第140話

 キケアタンはファラド王国の王都だけあって、ロルマジアと同じくらい大きい。大きい事はいい事だ、が調査する身としては大変だ。と言う訳で、初日の今日は大まかにどんな店がどの区画に集まっているだとか、お貴族様のお屋敷はこの先にあるだとか、大人のお店はこの辺りだとか、大まかに見て回るだけだ。


 因みに、お貴族様のお屋敷方面には近づかない事にした。平民がその様な場所をうろついていたって碌な事にはならない。大人のお店周辺への接近は、アンちゃんからきつく禁止令が出ています。全く持って信用の無いおっさんです。はい。


 歩き回って3の鐘が鳴るころ、俺たちは中央広場の隅に座って昼飯を食べる事にした。市場の端の方に屋台が並んでいて、前世前の世界で言うドネルケバブに似た、肉をパンに挟んだ食べ物が有った。ちょっと懐かしくなって買ってみた次第。


「いっただっきまーす。」


 美味しそうにパンに齧り付くアンちゃん。もう笑顔満開です。そんなに美味しいのなら、もう一個買ってこようか?おっさんは餌付けに余念がない。


「でも、さっきの市場で何で急に手を繋いで駆けだしたの?」

「アンちゃんが奇麗な織物を見ていただろう?こっちが外国から来たと思って、法外な値段を吹っかけて来たんだよ。」

「ここの言葉ってヘルツ王国の言葉とちょっと違うから、微妙なところが分からないのよね。」


 前世前の世界のヨーロッパみたいなものだ。国ごとに言葉が違っても、陸続きだからそこまで大きな違いが無い。これでバイリンガルとかトリリンガルとか言うんだからズルいよな。頑張れ、俺が生まれた国。そのうちAIが何とかしてくれるさ。


「ところで、何でアンちゃんはヘルツ王国の言葉が分かるのさ?」

「私の曾祖父ひいおじいちゃん祖父おじいちゃんが長い間ヘルツ王国で修行をしていたんですって。それでね、小さい時に祖父から教わったの。ヘルツ王国のレイウス流に行く事があるかも知れないから、って。」

「じゃあカンデラ王国とヘルツ王国以外の言葉はどうなの?」


 俺はちょっと気になって聞いてみた。


「今いるファラド王国と同じ感じかな。凡その事は分かるけど、そんな感じ。」


 俺はアンちゃんに最初に会った頃の事を思い出していた。確かアンちゃんは路銀を使い果たしたって言ってたよね。きっと途中でぼったくられた事もあったに違いない。まあ、そのお陰で冒険者になって俺が出会えたのだけど。


「だけどジローのその外国語がペラペラなところ。ちょっとズルいわよね。あーぁ、いいなーぁ。私にも何か下さらないかしら。お願いします、コーラス様。」


 アンちゃんは手を組んで祈りを捧げた。やっ、止めて下さい、コーラス様。アンちゃんに変な恩寵を与えないで下さい。おれも手を組んでお祈りした。

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