第12-2話 登場

未縫衣みぬいさん?」


 モップモンスターの行動でいっぱいだった和胡わこは、彼女の存在に気づけなかったが、ホームセンターにいたようだ。


「うりゃあぁ」


 未縫衣はデッキブラシを振り回しモップモンスターに威嚇する。

 振り回す動作はぎこちなく、弟を守る一心だと読み取れた。


「何だ、こいつ」


 姉弟の前にいるモップモンスターは造作もなくデッキブラシを紐状の手で巻き付き取り上げる。

 しかし、その隙を見逃す和胡ではなかった。視界に入らないように素早く接近し、ブラシを取り上げたばかりのモンスターにデリートナイフで斬りつける。


「逃げろ、2人とも」

「逃げろって、どこに?」

「えと、とりあえず、そこの壁側に」


 未縫衣の素直な問いに和胡はアウトドアコーナーの壁側を指す。


 和胡はデリートナイフをモンスターに向けながら背中を壁側に向ける。視線を外さず2人に問う。


「非常口か、それを指す看板が貼ってありませんか?」

「ここら辺にはない。もっと店の奥に行かないと」

「……」


 モンスターを倒すしかないようだと判断した和胡は改めて敵を観察する。


『今、確認できるのはピンク色のと、モップモンスターに変身していない自転車を乗り回していた奴の1匹と1人。

 壁側の通路は商品棚が配置されている通路よりは広いけれども、やり合うには十分ではない…モップモンスターが人より大きい分、小回りにたち振る舞えばよいが、変身していないのがどうでるか?』


 和胡は先に駆け出して斬りつけようかと思ったが、1匹と1人は互いに見合せたまま、襲いかかってくる様子はない。それどころか、この状況に戸惑っている様子だった。


「どうする? 一方的にポコられるなら狩りたいんだけれども、あっちチート武器あるし」

「あー、俺も遠慮しときたい。でも、ジィズマイ姐さんに怒られないか?」

「俺らの方がボコられるよな……どうする? 」


 会話からして戦闘意欲はなく、クラスZ(犯罪者)の集団とはいえ、そういう者たちもいるようだ。


「……」


 そのガリカル達に風が吹く。

 正確には鋭い一撃とそれによって発生した風が。


「…っあ」


 ピンク色のモップモンスターは、僅かな声をあげ倒れた。

 それを見ていた人型のガリカルも、体を二つに分けられ重量に従い床に落ちていく。


「……」


 風を起こした者は、物体と化したガリカル達の上に舞い降りた。


「まったく、数多ければ、少しは役に立つかなと思ったのに。まともに動きやしない。

 所詮、寄せ集めは、寄せ集めよね」


 聞き覚えのある声だった。

 床に触れそうなほど長い黒髪のポニーテールに整った小顔と、目のやり場に困る見事な曲線美を体にぴったりする革のボンテージドレスでまとった『特別な人達』


「ジィズマイ…」


 ガリカルのリーダー的存在は、自分の身長ほどある大きな曲刀を一瞬にして消してから、鮮血のような赤い目を和胡に向ける。


「あー、君かぁ。招かねざる客っていうのは」


 公園の時にはない鋭くえぐるような視線に、和胡は裏世界の女帝ジィズと関わりがある者だと再認識した。


「どうしようかな、狩りとるのは簡単だけれども…。

 君には楽しませてもらおうかな。ジィズ姐様が空き始めているんだよ。寄せ集めのガリカルたちのイベントに」

「……」

「良い事、教えてあげる。

 あと、8人でこの町は消えるから」


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