第6-4話 夢の原因

「みぬ姉が、幽霊になつた棚島とキスする夢を見たって、言ってた」


 休み時間中の教室、和技わぎは飲んでいた紙パックのココアを吹き出しそうになった。


「え?は? って…」

「? お前も大変だなぁ、夢にまで巻き込まれて」

「え…あぁ、うん…」


 昨夜の出来事を知らないクラスメート、粂戸くめとは、和技が本当に慌てる理由を知ることなく、更に話を進めようとしたが、彼の仲間たちに呼ばれ教室をあとにする。


「………」


 和技は昨日の出来事を思い出した。

 間近で振り返ったものの、唇どうしが触れるほど密接した距離ではなかったので、和技が行った強制終了は髪の毛で発動できた。


『……って帯論たいろんさん、未縫依みぬいさんの記憶は消してないのかよ』


 和技は声を出さず抗議を300年後の世界にいる向けると、脳内てはなくスマートウォッチの画面にメッセージが送られてきた。


『クラスCやD(プログラム)と違って生身がある子は、脳をなるべくイジらないのが推奨なんだよ。

 この前みたいに未縫依ちゃんの弟、誰だっけ? あいつみたいに思いっきりアウトなのを目撃しない限りはな』

『そう』


 スマートウォッチは和技が操作せずに勝手にメッセージが現れる。


『で、原因なんだが、美ボディ姉ちゃんがあげた力に間違いないだろう。未縫依ちゃんは瞬間移動能力を無意識に使ったようだな』

『未縫依さんは、ハムスターの尻尾が生えたと言ってたのに……なぜ嘘をついたんだろう?』

『自分だけ力が手に入らなかった焦りか、もしくはジィズマイ達のミスで2つ付けちまったかもしれないな』


 無事に強制終了できた未縫依は、能力を取り除き自宅のベッドに戻した所で再起動させた。

 粂戸の話からして今回の騒動は夢と判断してくれたようだ。


『さすがに突然瞬間移動する力をクラスB(普通の人達)が使用したから、上も慌てて修正プログラムを作成したようだ。数日後には、一斉送信されるから和技も忘れずに解除しておけ』

『わかった。これで食事が楽になる。本当に厄介な力だったよ』


 和技はスマホを取り出し、SNSアプリを起動させる。


『にしても…貰ったのは『特別』とは言えない僅かな力だったのに、その能力ですら取り上げられたら、ジィズマイやガリカルの評判がさらに悪くなるよな』


 和技の視線はスマホのSNS画面に移動し、今回の騒動に関する発言を見ていると、この時代ではありえない、パソコンのように4分の1ほどのウィンドウが勝手にスマホ画面に出現し帯論のメッセージが流れた。


『もしかしたら、それがジィズマイの目的かもしれん。


 クラスB(普通の人達)は、この世界の秘密を知らなければ、俺らに守られている事も知らない。

 『普通の人達』から見える『特別な人達』は贅沢三昧をする金持ちか、権限をふりまわして賄賂をふんだくる政治家と同じにしか見えない。


 そんな状況をジィズマイが目をつけたとしたら…

 クラスBの不満を大きくさせて、爆発。その時に起きた混乱を利用して何かやらかすつもりか?』

『かもしれない。

 あと気になるのはジィズマイはガリカルという所の一員と言っているから、他メンバーはどうしているんだ…』

「たなじまぁ〜聞いてくれよ」


 教室に戻ってきた粂戸の声を聞き、和技は出口の見えない会話を止める。


「何かあったのか?」


 粂戸がたどり着く前に、スマホとスマートウォッチ両方のメッセージを無操作で一瞬にして消し、普通の高校生に戻っていた。




 それより数分前。

 同じ校舎で同じSNSのページを見る者がいた。違うと言えば怒りの感情だろう。


「どいつもこいつも調子にのりやがって…」


 視界に入る男女の仲の良い光景にも怒りが増す。そのうちの一人が気になる娘ならなおの更のこと。

 その場から離れそうとしたが、スマホがメッセージを告げる。


「…」


 その者は怒りの感情から解放された。



『ガリカル団、始動命令』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る