゃん、ふふ。ほんとに悪いことしたあと!」

二人ではははははと笑った。そのままトイレのドアを開けると下水の匂いが鼻につく。でも誰もいない。

「誰かいたら面白かったのに!はははは」

瑞佳はまた笑って私に手を差し出した。

その手は夕方の日差しのせいか光って見えた。


「私はだれかと一緒にいるといつも迷惑かけちゃうんだ。」

ぽろっと「愚痴」が出た。

「だから罰が必要なんだ。痛かったり、辛そうに見えたらそれがいいの。それでチャラなんだ」

「なるほどねー」

一通りの過去を話し終えてから最後に結局は迷惑をかけるのが怖いという話をした。

そんな話を瑞佳はうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。

手に持ったペットボトルはすっかり冷めたのか、こくこくと瑞佳は口に含む。

「もう、十分だと思う。」

「え?」

「いつも見てたよ。みさきちゃん。いつも一人でなんとかしようとしてた。私たちに近寄る前にデモンズをなんとかしなくちゃって思ってるのもわかってた」

「いや、それはみんなに迷惑をかけるから」

「ううん。みさきちゃんはそう思ってるだけ。私たちは傍観者じゃない。当事者なんだよ。もしみさきちゃんが「やらかし」しても、それは私たちチームの責任。」

「だからそれがいやで」

「そう。でも私たちはみさきちゃんが潰れるのを黙ってみてる。これって私たちって罰を受けないのかな?誰かを助けたい人たちの集まりの中でそれって正解なのかな?」

「それは」

「ごめんね、否定するつもりはないの。でも、みさきちゃんいつも一生懸命だから、私たちに負担にならないように、いつも、いつも傷ついてる。それを黙っていいって思えないの。少なくても、私はね。」

瑞佳はからになったペットボトルを見つめていった。

「当事者なんだよ。みんな。でも見て見ぬふりする。作戦だから。でもそれって正義の魔法少女の姿なのかな?」

「うーん」

私は、絞り出すようにうなった。

「少なくてももうちょっと頼って欲しい。」

「それは!それは、それは・・」

私は言いかけてやめた。誰かを頼るのは子供がすることじゃない?

「みさきちゃんは多分赤ちゃんみたいに言われるのが嫌なんじゃない?」

ハッとして瑞佳の顔を見た。

「なんでもできる。私だけでもなんとでもなる。そんな風に見えるけど。私たちまだまだ子供だよ。だから頼って。」

「でもまた、やらかしたら」

「それも受け止める。それもカバーし合う。それは子供扱いじゃないよ。命のやり取りしているだから当然のこと。何もしないで美咲ちゃんが死んだら私の正真正銘のやらかしだよ。」

なぜ、2つも後輩の女の子の声がいままでの友人たちの声よりクリアに聞こえるのか。頭にずっとかかっていた靄が急に晴れた気がする。

「私たちがやらかさないように、みさきちゃんも声を上げて欲しい。助けて―!ってそしたら私は駆けつける。今日みたいに臭いトイレは嫌だけどははははは」

私は笑いながら涙が止まらなかった。

私が肯定された瞬間だった。


そんな肯定してくれた彼女はもういない。

もう一緒にやらかしてくれる人も、救ってくれる人もいなくなった。

虚無感しかなかった。


ちょっと待って。

私はやらかしてきたデモンズとずっと戦ってきた。

やらかしてきたデモンズは平然としていた。

人が死のうが、苦しんでいようと楽しそうに殺戮をしていた。


私はやらかしの定義を間違えていたんじゃないか?私が後悔してきたやらかしなんて些細なものでとんかつに味噌だれをかけようとしてソースをかけたくらいのものなんじゃないか?

そうだ。きっとそうなんだ。私がやるやらかしなんてこの世界には何も影響しない。


じゃあ、本当のやらかしってなんだ?デモンズがやってたことかな?人殺し?

