第29話「終結」

<クリスタ視点>


 まだやることがある。

 私の宣言を聞いた途端、マリアの眉間に皺が寄った。


「やることはもう済んだだろう。ユーフェアはここにいる」

「実は、ここにいるドミニク公爵と交戦した際に聞き捨てならないことを聞いてしまいまして」


 私は縮こまってやり過ごそうとしていたドミニクをよく見えるように持ち上げ、


「彼は自らが王位に立つため、王族を根絶やしにする計画を実行していました。前国王の崩御も、二人の王子による紛争もすべて彼の仕業です」

「……アンタ、今の話は本当かい」


 マリアの目が、じろりとドミニクを見下ろした。


「言う訳がないだろう! こいつが適当なことを言っているだけだ!」

「ユーフェア、あなたも聞いていたわよね?」

「うん、言ってた。いずれは大陸を統べる真の王とかなんとか」


 私に賛同するようにユーフェアが頷くと、ドミニクは「うぐ」とうめいた。


「せ――聖女の頭が固いというのは本当だな! 場を和ますための冗談を真に受けるなど――」

「和ませる必要のない場面じゃなかったかしら?」

「うん、全然なかったね」


 私に賛同するようにユーフェアが頷くと、ドミニクは「うぐぐ」とうめいた。

 また何か言い訳してきそうだったので、釘を刺すように彼の首を掴んでいる指に力を込めた。


「あまり面白くない冗談は言わないでね。でないと私の特技を披露することになるわよ」

「と……特技?」

「そ。片手でリンゴを握り潰すっていうね。それをあなた自身の身体で体験したいというのなら無理には止めないけれど」


 そう告げると、ドミニクの顔から血の気が引いた。

 私はちらり、と横に視線を向けた。

 事態を見守っていたベティと目が合う。


「――ま、ここで言わなくてもいいわ。王子二人の前でちゃんと証言してくれればいいから」

「待ちなクリスタ。アンタがわざわざ行く必要はない」

「けれどこのまま放置というわけにもいかないでしょう?」


 ユーフェアとの婚姻問題だけならマリアの言うように話は済んでいた。

 けれど彼は聞き捨てならないことを言った。


 ドミニクはサンバスタを支配した後、いずれ他国へも手を伸ばそうとしている、と。

 他国の中にはもちろんオルグルント王国も含まれている。


 彼はもう、聖女を攫った誘拐犯ではない。

 戦争を企てる戦犯だ。


「アンタの言いたいことは分かる。けれどそれは聖女の仕事じゃない。憲兵に引き渡しな」

「ここの憲兵は信用できません。お金を詰めばいくらでも融通が利きますからね」


 まさに貴族街の入口でマリアが便宜を図ってもらったように、ドミニクも金にモノを言わせて事態をもみ消そうとするだろう。


 第三者が出ないと事態は収束しない。

 サンバスタ王国から見て第三者――つまり、私だ。


「サンバスタにも面子ってモンがある。アンタが出ればそれを潰すことになる」

「そうだそうだ! 部外者は引っ込んでろ! さっさと帰れー!」

「あなたは黙ってなさい」


 マリアに賛同するドミニクの首を絞めて黙らせる。


「彼にいいように操られている時点で面子も何もないでしょう」

「ここはオルグルント王国の中じゃないんだよ! いくら何でも限度ってモンが――」


 マリアの言いたいことも分かる。

 大人の世界には立てないといけない面子があることを。

 仮に私が出ることでサンバスタの紛争が解決したとしても、それを良く思わない人間も出てくるだろう。

 そういう輩に私が狙われないように「出しゃばるな」と言ってくれていることも。


 けれど私は、顔も知らない偉い人間の面子よりも、自分が通すべき筋を優先する。


「オルグルント王国を……ひいてはルビィを脅かす可能性がある芽はここで摘みます」

「いい加減にしな! ユーフェアの件はともかく、これ以上この国の事情に首を突っ込む気なら力尽くで連れ帰るよ」

「ベティ」


 私に十分な注意が向いたことを確かめてから、ベティに合図をする。

 音もなくマリアの背後に移動したベティが、彼女の肩に触れる。


 ――先にマリアを連れ帰って

 ――了解ッス


 ほんの一瞬のアイコンタクトですべてを察してくれた出来のいい後輩と目が合い、私たちはどちらからともなく、にっ、と笑った。


「じゃ、二人をよろしくね」

「待――」


 何かを言い終わる前にベティ、ユーフェア、マリアの姿がかき消える。

 三人はもうサンバスタ王国のどこにもいない。遙か遠いオルグルント王国のどこかに降り立っているだろう。

 ここに残るのは私とドミニクの二人だけ。


「説教は全部終わった後に聞きますから、今は許してください」


 姿の消えたマリアに向かって謝りつつ、私はドミニクを立ち上がらせた。


「さてと。王子がいる場所に案内してもらおうかしら」

「い……嫌だと言ったら?」

「そんなに私の特技が見たいのかしら」

「あぎゃあああああああああ!? 頭が割れるうぅぅぅぅ!?」



 その日はのちに、サンバスタの紛争終結日として後世に語り継がれることになったとか、なっていないとか。



 ▼


 サンバスタ王国でやるべきことを済ませた私は召喚札を使ってベティを呼んだ。


「お疲れ様でス、先輩」

「マリアの機嫌はどう?」

「先輩の想像の通りだと思いまスよ」


 苦笑いしながら、ベティ。

 彼女も相当怒られたようだ。


「ごめんなさいね、私のせいで」

「いえいえ。半分は自分のためでスから」


 ベティは長らくサンバスタで横行していた奴隷制度を憎く思っていた。

 情勢が良くなれば売られる子供も少なくなるだろう。私に協力したのはそういう打算も含まれている。


 自分のためと言いつつ、子供達の幸せを願うあたりは何ともベティらしい。


「真っ直ぐ教会に行きまスか?」

「いえ、少しだけ寄り道するわ」


 すぐにでもマリアの元に行ったほうが傷は浅く済むことは分かっている。

 けれどどうしてももう一件、済ませておかないといけない用事があった。


 ユーフェアを手酷く扱い、ルビィを人買いに売ろうとしていた人物。

 彼女にもおしおきが必要だ。


「ホワイトライト領に連れて行ってほしいの」

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