第30話 二学期

 さて、まだまだ暑さが残る中、8から9へと月が変わる。長い夏休みが終わり、今日から2学期が始まった。


 みな騒がしい。久しぶりに会う友達との会話、休みが終わってしまった悲しみに暮れる者もいるだろう。中には宿題が終わらずに目が泳いでいる人もいる。

 あとは、最終日に徹夜をして目の前で燃え尽きている野球部員とか。


「海成、大丈夫?」

「・・・・・・おぉ、なんとかな、だが、もう俺はダメかもしれない」

「これからはちゃんと計画的にやりなよ」

「おう、そうするぜぇ・・・・・・」


 普段はあんなに元気なのに、勉強のことになるととことんダメになるなー、海成は。


「てか、空はだいぶ夏休み楽しんでたみたいだな」

「え、そうかな?」

「そうだろ。だって、結構焼けたんじゃねぇか?」


 そう言われて、僕は自分の腕を見る。

 あー、確かに?去年とかよりも黒い気がする。これも美琴さんと遊んだ結果だろう。


「まぁ、いつもよりは遊んだかもね」

「くぅー!やっぱり楽しんでたみたいだな!あ、栞ー!大会どうだったよ?」


 彼は思い出したかのように、栞を呼んだ。


「んー、ちょっと悔しい結果だったかなー」

「そうなのか!でも、次はいい結果を出すんだろ?」

「うん、次はもっと速くなるよ」


 海成は笑顔でそう尋ね、栞も笑顔で答えた。

 これがスポーツをやっている人間なのかと、僕は感心した。


 時間はある程度経っているとはいえ、悔しい思いをしたのだ。なのに、ここまで真っ直ぐに次を見据えることが出来るのは凄いと思う。

 彼女たちはスポーツが、本当に好きなのだと分かるのだ。


「それに、空も応援しに来てくれるって約束したからね」

「うん、栞が頑張ってる姿をもっと見たいからね」

「それなら恥ずかしい姿は見せられないね」


 彼女は、むんっと軽いガッツポーズを取った。

 僕からしたら、走っている彼女に恥ずかしい姿なんてない。先日見た姿は実にかっこよかった。


 だが、彼女の中でも重要な事があるのだろう。順位しかり、タイムしかり、色んなことがあるのだろう。

 だから、僕が出来ることといえば応援ぐらいだ。応援して、彼女が頑張っている姿をちゃんと見る事。それが大事なのだ。


「おお!なんか2人の距離縮まってないか?前まで君とか、さんとかついてたよな?」


 海成は僕らの呼び方の変化に気づいた。

 まぁ、よく一緒にいたし、気がつくよな。


「うん、もうそろそろね」


 栞はにこりと嬉しそうに笑顔を見せる。


「そうか!なら俺のこともウミナリと是非呼んでくれよ!」


 彼は出会った頃からそのあだ名で呼ばれたがっていた。栞のことも名前呼びしたし、そろそろ呼んであげてもいい気がする。


「まぁ、そうだね。でもここまできたら頑なに呼ばないってのも手じゃない?」

「おい!それはないだろううよー!じゃあ俺も空のことスカイって呼ぶからよ!」

「それはどうか辞めてくれ、ウミナリ」


 空でスカイはないだろう、スカイは。僕はそんな呼ばれ方で呼ばれたくはないね。


「ははっ!呼んでくれたな!よし、俺らの友情はさらに深まったって事だよな!!」


 彼は、嬉しそうに僕と肩を組んできた。少し暑苦しい気もするが、これが彼のいいところなのだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 今日は始業式、特に授業とかもなく、午前で学校が終わる。

 その為に、ここからの時間は部活の時間となる。


 夏休み明け一発目。運動部なんかは夏に大会がある事が多く、それが終わり少し気が緩むのだろうか?

 それとも、栞のように新たな目標の為に精を出すのだろうか?