そうか、人殺しまでやってきっとやらかしなんだ。


一度やらかしてみたい。本当のやらかしを。それは下水溝に手を突っ込んだりのたうちまわる子猫だったり藻がついたコートだったりそんなことじゃなく。


「いつかきっとこうなるんだと思ってました」同級生はインタビューでもこういうだろうか。「そんなことをするような子じゃなかったです。赤ちゃんみたいな子でした!」ってきっというだろう。

わくわくしてきた。

私は赤ちゃんじゃない。やらかしてもいない。

これからやらかすんだ。


名鉄ローカルにわざと露出の多い服で帰宅ラッシュの時間に乗り込む。

ぎゅうぎゅうになった電車の中でお尻をすっと触られた。

わああ、痴漢って本当にいるんだ。楽しくなってきた。

その人は4駅先でおりるまで私のお尻をずっと撫で続けていた。

そのまますっと降りる時私はそのおじさんの腕をぎゅっとつかむ。

痴漢がばれたと思い必死に手を振り回しているおじさんの耳元でそっとささやく。

「おじさんさえよければ続きしません・・・?」

おじさんはぎょっとした顔でこちらをのぞき込む。

私は少しだけ口角を上げる。

「別に変なことしないですよ。少しご無沙汰で・・・生理前で・・・ね。」

できるだけ色っぽい声で話す。こちとら処女だが気合の入ったエロ女を演じる。

男はものすごく単純だった。

ぶんぶんとうなずくとその駅の外に転がるように飛び出した。

ビルの隙間にすっと腕を引くと鼻息が聞こえるようにすんなりとついてきた。

男はいきなりキスをしようとしてきた。

私はおもむろに唇に人差し指をあてて

「まずはこっちを処理しましょうね・・」

と言ってしゃがみこんだ。

完全にアレの体制だ。男は事態を飲み込んだのか、ベルトをカチャカチャと外しすとんとスラックスを落とす。

ブリーフからはすでに臨戦状態のあれの形がはっきり見える。

「まあ、すごい、立派ですね、楽しめそう。ふふ」

言ってて少し笑ってしまった。参考にしたAVそのままのセリフだったからだ。


そして私は露出した脛を少し触ってから地面にそっと手を触れる。

私はコンパクトを掲げず変身した。

次の瞬間、おじさんの汚い革靴の下から淡青色の炎が巻き起こる。

おじさんは何が起きたかわからず、お!とか、あ!とか言っている。

その炎がおじさんのスラックスに燃え移り路地から出そうになる。私はグイっと首を掴む。

「炎が出せるかは確認してたけど、腕力も魔法少女現役だったころと変わらないのね。」

おじさんの声が悲鳴に変わったころ、魔法少女の腕力で抑え込んだ首がぐきっと変な音がした。

あぶくをふきながら、倒れこんだおじさんは炎の中に包まれる。


私は100均で買っておいた金属性の竹串にマシュマロをつける。

おじさんから上る炎でゆっくりとマシュマロに焼き目をつける。

周りから悲鳴が聞こえる。誰かが叫んでいる。

ほんのり焦げてチーズみたいに伸びるマシュマロを口に運ぶ。

ああ、とってもおいしい。

私はやらかす、やらかす、といって何も挑戦せず、怠惰だったのだ。

「やっぱり林間学校は行ってもよかったかも」


こんなやらかしでも彼女は肯定してくれるだろうか。

集まる人だまりの中を私は壁を蹴ってビルの屋上まで登ってゆっくりと立ち上る煙と油の匂いを嗅いでいた。

花火よりは派手じゃないなあ。花火も見に行けばよかった。


私はすこしだけこれからの人生が楽しくなってビルの合間を飛び回って久しぶりに「明日」の予習をせずに寝る。


ああ、明日は何をやらかそう!

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雨は桜の絨毯を紡ぐ いおたしゅう @EOTAshuu

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