鮮血のパラドックス
白雪凛(一般用)/風凛蘭(BL用)
第1話 魔法が使えない少年
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はぁはぁ
肩で息をしながら、目の前の敵と対峙する。
血のせいなのか相手の表情がよく見えない。
切り落とされた右腕。もはや痛みの感覚すらない。
このままじゃ、殺される。
恐怖で立っているのもやっとだ。
辺りに視線を巡らすも、そこには目の前の敵にやられ、倒れているものだけだ。
この暗闇の中で、唯一彼の瞳だけが、血のように真っ赤な輝きを放っている。
****
「ぬるい」
隙を突かれていとも簡単に木刀が目前で止められた。
「参りました」
師匠との稽古でいとも簡単にねじ伏せられてしまう。
「お前は目の前しか見えていないからいけんのじゃ。視野を広くしておかないと死角からの攻撃でやられてしまうぞ」
「散々言われてるので気をつけているつもりなんですが……」
「次に儂とあやつがやるからよく見ておくといい」
「はい……」
あいつとは最近この道場にやってきた、ロウと呼ばれる少年だ。
身長も年も僕と同じくらいのはずなのに、師匠にも引けを取らないくらい強い。
師匠とロウの手合わせが始まる。静まり返った道場では師匠とロウが対峙しながら相手の動きを探り、ゴォンと木刀がぶつかりあう。
ロウは臆することなく積極的に師匠に攻撃していく、師匠は軽く躱しながらガラ空きの左脇腹目がけて反撃をする。
しかしロウはあえて誘ったのですと言わんばかりのスピードで木刀を捌き、押し返す。
早くて激しい戦いが眼前で繰り広げられ、何が起こっているのかを把握するだけで精一杯である。
しばらく膠着状態が続いたが、カーンと一際大きな音が響き、床に膝をつくロウ。眼前には師匠の木刀があった。
「ありがとうございました」
ロウは師匠にお辞儀をする。
「今日の稽古は以上」
師匠の号令があり道場にいたものは各自解散していく。
帰り道。
どこからか視線を感じ、周囲に気を配りながら歩く。
そこだと思い、手に持っていた刀を振り下ろすもそこには何もなかった。
近くにいた年の近い子供たちから声が聞こえてきた。
「おぉ怖い怖い」
「魔力見えないからって、刀振り回すとかこわっ」
この程度の悪口はもはやいつも通りすぎて反論する気も起きない。
僕は見た目も能力もこの村の人とは違う。この村の人は皆魔法が使える。だから同世代の子は僕を見ては嘲笑する。嘲笑だけならまだ可愛いものだ。彼らは魔法を使って嫌がらせをしてくることもしばしば。
昔は違うところで暮らしていたという師匠は、この村が異常なのだと言っていた。
この村に定住する前、旅をしていたという師匠は、大陸全体でも魔法を使えるのは3割程度だと言っていた。師匠も元は使えなかったという。だから魔法が使えなくても困らないように剣術を教えてくれている。
「シロ〜」
ふとどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ロウ……どこにいるの?」
辺りを見回すが声の主は見つけられない。
すると屋根の上からくるくると回転しながら人何かが降ってきた。
「何してるの?ロウ」
びっくりして声をあげた。
「ん?なんのこと?」
「なんのことじゃないよ。最近毎日僕のことつけてるでしょ?」
「えぇそれ俺じゃないよ〜俺そんなに暇じゃないし」
そう言ってロウは頭の後ろで手を組んだ。
「最近ずーっと視線を感じてるんだから」
「ふ〜ん。まぁ気をつけて。大人達が最近夜の見回りをしてるみたいだし」
「えっ?何かあったの?」
この小さな村で、見回りなんて今までにあっただろうか?気づかなかっただけだろうか。真剣に考え事をしているとロウの笑い声が聞こえた。
「シロは本当に何にも知らないんだな」
自分は知ってますみたいな言い方に、少しイラッする。
「知らない。ロウは何か知ってるの?最近村に来たばかりなのに」
ロウはこの村の子ではない。2週間くらい前に村が襲われたから逃げてきたと言っていた。そして村長は師匠に相談して何人か師匠の弟子を連れて調べに行っていたのは見た。
「まぁそんな怒らないでよ。俺もたまたま見ただけだから」
そうなんだという言葉を飲み込み。そのまま無言を貫いた。
「まぁ警戒しとくに越したことないしね。ここ老人と子供が多いし」
「ロウも気をつけてね」
気づくと家に着いたので、ロウに別れを告げる。
「しっかり鍵閉めておけよー」
そう言ってロウは去っていった。
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