『毒鳥覆滅(三)』
「正剛! さっきも言ったが、奴らの羽や爪や
「はい!」
(
当初はどさくさに紛れて乱戦に雪崩れ込むつもりの凰蘭だったが、迅雄と秀芳の腕前を見てみたくもなって、とりあえずは静かに観戦することにした。
その時、上空を旋回していた鴆の群れのうち一羽が耳障りな怪鳥音を発して凰蘭に向かって行った。
真紅の嘴が凄まじい
戦闘態勢を取っていなかった凰蘭は反応が遅れ、気が付いた時には嘴が鼻先へ迫っていた。
凰蘭が急いで真氣を運用した瞬間————、眼の前の鴆の口から光の槍が吐き出された。次いで紫色の血液のようなものが飛び散り、凰蘭の服の裾に付着するとブスブスと音を立てて焦げ跡を残した。
「すまん! お前の服を焦がしちまった」
掛けられた声にハッとして凰蘭が顔を上げると、遠く離れた位置から正剛が槍を突き出している姿が眼に入った。その槍は先ほどまでとは比べものにならないほどの長さを有していたが、正剛が腕を引くと槍は通常の長さへと戻った。
「『
剣を振るって鴆を片付けながら秀芳が喝采を送ったが、正剛はブンブンと首を横に振った。
「いえ! まだまだです! 叔父上の技はもっともっと鋭く
これは叔父、
正剛は槍の穂先に付いていた鴆の死骸を地面へ打ち捨てると、槍を払って付着した血液をビュッと払い飛ばした。
「ありがとう、柳兄さま!」
「気にするな!」
凰蘭の感謝の言葉に正剛が笑みを持って応えた時、仲間をやられた鴆の群れが一斉に襲い掛かって来た。
「よし! 来い!」
気合一閃、正剛の横薙ぎが先鋒の四羽を真っ二つに両断し、上下に裂かれた嘴は二度と閉じられなくなってしまった。この様子を見た残りの鴆たちは横並びの隊列を組むのをやめ、間隔を空けて各個バラバラに襲い来る戦法に切り替えた。
しかし正剛は槍を引き戻しフッと短く息を吐くと、まるで剣山のように四方八方に槍を突き出した。
その突きは眼にも留まらぬ疾さだったが、正剛が槍を引き戻す度に槍の穂先に何かが順々に折り重なっていく。ほどなくして正剛は豪快に槍を回転させた後、石突きを地面に叩きつけた。
「よーし! 焼き鴆の下ごしらえ完了だ!」
正剛が誇らしげに宣言すると、八羽の鴆がまるで調理前の焼き鳥のように槍に貫かれていた。この恐ろしくもどこか滑稽な光景に思わず凰蘭がプッと吹き出した。
「ダメですよ、柳兄さま。そんなものを食べたらお腹を壊してしまいます」
「おっ、そうか! だが、よく言うだろう! 『毒を喰らわば』…………なんとやらだ!」
「ええ、そうですね」
正剛にしては頑張って頭を捻ってみたものの後の句が続かず、また、使い方も間違っていたが、凰蘭は微笑んで訂正しなかった。
「正剛!」
その時、後方から迅雄の大きな声が響いてきた。
正剛と凰蘭が振り返ると、一羽の鴆が凄まじい速さで二人のそばを通り過ぎていった。秀芳と共に鴆の群れを片付けていた迅雄だったが、どうやら一羽を取り逃してしまったようである。
正剛が急いで槍を構え直した時にはすでに鴆は十数丈先へと距離を空けていた。この距離は
見れば小さな
「おお! 今のは師娘(師父の妻)の技だな! さすがだ、
今度は正剛が喝采の声を上げた。凰蘭は褒められて満更でもないようで、ニコリと笑みを浮かべる。
この暗器は『
「……
愛称で呼ばれた凰蘭が再び振り返ると、それぞれ刀と剣を手にした迅雄と秀芳が神妙な面持ちで立っていた。
「……すまん……! 偉そうに言っておきながら、お前の技に助けられた……!」
誠実さに溢れた声で言うと、迅雄は刃を下へ向け包拳礼を
凰蘭は
「……顔を上げてください。張兄さま、林姉さま」
凰蘭の声に二人が顔を上げると、なんとも魅力的な笑顔がその眼に飛び込んで来た。
「お二人の力になれて、私とても嬉しいです……!」
二人に多少なりとも認められたと思うと、凰蘭の眼からは光るものが流れ落ちた。
その様子をウンウンとうなずきながら眺めていた正剛だったが、不意に北の方向へ顔を向けた。
「どうした? 正剛」
迅雄が声を掛けるが、正剛は村の北に生い茂る森の方へ視線を向けたまま答える。
「……いえ、多分気のせいです」
「妖怪の気配は消えた。おそらく森に棲む獣だろう」
「……はい」
正剛は釈然としない様子だったものの、ようやく向き直った。
「よし、では秀芳は村の者に報告してきてくれ。鴆の死骸を処理したら出発しよう。今夜のうちに近くの
『はい!』
迅雄が指示を出し、四人は動き出した。その様子を遠くの樹々の間からジッと凝視する八つの眼があった。
「————俺たちの気配に気づくたあ、勘のいい野郎だ」
一つ目の声は男のもので、陰険さが溢れていた。
「勘だけじゃないわ。あの大男、かなりの腕前よ」
二つ目の声は女のもので、慎重さが隠されていた。
「では、あの男はお前に任せよう」
三つ目の声は男のもので、冷静さが込められていた。
「…………了解」
四つ目の声も男のものだったが、その声は何かに遮られているかのようにくぐもっていた。
———— 第六章に続く ————
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