アフターストーリー

 私は家に帰ってお母さんに、ありがとうと言った。

 仏壇の前に座り、今は亡き父をはじめとした先祖代々に向かってありがとうと気持ちを込めて祈った。

 LINEを開いて親友に片っ端から、仲良くしてくれてありがとうこれからもよろしくね、と送った。

 明日学校に行ったら先生にも感謝を言おうと決めた。


 面映ゆさなんて今の私には関係なかった。


 私はハルのくれた液の成分を調べてみることにした。毒薬ではないことはわかっていたが、私の中の尊大で臆病な好奇心が私をつき動かしたのだ。


 父は名のある化学の研究者だった。父の親友の人にお願いして、数滴残ったその液体を調べてもらうことにした。


 結論から言うとバニラエッセンスではなかった。その液体はコースのデザートなどの所謂高級料理に使うようなものらしかった。だから甘かったんだ。香りの成分まで解析するには資料が少ないらしく、わかったのはそこまでだった。


 バニラ……。


 私は次の日学校を休むことにした。先生に感謝を言う機会はたぶんあるはず。


 私はハルの家に行った。ハルと別れてから今日までずっと来ることが出来ないでいた場所のひとつだった。


 玄関先でハルのお母さんが迎えてくれた。突然の訪問に一瞬驚きを見せたがすぐに優しい笑みを浮かべて私を家の中へと誘う。その笑みは大好きだったハルのあの笑顔を彷彿とさせた。


 私は『ハルのくれた毒薬』のことだけを秘密にして、今まで来れなかった理由ややっと過去を克服できたこと、今まで抱いてきた数々の蟠りをハルのお母さんにぶつけた。


 ハルとどことなく似ているから落ち着いたのだろうか。私の精神はだいぶ落ち着いてきた。


 ハルのお母さんは泣きながら言う。


「アキちゃん。ハルのこと、大切に思ってくれて本当にありがとうね。あの子もきっとこんなに可愛くて良い子に愛されて、幸せだったと思う」


 面影を感じて、まるでその言葉がハルのものだと錯覚してしまって、私もつられて泣いてしまった。


 ハルのお母さんが私の身を抱き寄せた。ハルのお母さんはハルと同じ匂いがした。大好きなバニラの匂いと、あと何か。


 それから私たちはたくさん泣いたけど、窓から入ってきた優しい西陽が私たちの心をあたたかくして、涙も乾燥させた。


 そろそろ帰らなくちゃ。


「そうだ、アキちゃん。せっかくだから花持って行って」


 そう言ってハルのお母さんは庭に私を連れ出してくれた。そこにはたくさんの花々が活けられていた。


「私の夫が亡くなる時、アイビーという花の種をくれたんだ」


 アイビーの花言葉はね……


『永遠の愛』

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春と毒薬 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha

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