 そこら辺は人それぞれだと思う。


 僕らみたいな文化部は、差し迫る文化祭に向けて制作を行うのだろう。

 夏休み中にも活動や執筆はあったからものの、期限が迫ってきているとなるとどこか緊張をしてしまう。


 書いたものを見られるというドキドキがある。

 こういった活動は初めてだし、小学生の時とかにやった作文とは違う。

 感想を書くとかではなく、物語を作らなければいけないとなると、なんか大層に考えてしまう僕がいる。


 まぁ、しかし書きたいものも決まっているし、考えている物語があるのだ。

 自分がやりたいようにやるだけである。


「・・・・・・」


 そんな事を考えていると、遠くからこちらに迫ってからような足音が聞こえてくる。

 ああ、いつも通り。

 一ヶ月半ぶりに聞いたのだが、久々の感じがまるでない。むしろ、実家感さへあるのだ。


 ガラリと勢いよく扉が開かれる。


「やぁ!空くん!!今日も元気かい?私は超元気だよ!!今日から二学期だね!!楽しいね!!」


 とても大きな声で、とても笑顔の美琴さんがそこには立っていた。

 なぜ、この人はこんなにも楽しそうなのだろうか?

「二学期だね、楽しいね」とか僕にはもうよく分からない。


「こんにちは美琴さん。僕は、元気ですよ」

「そっかそれはいいね!」


 久々にクラスメイトに会えたからだろうか?二学期がよほど嬉しいのだろう。もう、満面の笑みを崩さない。


「美琴さん、楽しそうですね」

「いやー!そうだよ!二学期だからね!!体育祭とか、修学旅行とか、文化祭とか!あるからね!!楽しいね!!」


 もしかしてこの人、「楽しみだね」を通り越して、すでに楽しくなっているのでは?

 この調子がそのイベントの当日まで持つのだろうか?いや、下がってもイベント事が近づけばまたこの調子になるのだろう。

 この人はいつでも楽しそうなのだから。


 美琴さんと話していると扉が開き、人が入ってきた。


「やぁ、みんなおはよう」


 部長さんが入ってきた。それと、もう2人。

 1人は背の高い眼鏡をかけている男性。制服を着ていて、部長さんと同じ色のネクタイを身につけている、3年生の先輩だ。どこかで見た事があるような・・・・・・?

 もう1人は小柄で、スーツを見に纏った女性。先生なのだろうが、会ったことのない先生だ。


「あー!八木さんと紗羅ちゃんだ!!来れたんだね!!」

「美琴ちゃんは今日も元気ね」

「はい!!」


 美琴さんが嬉しそうに手を振る。

「紗羅ちゃん」というのは聞いた事がある。確か、この文芸部の顧問だ。国語教師の赤間紗羅先生だ。

 もう1人は・・・八木さん、何処かで聞いた事があるような・・・・・・


「・・・生徒会長?」

「うん、そうだよ。僕はこの学校の会長をやらせてもらっているんだ」


 にこりとこちらに笑いかける会長。

 なんだか有名人と会った気分がする。


「なぜここに?」

「ああ、それはね、一応僕もここの部員だからだよ」

「え、会長がですか?」

「そうだよ。でも、今は名前だけ置いてる感じかな。基本的には生徒会の業務をやったり、他の部活動にも参加しているから顔は出せてないんだけどね」

「ふふ、それでも私が良いと許可をしているんだよ。柊吾は何でも出来る人間だからね。いろいろ経験してもらって、話を聞かせてもらってるんだよ」


 いろいろか、その話が部長の小説の力になっているのだろうか?

 どこか漫画の中に出てくる生徒会長のような感じに思える。


「えっと、華咲空君だよね?今まで部活動にも顔を出せなくてごめんなさい。一応この文芸部の顧問の赤間です。何か困った事があればいつでも言ってね?相談に乗るからね!」

「あ、えっと、こんにちは。華咲空です。よろしくお願いします」


 彼女はぺこりと深いお辞儀をした。こちらも釣られて、返す。

 真面目そうな良い先生だと思った。多分生徒達に人気だろう。


「さて、自己紹介も済んだし部活動を始めよう。今回は文化祭についてだ」


 こうして、僕の二学期が始まったのだ。

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文芸部員たちの世界を救う物語? 一華ボタン @rillahollow

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