第36話

 長旅も終わり、ようやく王宮に辿り着いたわ!


「トレニア、ただいま戻りました!」


 私はすぐに薬師棟へ報告に向かったの。染みついた薬品の香りがする部屋に入り、ようやく戻ってきたのだと実感する。マード薬師長や他の皆も勢揃いで出迎えてくれた。


「お土産も沢山買ってきましたよ。このブランデーとコロンはマード薬師長とロイ薬師と、ヤーズ薬師にです。あと、こっちの樽はあとの皆さんで仕事終わりに一杯出来るように地エールを買ってきました!」


 地エールにみんなは興奮している様子だ。気に入ってもらえたようで良かったわ。


「あと、カイロニア国で近年発見されたサロニア国にはない薬草を株分けして貰ってきました。うちからも二種ガーランド領しか生えていない植物を送る事にはなっているんですけどね」


 私がそう言うと、みんなの動作がピタッと止まり、一同の視線が私に向かっている。何か駄目な事をしたかしら?


 えっと、だって、向こうの薬師さんが気軽な感じで株分けしてくれたし。


 違法、ではないわよね?


 私は緊張しながらマード薬師長を見つめ返す。


「トレニア薬師、よくやった! 入手困難な薬草をよく手に入れてくれた。これで新薬開発にも新たな道が開けそうだ。褒美を用意しよう。欲しい物はあるかな?」

「うーん。特には考えていなかったのですが、三日ばかり休暇を頂きたいです。流石に長旅で疲れました」


 マード薬師長はにっこりと微笑んで休暇の許可を出してくれた。それと同時に他の薬師達からチーンと聞こえてきそうな音と共に遠い目をしていたわ。


「そうだ、トレニア薬師。せっかく休みを取るんだったら一日は一緒に出かけないか?サーロン植物園で珍しい植物が入ったらしいんだ」


 珍しい植物……。

 どんなものかしら。


 新薬の材料になりそうならいいな。私は期待に胸を膨らませながら返事をする。


「ターナ薬師、行ってみたいです」

「えー俺も行きたい。ターナ、俺も連れて行ってよ」 

「レコルト薬師、そんな暇ないですよね? みんな一気に休めないですから」

「えー。残念」


 私とターナ薬師は残念がるレコルト薬師を横目に植物園の話をし始める。


「では、二日後の朝、迎えに行くから準備しておいてくれ」

「分かりました」


 私は植物園に行くことを楽しみに仕事を終えて帰宅した。


 他の薬師は私が土産に持って帰ってきたエールを仕事帰りに一杯飲んで帰ると言っていたわ。


 あの喜び具合だとすぐにエールはなくなりそうね。


「ローサ、ただいま。ローサも疲れたでしょう? ちゃんと休んだ? 私は明日から三日間の休暇をもぎ取ってきたわ!」

「お嬢様、お疲れ様でした。私はしっかり休ませていただきましたよ。明日からはどうされるのですか?」


「明日はお父様にお土産を渡しに行って領地の薬草をカイロニアに送って貰うようにお願いする予定よ。二日目はターナ薬師と植物園に行ってくる。三日目は家でゆっくりと休む予定よ」

「分かりました。お嬢様が一日家でゆっくりするのは疑わしいですが、明日のために侯爵家に先触れを出しておきますね」


 そうして私は疲れもあって早めの就寝となった。



 翌日、ローサに起こしてもらい、ローサに準備してもらい、ローサと共に辻馬車に乗って侯爵家へ向かった。私ってばローサがいないと何にも出来ない子になりそう。




 久々の侯爵家。三年ぶりね。


「トレニアお嬢様、お帰りなさい」


 侯爵邸の扉を開けると使用人達が総出で迎えてくれた。新しい顔ぶれも多いが、中には涙してくれている侍女もいてこっちまで涙が出てしまいそうになった。


 あの時は自分の事だけで精一杯だったなとしみじみ思う。


「お父様は執務室かしら?」


 執事に聞くとお父様とルーカス様は執務室に居るらしい。執事の案内で執務室へと入るとあの時より痩せた父とルーカス様がソファに座って雑談をしているようだった。


 二人の姿を見て父達は母や姉妹に振り回されているのかもしれない。私からは疲れているように見えた。


「お父様、ルーカス様お久しぶりです。今日は隣国から帰国した報告とお土産を持ってきました」


 私は鞄からブランデーと葉巻を渡すと、父はふわりと笑顔になり、喜んでいる様子だ。


「トレニア、ありがとう。ところで仕事の方はどうだ? 辛くはないか?」

「お父様、マード薬師長や他の方々からも良くしてもらっていてとても楽しく仕事をしています。


 このブランデーと葉巻もカイロニア国の第三王子殿下であるカイン様のお勧めだそうですわ。今は仕事をし始めて沢山の人に会って充実していますし、やりがいも感じているんですよ。


 そうだ、ルーカス様。先日初子が産まれたとローサから聞きました。おめでとうございます。待望の男の子だそうですね。これは少しですが私からのお祝いです。これでガーランド侯爵家も安泰ですね」


 私はローサから伝え聞いて慌てて出産祝いの品を買ったの。洋服と小さなぬいぐるみをルーカスに渡す。


「トレニア、ありがとう。トレニア、ガーランド邸にいつでも帰っておいで。お義父上も寂しがっているからね」


 父が寂しがっている?

 何の冗談かしら?

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