第24話 異世界学その3
「じゃあ早速空くんに質問だ!」
「はい」
「魔法ってなんだと思う?」
「魔法ですか?」
美琴さんからの質問だ。今回の異世界学に一番重要な要素なのだろう。
魔法、魔法、魔法?現実にはない不思議な力みたいなヤツだ。
例えばゲームなんかで敵を攻撃できるもの。炎の塊を出したり、氷の塊をぶつけたり、一度行ったことある街にワープ出来たり、そんな感じ。
単純になんでもできるイメージがある。だから、僕の回答はこうなるだろう。
「言葉一つで超常現象を引き起こすこと、ですかね」
「なるほどね、いい回答だ」
美琴さんはうんうんと頷き、ホワイトボードに書き出した。
「やっぱり、魔法ってのはなんでもできる力だと思うんだよね!戦う力にしろ、日常生活を便利に彩るにしろ、夢があるものなんだよねー!」
美琴さんも同じようなイメージのらしい。
創作の世界でしか存在しないようなものだ。漠然としたイメージしかないのは仕方がないのかもしれない。
「この魔法ってさ、どうやって出すと思う?」
「出すですか?」
「うん、発動と言い換えてもいいね」
発動するには・・・どうすればいい?
僕は物語の世界を思い浮かべる。
「詠唱する、えっと呪文とかを声に出すですかね」
「そうだね、それも手だろう!長い相性を経て、発動に至る。なんなら君が言ったように言葉一つで、魔法の名前を言うだけで発動もできるね」
美琴さんはホワイトボードに書いていく。
ならば、魔法には言葉が重要ということか。
「それに加えてね、儀式とかでも発動しそうだよね。生贄を用意する、陣を敷くとかね」
黒魔術とか呼ばれているものはそれに該当しそうだ。呪術とかに含まれそうだが、現象の発動としては魔法とかと似ているかもしれない。
「あと、忘れてはいけないのが魔力の有無だよ!」
美琴さんは大きく魔力と書き、まるで囲う。
「確かに、魔力が無ければ何も出来ませんね」
魔力、マジックポイントなど、言い方はいくつかあるが、単純に魔法を使うためのエネルギー的なものだ。それが無ければ話にならない。
魔法とは超常現象を起こせる力だ。それが何も無しに発動してしまうのはおかしな話になってしまう。
「魔力を何かしらに変換して、魔法を放つ!認識はこんなものでいいかな?」
「そうですね」
「よしよし、魔法の認識に相違がないと言うことで、ここで本題だ!」
「本題ですか?魔法について考えるんじゃないんですか?」
「そうだよ。だけど、私が今日聞きたいのはこれさ!」
美琴さんはホワイトボードに大きく文字を書き出した。
そして、恒例の何が書いてあるか分からないイラストだ。今回は・・・魔法使いの絵でも書いたのだろうか?
まぁいい。絵の事は置いておこう。僕は美琴さんが書いた文字を見る。
「魔法が存在しているのか・・・ですか?」
「そう!この現代において、魔法は存在するのかどうかだよ!」
「なるほど?」
超常現象を起こすって事で、物語の世界では定番だけど、こと現代においては存在しないで結論づけられそうだ。
しかし、これを本題に持ってきたのならば、何かあるのだろうと思ってしまう。
てか、これって異世界学なのか?
「さて、空くんはどう思う?」
「え、存在しないんじゃないんですか?」
「ふっ、甘いね!魔法って何ってさっき聞いたよね?」
「そうですね」
僕はホワイトボードに書かれた、魔法とは?の欄を見る。
現代で超常現象が起こる事なんて、僕は出会った事がない。色々解明できない事はありそうだが、『魔法』と断じてしまうのは違う気がする。
「じゃあこれをもっと単純に考えよう」
「単純ですか?」
「超常現象ってさ
そうだろう。理解できないからこそ、常を超える現象なんだ。
説明としては先ほどとそんなに変わっていないのでは?
