3話 ゲーム世界

 酒場の主と自分と身分の違いを知った翌日、僕は白い建物の前に来ていた。


 (改めてみると、でかいな)

 

 他の家が粗末でちっちゃいからかもしれないが、それを踏まえてもこの教会はでかいと感じる。この村で一番でかい建物は、この教会だ。村長宅や酒場などあるが、やはりこの建物が一番規模が大きい。


「ん?」


 僕は、入ろうとするが何かに阻まれる。


「貴様、何をしている」


 裏庭から人が現れる。


「入ろうとしてます」


「身分はなんだ?」


「農奴です」


 そう言うと、その人は目つきが鋭くした。


 (この目、見たことある)


 いじめられっこだった時によく周りからされた目だ。まぁ、いい。されたことがあるからな。


「関係あります、身分?」


 そう言うと、更に顔を険しくする。


「当たり前だ。ここは、神聖な教会だ。お前のような輩が入ってよい場所ではない」


「農祭の分のペナルティーとして、ここに掃除しに来たんですけど」


「それでもだ。掃除は他の者に依頼する。お前は、他の仕事をしろ」


 (まぁ、いいか。ここまで言われたらしゃーない)


 僕は、帰ろうとする。酒場の方角にいこうとしただが、


 刹那、声がした。


「さすがにひどくないですか」


 教会の扉が開く。そして、少女が顔を出す。


「?!シンス様、聞いておられたのですか」


 僕を追い払おうとした者が敬語を使っているが今はどうでもいい。僕は、その少女の顔をじっとみる。


(あれ、この顔どこかでみたような)


「聞いてましたよ。失礼じゃないですか」


 2度目の声を聞いて、ようやく思い出した。この少女は―


「掃除してもらいましょう」


 この世界の主人公の1人だ。


 ◯


 悲報、この世界はゲームの世界だったらしい。

  確かに、国名が聞いたことあったり、冠の選定という言葉に聞き覚えがあった。今回、この少女を見て、ここがゲームの世界だと今日知った。  


(確か、英雄の宴だっけ?)


 4人主人公がいて、目の前にいる青髪の少女はその1人だ。

 僕は、掃除をすることになった。青髪の少女―シンスのおかげだ。さっき僕を追い払おうとした奴は、少女の後ろに控えている。めっちゃ、こちら睨んでる。

 

(悔しそうにしてるけど、まぁ身分を考えればそうか)


 相手は、『聖女』候補だ。男の素性を知らないが、下手に出れないのだろう。


 説明しよう。『聖女』候補とは何か?それは、勇者の側に控え、魔王を討伐の支援をする役目を持つ者だ。


「『フレイ』」


 少女がそう言うと、壁のシミや地面に落ちた埃が消える。


「シンス様?!そこまでしなくても良いのです!そもそも、本来あなた様はこんな場所に―」


 この世界には、『預言者』というクラスを持つ者がいる。最も、一部の権力者にしか存在を知られてないが、その力は絶大だ。文字通り彼らは、預言をするのだ。

 

(確か、シンスは預言に沿ってここにいる。目的は、『勇者』の監視だろう)


 本来ならここにいる身分ではない。だが、『勇者』の監視のためにここにいる。


「良いのです。失うものは何もないのですから」


 僕は「ありがとうございます」と言うと、箒を持って掃除を始める。


 ◯


 掃除はすぐに終わった。『フレイ』という魔法を使ってくれたおかげだろう。


「魔法を使ってくれて、ありがとうございます」


 神像に祈りを捧げる少女に向けて礼を言う。


「いいのです、失うものはありませんから」


―失うものはありませんから


 そういえばこの言葉を聞いて、彼女は魔獣の襲撃により両親を失っていたことを思い出した。ゲームを知っている自分からすれば、かなり深い意味を持つ言葉なのだ。

 会話を終えると、僕は教会の外に出る。


「おい、貴様」


「なんですか」


 僕を追い払おうとした男が姿を表した。


「今日以降、シンス様に近づくな。もし近づくならば、殺す」


「近づきませんよ」


 本当に殺すのだろう。この世界は命が軽いし、僕の身分は農奴だ。相手からしたら、石ころのようなものだろう。だが、心配無用だ。


「シナリオに影響を与える可能性があるので」


 僕という存在がシナリオに影響を与える可能性があるのだ。ちっぽけだが、ささいな少しの会話でも影響を与える存在になりえるかもしれないのだ。


「世界は彼女たちに任せますよ」


 今日、主人公になれないことは分かった。おかげで、普通の人生を送る目標がより明確になった。彼女もそうだが、この村にいるであろう他の3人に対しても関わる気は僕にはない。


「何を言っている?まぁ、近づないのならば良い」


 

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