第6話 ここ

「あの猫が、化け猫?」


 私は月風と猫を交互に見た。月風はそうだと言わんばかりに大きく頷いている。一方、猫の方は大きな欠伸をしていた。


「あ、ありえない。私、ついに霊的な何かを持っちゃったっていうの? 妖怪と契約したし、挙句の果てには化け猫が見えるなんて」


 ――私、ホラーは苦手なのに……。


 私はその場で力なくうなだれた。和風ホラーが一番苦手なのに、それが日常になるなんてあんまりだ。


「なあ、俺言わなかったか?妖と契約した人間は妖が見えるようになるって。お前がそこの化け猫が見える理由なんてそれしか考えられないだろ」


 沈みかけていた私の心は月風の至極まっとうな意見によって急浮上した。


「確かに! よかった……わけでもないけど。まぁ、理由が分かってるだけいいかな」


 漸く安心できた私は化け猫と距離を保ちながらその姿を見つめた。


「やっぱり茶トラだ。うん、化け猫でも猫は可愛いなぁ」

「ほんとですかにゃ? ここ、うれしいですにゃ~」

「ひぇ」


 しゃがんで化け猫を見ていた私は、その場で思いっきり尻餅をついた。


「大丈夫ですかにゃ?」


 私が尻餅をつく原因になったやつが私を心配してきた。


「お前、運動は割とできそうなのに尻餅つくとかっ、はっ、恥ずかしくねーの?」


 さらに、月風には褒めているんだか貶しているんだかわからないことを言われて笑われた。


 ――しかも絶対に貶してる比重の方が大きいし!


 私は月風をきっと睨みつけてから立ち上がった。スカートが少し汚れたが、払っておけば問題ないだろう。


「驚かせてしまいましたにゃ~。ごめんだにゃ~」


 その化け猫は見た目通りのボケっとした声で私に詫びた。冷静になって考えると、この化け猫が話し出したから尻餅をついたというのは、あまりにも情けない気がする。


「あー、私の方こそごめんね。いろいろ突然だったからびっくりしちゃって。私はいち佳っていうの。あなたの名前は?」


 ――尻餅ついたのは、今日いろいろあったせいだから!


 などと私が内心で言い訳をしていると、化け猫がすぐそばまで寄ってきた。


「ここの名前はここですにゃ~。よろしくお願いするですにゃ~」

「えっと、ここね。こちらこそよろしくお願いします。それでこっちの飛んでるやつが――」

「月風な。よろしく」


 とりあえずお互い自己紹介は終わった。……この後ってどうするべきなんだろう。


「ここはなんでこんなとこにいるんだ?」


 考え込む私をしり目に月風はここに質問をし始めた。


「ここは探し物をしてるんですにゃ~」


 探し物をしているとは思えない気の抜けた声だった。それにここって、さっき大欠伸をしていたような……。とにかく、ここが探し物をしているというのなら、私たちも手伝った方がいいだろう。


 ――人手は多ければ多いほど探し物も見つかりやすいってね。


「ねぇ月風。私たちもここの探し物、手伝わない? ダメかな?」


 とりあえず、契約のせいで私から離れられない月風の意見を聞いてみた。


「はぁ、お前がやるって言うなら俺もやるしかねぇよなぁ。それに、こいつだけで探し出せるとは思わねぇし」


 月風は諦めたような顔でそう言った。だが、彼にもここに協力する意思はあるようだ。流石に、私だけの意思で月風を失せもの探しに巻き込むのも悪いと思っていたからほっとした。


「というわけで、ここ、私たちもここの探し物に協力したいんだけど、どうかな?」


 ここは私の申し出に尻尾をぴんと立てた。化け猫も普通の猫と感情の表し方が同じであるのなら、ここは今喜んでいるはずだ。


「わぁ~。探し物を手伝ってくれるなんて嬉しいですにゃ~」


 ――化け猫ってただのしゃべる猫?


 ただの猫と同じ仕草で喜ぶ化け猫の承諾を得て、私と月風はここの協力者となった。

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