「それは人智を超えている事と同義!なら、魔法は人智を超えたものだ!」
人智を超えるものと魔法がイコールで繋がれる。
「じゃあ人智とは何か?」
「人智ですか?えっと、人の知恵とか知識とか、考えとかですかね」
「そう、人智とは人間の知恵!言葉通りの意味だ」
人智の下に線が引かれ、そこから人の知恵が追加される。
なんだか簡略化された気がする。魔法とは人の知恵を超えたものということになる。
「見ての通りだ。これでほぼ魔法は存在すると断言していい!!」
「話が飛びすぎてません?」
「いいや、飛んでないね!!魔法とは人智を越えればいいんだよ!」
これだけ聞いてもよく分からない。人智を超えるなんて簡単な事ではないだろうに。
「空くん、私はね人智なんてものはありふれていると思うんだよ!」
「ありふれている?」
「そう、このホワイトボードとかペンとか人智が込められている。そして何よりも本の中には、物語の世界には私たちの想像を超えてくる世界が存在している」
それはそうだろう。人類がここまで歩んできた道のりは人智を駆使して作られてきている。
そう考えるとありふれていると言っていいだろう。
「そう、これら全ては私たちでは理解できないんだよ!構造は知れるけど、これを作ろうなんて思考にたどり着いた道筋を私達は知り得ない!なぜこんなものの考えになったのかなんて、私たちには理解できない!
そして、私たちは人間だ!なら人智は私たちの知恵だ!!て事はさ、私たちは常に人智を超えられているって話にならない?」
いささか主語がでかい気がする。が、なんか理解は出来てしまう。
自分に理解出来ないからこそ、それらは人智を超えているといっているのだ。
「そして!逆もまた然りなんだよ!他人から見たら私の考えを知ることは完全に知る事は出来ない!思考、感情、いろんなものが混ざっているからね!」
ホワイトボードに色々書き加えられていく。
美琴さんの考えでは、人から見たら僕らも人智を超えているということだろう。
「さて、これで繋がったね?」
僕は少しごちゃごちゃとしたホワイトボードを見る。そこには確かにイコールで繋がっていた。
「・・・魔法は存在するってことですか?」
「そう!魔法は存在し、ありふれているんだよ!!」
実に無理やりな理論に思える。だが、不思議と納得してしまう。
美琴さんの自信がそうさせるのだろうか?それとも僕自身が魔法をあると思っているのだろうか?
「魔法は広がり、人の心に届いていく!!自分の歩く道筋こそが、
この世界には『魔法』が溢れている。人が考え、動くたびに魔法が生み出される。
ああ、そうだ。人類は想像もできないような事柄をやってのけてきた。
火を自在に起こした、空だって飛んだ、電気だって発生させられるのだ。
これらはもはや『魔法』といってもいいだろう。
「可能性は無限大って訳だよ!!」
美琴さんはバンッとホワイトボードを叩く。途中理論的に進めいていたと思うが、結論はなんか大雑把だ。
まぁ、なんだか美琴さんらしい気がする。
「ふふっ、ねぇ、ねぇ、どうだった!すごく良くなかった?これ、思いついた時、キター!!って思ったんだけどさ!」
美琴さんが興奮したように聞いてくる。
まぁ、衣装のまま走ってくるなんて相当だろうと思っていたが、なかなか面白かった。
「面白かったと思いますよ」
「でしょ!!いやー、良かったー!!いいのが出来て!!」
いつにも増して楽しそうな美琴さんだ。まぁ、そうだろうな。自分の考えをちゃんと組み立てたのだから。
しかし、美琴さんの頭の中はすごいと思う。僕にはこんな事は思いつかないだろう。
僕なんか一つの話を考えるのも難し・・・・・・あ。
「ん、どうしたの、空くん?」
僕は思わず美琴さんを見ていた。
「いえ、ちょっと書きたいものを思いつきました」
「おー!!それって文化祭のやつかな?」
「はい」
「んー、そっか!!!とっても気になるけど、楽しみは後に取っておこうかな!!」
僕は忘れないようにメモだけは取る。
なるほど、これが思いつくという感じなんだ。こうバチっとくる感じ。
なんだかいつもの美琴さんの感覚がわかった気がする。
ああ、今なら完成できそうだ。さっきまでどう書いたらいいのか分からなかったのに、こう書きたいとか、こんな感じでいこうとか、いろいろ浮かんでくる。
今日はいつも通りの部活動だった。美琴さんの思いつきで始まった。
しかし、それがいいのだ。そのおかげで僕は前に進めた。
これも魔法の力なのかもしれない、なんて思ったりした。
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