第二話 生きている叶冬

 翌朝、雪人の母親は昨日はごめんなさいね、と機嫌を取るようにやたらと微笑んでいた。

 けれど雪人はそんな声には振り向きもせず、触れてくる母の手を殴り飛ばして家を飛び出した。


 雪人は終始辛そうな顔をして電車に揺られ、一時間ほどして辿り着いた先は病院だった。

 慣れた足取りで向かった病室に入る雪人に付いていくと、そこで寝ている人物を見て叶冬は出目金のように目をひん剥いた。


「叶冬。そろそろ起きろよ。出席日数足りなくなるぞ」


 横たわっていたのは叶冬だった。

 繋げられている医療器具はその肉体が生きている事を示している。


(……俺生きてんの?)


 金魚屋の女は未練を持って死んだ魂は金魚になると言った。

 自分の記憶でもあれは死んだだろうと思い疑っていなかった。けれど金魚屋の女が言っていたもう一つの言葉を思い出す。


『君はどうやら弔う価値が無い!』


(あれは生きてるから弔えないって事か?)


 叶冬は雪人に金魚屋へ行こうと伝えるべく激しく旋回する。

 ん、と雪人は金魚の叶冬を見上げたけれど、次の瞬間ぐらりと身体を揺らして床に倒れてしまった。


(雪人!)

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