第27話「勝利は揺るがない」

<ドミニク視点>


「そらそらそら! 避けてばかりでは勝負にならんぞ!」


 魔力鎧から繰り出される魔法をひらひらと避ける侵入者――クリスタ。

 「防御魔法を五時間も維持できる」とか抜かしていたが、それを鵜呑みにするつもりは全くない。

 クラウストリ家は治めている領地の関係上、魔法石の精製に深く携わっている。

 僕自身、魔法の才能こそ大したことはないが、知識はその辺の学者と同程度には持っていた。


 その知見からクリスタの結界を分析する。


「これはどうだ!?」


 左肩にある魔法石の効果を開放する。

 親指大の水がクリスタの周辺を取り囲み、一斉に襲い掛かる!


「面倒な魔法ね」


 点ではなく面での攻撃に、クリスタは迎撃を諦めてそれらを受けた。

 四方八方からやってくる水の矢じりを前に身動きが取れなくなる。


 僕は言ったん手を止め、彼女を観察した。


(全方位型の防御魔法か)


 クリスタが使う防御魔法は一般的な前方にだけ展開するものではなく、身体をくまなく包み込んでいた。

 見てくれだけ全方位型で、隙間がところどころ空いている間抜けな防御魔法ではない。

 頭上や足元に至るまでに隙間なく張り巡らされている。

 全方位型は効果範囲が広いぶん、効果に強弱がある――急所だけ層が厚く、他はそうでもない――などがあるが、先ほどの魔法で試したところ強度は均一だ。

 肝心の防御能力も、強力の一言に尽きる。


 しかし、だからこそクリスタの発言には矛盾があった。

 あれだけの強度で全身を包みながら、五時間も維持できるか?

 答えは否だ。


 今しがたやったように避けられない攻撃にだけ防御魔法を使い、魔力の消費を抑えて時間を稼ぐ戦い方をするのだろう。

 ああすれば多少は使用時間を延ばすことができる。


 そうして動揺し隙が生まれたところで、狙いすました一撃をお見舞いする。

 クリスタの戦法はこんなところだろう。

 その方法で魔法を運用していたとしても、五時間はいくらなんでも誇張が過ぎるが。


(もう少し現実的な時間を言うべきだったな)


 あまりの嘘の下手さに苦笑いが出てしまう。

 素人相手になら通じるかもしれないが、こちらは魔法の専門家だ。


 クリスタは僕を、何よりクラウストリ家の力を見誤っているのだ。


(馬鹿な奴だ。勘違いしたまま沈め!)


「どうしたの? 手が止まっているわよ。時間がないんだからちゃっちゃと全部ぶつけて来なさい」


 挑発めいたことを言ってくるクリスタ。

 焦りを誘おうと必死なのが滑稽だ。

 ブラフが通用していると思い込んでいるクリスタに、僕は顔がにやけないように取り繕った。


「言われるまでもない!」


 僕の勝利は揺るがない。

 こいつを始末して、ユーフェアとさっきの続きをしないと。

 彼女が誰のモノなのかを、しっかりとあの身体に刻むんだ。



 ▼


 様子がおかしいと気付いたのは、魔法石の半分を費やした頃だ。


(なぜ倒れない?)


 常人ならとっくに枯渇して干からびていてもおかしくはない。

 そうでなかったとしても、防御魔法に多少の衰えが見えるはずだ。

 なのに彼女はまだ平然と立っていて、結界の効力は戦闘開始と同じように維持できている。


 これもブラフか?


「今の魔法でちょうど半分くらいかしら」

「っ!?」


 こちらが使った魔法石の数を数えられている。

 あれだけの猛攻を捌きながら、そんなことをする余裕があるはずがないというのに。


 おかしい。

 僕が圧倒的に有利なはずなのに、全然そんな気がしない。


(落ち着け!)


 知らずに上がっていた息を整える。

 魔法石は単なる当てずっぽうだ。それがたまたま当たっただけ。

 現にクリスタは難しい顔をしながらこちらを凝視している。


 額に眉を寄せるその表情が、余裕がないことの何よりの証拠――


「あなたの防御魔法、効果時間は四十五分って言っていたわよね」

「そ、それがなんだ」

「魔法石の数からざっくり推測すると、防御魔法用の魔法石は十五個くらい。割合で言うと三・七五パーセント」

「それがなんだと言うのだ!」

「バランスが悪いというか。ちょっと攻撃魔法に割合を割き過ぎなんじゃないかしら、と思って」

「我が魔力鎧に文句があると!?」

「文句っていうか、気になっちゃって。あと何よりダサいし……」


 クリスタはどうやってこの局面を切り抜けられるのかなど微塵も考えていなかった。


 下手をすれば命を失うというのに、何故?


 自身の命を顧みていない?

 違う。

 彼女にとって、それは『できて当然のことだから』……。


「そんな……そんなハズがない!」


 僕は胸のプレートの裏に隠していた魔法石を取り出した。

 魔力鎧を造る過程で、本当にたまたま精製に成功した巨大魔法石だ。

 掲げる・投げるという動作を省略することが目的で製作された魔力鎧の中で、これだけは従来通りの運用方法にしている。

 この中に収められた魔法がまかり間違って発動すれば、本人すらも巻き込みかねないほどに強力だからだ。


「でっか」


 手のひらほどの大きな魔法石に、クリスタは目を丸くしている。


「この中に入っている魔法は今までとは訳が違う! ひとたび発動すれば無事ではすまんぞ!」

「――だそうよユーフェア。少し離れていて」

「お前に言ってるんだ!」


 クリスタは自分を差し置いてユーフェアの心配をしていた。

 まるで「自分にとってそれは脅威ではない」とでも言わんばかりだ。


「つ、使うぞ! 本当に使うぞ!? いいんだな!?」

「全部ねじ伏せるって言ったでしょ。ごちゃごちゃ言ってないで投げなさい」

「――この私を、甘く見るなぁ!」


 怒りにかられ、僕はクリスタの足元に巨大魔法石を投げた。

 眩いばかりの閃光に、視界が明滅する。

 続いてやってきたのは、耳をつんざくほどの轟音だ。


 魔法の余波が床や壁にまで走り、その衝撃の強さをありありと強調していた。


「ど、どうだ! これが我が魔力鎧の切り札、落雷魔法――」

「珍しい魔法ね」


 ――へ?

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