召喚!カップ麺?
無限飛行
無題
「おはよう」
「………?!」
「どうした?おとさんだぞ、何故驚いた顔をする?」
そう言って、眼鏡ボサボサ頭の悪の魔術師は、窓のカーテンを開けた。
おかしい。ここは師匠と僕だけの魔の森の隠れ家なのに。
ああ、おとさんも師匠の弟子だったか。
「あの……何でここに居るんですか?」
僕の質問に、悪の魔術師ボルテックは白い歯を出して笑って言った。
「それは親子だから、当たり前だろう?」
「………破壊魔法の解除法を確立せよって、帝都の屋敷に監禁されてましたよね?」
「そんなもん、私に意味がないだろう?」
「…そうですけど」
リンレイは、頭にセットしていたその腰下まである美しい黒髪を手解き、ベッドから起き上がる。
髪から、虹色の粒子が舞い上がる。
その時、キッチンから異様な臭いがしてきた。
リンレイは、思わず鼻を摘まんだ。
「う、この臭いは何?!」
「おお、そうだ、そうだ。今、朝食の支度をしていたのだ」
ボルテックは、慌ててキッチンに駆け込んだ。
ボルテック。
世界を恨み、世界破壊魔法を作りだした悪の魔術師。
彼の悪事は、僕と仲間の英雄達で止める事が出来たんだけど、僕が皇帝に殺されそうになった時、僕がボルテックの生き別れの娘って事がわかって、助けようと動いてくれた。
それ以来、改心して自分がすでに発動した遅効型世界破壊魔法のリセットに向けて、魔法研究をしてくれている。
ボカンッ
「うぐっ、何?このニラビーとニンニクラーの腐った臭いみたいなの?!」
モウモウと立ち上る煙の中で、ボルテックは大鍋を持ってくる。
「精力倍増、媚薬入りコロコロ鳥のごった煮だ」
「朝から食べるような物じゃないよね?!それに、変なワードが聞こえたんだけど?!」
「いやいや、皆さんに頼まれてね。早くお前がその気になってほしいってな」
「皆さんって?!」
うう、分かっているけどTS転生の僕には最悪だ。
おとさんが発動している世界破壊魔法は九種の星魔法で稼働している。
そしてそれを止める術は、稼働に充填された星魔法を上回る同種の星魔法をぶつける事で魔法を崩壊させる。
それしか、今のところ止める術はない。
だが、星魔法の使い手はわずかに七人。
英雄の五人と、将来の英雄候補二人だ。
しかも七人の最大魔力以上で、七種の星魔法をぶつけなければならない。
さらに、まだ見つかっていない2種の星魔法の使い手が必要なのだ。
そして、魔力を最大魔力以上に高めるには、僕の心臓の代わりになっている❰賢者の石❫の力が必要なんだ。
❰賢者の石❱の力は魔力の増幅。
だけど、その❰賢者の石❱の力を全て使わなければならない。
でも、それをすれば僕の心臓の代わりをしている❰賢者の石❱は、崩壊して僕は死んでしまう。
その代替え案は、まず僕の❰賢者の石❱の力は血にも宿るという事。
それと世界破壊魔法は遅効型で発動が三十年後から。
そして僕はホムンクルスで歳を取らない。
さらに次代の星魔法の使い手は、今いる星魔法使いから産まれ易いという事。
すなわち、今の星魔法使いと僕の子供なら星魔法と❰賢者の石❱の力を合わせ持って産まれるという事だ。
僕は死なずに済み、うまくすれば次代の星魔法使いを生み出す事が出来る。
なんだけど……
いやいや、元男の僕にとってハードル高過ぎない?!
最低でも9人産むんだよ!
それも僕が男にあはん、うふんってしなければならない?!
僕の心は死んじゃうよ!
そりゃ、世界を一緒に救った事のある仲間達だから嫌いじゃないよ。
だけど男女の関係の好き、嫌いではないんだよ~っ。
苦楽を共にした男同士の友情みたいなもんで、それ以上でもそれ以下でもないのにっ、マジ勘弁なんだけど。
「ほら、リンレイ。お前も食べなさい」
「………」
いや、諸悪の根源のおとさんに言われても、食べたくないよ。
だいたい凄い臭いだし、おとさん食べてるけどさっき媚薬入りって言ってなかった?
ふと、おとさんの後ろになんか見知った物がある。
「それ、どうしたの?」
「ああ?これか、なんか使い魔を召喚しようとしたら、これが召喚されてな」
それは、日本の某食品メーカーのカップ麺だった。
「何故これが?」
「なんだか、よくわからない物でな。でも、捨てがたかったから持ち歩いてるのだ」
「二個だけ?」
「いや、帝都の屋敷に箱で召喚されてな。あと、赤いのもあったな」
それは、❪赤いきつね❫では?
