第3話

 いつもよりも早く起きて僕は私服に着替える。今日は東京で運命の人が知らされる日だ。スマホを確認して岡田にメッセージを送る。


「既読つかねー。あいつ絶対まだ寝てるだろ」


 岡田ならあり得る話だ。あいつの別名は遅刻王と呼ばれている。授業に遅れ、テストに遅れ。すごい時は模試の最後のテストの終了10分前に来たこともあった。あの時はクラス全員が吹き出したのを覚えている。

 僕は朝食を食べてから家を出る。面倒だが岡田の家まで行くことにした。


『ピンポーン』


「大悟いますか?」


 ガチャ。中から出て来たのは大悟の妹の香織ちゃんだった。黒髪ロングがよく似合う大悟に似つかずとても愛らしい中学三年生だ。


「あ!久しぶりー!」

「香織ちゃん久しぶり。大悟いる?」

「いるよ!でもたぶん寝てる。起こしてこよっか?」

「お願い」


 香織ちゃんは「お兄ちゃん起きてー!」と大声で二階に上がっていった。しばらくすると寝ぼけ眼の大悟が香織ちゃんに連れられて降りて来た。


「申し訳ございません。靴を舐めさせていただきます」

「いいから。とにかく着替えていくぞ」

「本当すまん。朝弱くて……。1分待って」


 そう言ってドタドタ二階に戻っていった。僕と香織ちゃんだけが残される。すると香織ちゃんが訊いてきた。


「今日、『運命の日』なんでしょ?」

「そうだけど」

「そっか……」


 香織ちゃんがモジモジしている。


「トイレか?」

「違う!その……。もし運命の人が私だったら言ってよね!その時は付き合ってあげるから!」


 顔を赤らめて香織ちゃんがそう言った。


「うんうん。その時はよろしくな」

「え?いいの?」

「いいの」

「ん?二人で何話してんだ?」


 そこで岡田大悟が降りて来た。


「お兄ちゃんには関係ない話だよ!」

「そうか。まぁいいや。行くか」

「そうだな。じゃあね香織ちゃん!」

「うん。またね!」


 僕と岡田は電車に乗って東京へ行く。満員電車に乗ったので僕はスマホでUNTERMRADの曲を聴く。今は『meheshe』を聴きたい気分だった。三角関係の失恋ソングだったが、聴いていてどこか落ち着くのだ。

 電車は東京の三鷹に着いた。ここにある東京ゼーレ研究所という場所で運命の人が分かるのだった。町には高校生らしき人がたくさんいた。


「あの服はないわ」


 岡田が通りすがる人の服を評価している。僕は音楽を聞き流しながらその評価に頷く。


「あの子可愛くね?」

「どれ?」


 岡田が指さした方には確かに可愛い女性がいた。その可愛さはどちらかというとボーイッシュで大人な可愛さだった。ショートヘアにキリッとした目。モデル体型でそれなりに胸もある。僕が見つめていると彼女はこちらに気付きそしてこちらに歩いて来た。


「見つけた。私の運命の人」


 確かに彼女はそう言った。


「え?俺?」


 岡田が答えると彼女は首を振って手に持っていた紙を見せる。揺れた髪の隙間からピアスが煌めいた。


「はい。これ見て」


 彼女は紙を取り出して見せる。それは前にネットで見たことのある『運命の診断書』だった。


「ほら。この写真。これ君でしょ?名前はきょう君だよね?」

「そ、そうだけど……」

「なら当たりだ。ねね。付き合おうよ!」


 彼女は僕の腕を彼女の胸に押し付けて抱きついて来た。


「ちょっと待って。今から僕も診断しに行くから」

「無駄だって。あなたの運命の人は私だもの」

「岡田。なんとかして」

「いや。ただただ羨ましいぞ。愛ちゃんという存在があるのに」

「愛?誰それ?」


 彼女は首を傾げた。綺麗な真っ白のうなじが見えてとてもエロかった。


「こいつの彼女だよ。だから付き合うのはやめとけ。あと俺が代わりに付き合ってやるよ」

「あはは。君、ジョーク上手いね。でもダメなんだ。私決めてたから」

「何を?」


 岡田が聞き返すと彼女は平然と言った。


「運命の人に処女を捧げるって」

「え、処女?」

「うん。だからさ。今日これから私の家来ない?今日家に誰もいないんだー」

「そ、それは……」


 僕が戸惑っていると岡田が救いの手を差し伸べた。


「ダメだ。これから俺とコイツで運命の人を診断しに行くから」

「えー。じゃあその後で遊ぼうよ。どうせなら君もうち来る?セックスはダメだけど、エッチなことならしてあげるよ?」

「あ。是非そうしましょう」

「おい。岡田!」


 簡単にエロに釣られた岡田を諌める。


「じゃあ私ここで待ってるから」

「どうしても待つつもり?」


 僕がそう尋ねると彼女は上目遣いで呟く。


「だって運命の人だもん」

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