僕は、震える手でカップ麺の封を開けた。
転生して十四年、久々にみるあの日本の食べ物。
あまりの懐かしさに、目が潤む。
「ほう?そうやって開けるのか、んん?何やら食べ物の様な?」
「おとさん、魔法でお湯だせる?ここに注いでほしいんだけど。もう一つも開けるね」
僕は二個とも開けて、それぞれスープの粉を入れた。
「お安いご用だ、ほれ」
シュルンッ、じょぼじょぼじょぼ。
おとさんは空中にお湯の塊をだすと、そこからカップ麺に少しづつお湯を注いだ。
「これでいいか?」
「うん、見てて」
僕は、半開きの蓋部を閉じた。
「紙で出来た蓋か、よく濡れて崩れないな?」
「表面に水を弾く素材が貼ってあるんだ」
「ふむ、それで?」
おとさんが、僕の手元を覗きこんでくる。
「それで
「ふむふむ、それから?」
「それで出来上がりだけど、お好みでこの唐辛子を入れるんだ。あ、トウカララーと同じ物だよ」
「おお、辛いんだな」
「でも、味にメリハリが出来て美味しいんだよ、あ、かけすぎに注意かな」
おとさんは、不思議な物を見るように僕のやり方を観察してる?
そんな変な事してるかな。
「おお、なんだ?この何ともいえない旨そうな匂いは?」
「カツオだし、あ、海の魚で取ったダシで砂糖、あ、あまあまと醤油、えーと?あれ?似てるのがない?んーと」
「ふむ、独特な調味料を使ったスープという事だな」
「そう、それ!なんだ」
ああ、懐かしの醤油とカツオダシの匂い。
これ程までに豊潤な奥深さ、前世ではカップ麺なんて飲酒の後の夜食とか、間食みたいなものだったけど、この世界ではおそらく王様だってビックリするくらいの絶品料理だ。
「もう、三プルたったんじゃないか?」
「は?!そ、そうだ」
いかん、いかん、麺がふやけてしまう。
僕は、すぐに蓋を剥がした。
ふわっ、一気に湯気が広がるのと同時にダシの効いた醤油汁の匂いが部屋いっぱいに広がって、何とも幸せな気分になる。
「おお、これは凄いな。では、さっそく」
「待って、おとさん!これを食べる時はいただきますって言わないと」
「いただきます?」
おとさんは、小首をひねって僕を見た。
あ、この世界にいただきますはなかったよ。
「んーと、ご飯が美味しくなるおまじない」
「おまじない?魔法みたいなものか」
「ん、そんな感じ。それで本当は箸をつかうんだけど、無いからフォークでね」
おとさん、頷いてフォークを取った。
実は箸は僕が作ったのがあるんだけど、あれ、使うのに練習が必要だからね。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
熱、少しふーっ、ふーっ、しないとだめだ。
え?おとさん?!ズルズルズルっていったよ、火傷しちゃうよ!
「おとさん!熱いよ?火傷してない?!」
「いや、普通に旨いが?」
「あれ?」
あ、僕は猫舌だった。
なら、熱いのは僕だけだったか。
「この丸い、野菜やシューリが入った塊は旨いな」
「ん、天ぷらっていうもの。野菜や海老、あ、シューリ。をムーギギの粉を絡めて、油で揚げたものだよ」
「そうか、リンレイは本当にいろいろ知ってるんだな」
まあ、ほとんど前世の記憶だけど。
でも、本当に美味しい。
おとさんも、凄く美味しそうに食べてる。
ああ、そうか。
こっちの家族と水入らずで食事って、これが初めてなんだ。
ふふ、そうか。
だから温かいんだね。
僕は、おとさんに寄りかかった。
「リ、リンレイ?!」
「少し、こうしていたいな」
おとさんは、一瞬目を見開いたけどすぐに僕を抱き寄せてくれた。
「そういえば、もう今年もあと数日で終わりか。早いものだな」
「あ、そうだ。おとさん、この食べ物は年末に食べると延命、長寿、家族の縁が長く続くんだって」
「ほう、これは、そんな魔法なのか」
「そう、これは、きっと魔法だよ」
ふと、僕とおとさんは何かに気づいて空を見上げた。
「あ、雪!」
「そうだな」
僕達は、いつまでも空を見上げていた。
手の中のカップ麺が、とっても温かかった。
召喚!カップ麺? 無限飛行 @mugenhikou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます