第19話「出番」

「――なるほどね」


 私は取り乱すルビィをなだめてから事情を聞いた。

 話をまとめると、こうだ。


 ルビィがユーフェアの所へ行ったタイミングでリアーナとフィンがやってきて、ユーフェアと姉妹水入らずで話がしたいと申し出てきた。

 怯えるユーフェアにただならぬ気配を感じ、ルビィはそれを拒否。

 ――そこで記憶が途切れているらしい。

 おそらくはフィンの仕業だろう。

 もっと強く殴っておくべきだった、と私は後悔した。


 ルビィが次に気が付くと、ホワイトライト家の地下牢に幽閉されていた。

 どこかに売る算段を付けていたリアーナに、ユーフェアはやめてくれと懇願していた。


 言う通りにするから、どうかルビィには何もしないで――と、何度もリアーナにすがりついていたらしい。


「……そう、だったのね」


 もし、ユーフェアが懇願していなかったら。

 ルビィはもうとっくに国の外に連れて行かれていたかもしれない。

 そうなったら探すのは困難だった。


 ユーフェアはまぎれもない、ルビィの恩人だ。

 そうでなくともあの子は同じ聖女で、仲間だ。

 絶対に助け出す。


「ユーフェアがどこに行ったのかは分かる?」

「サンバスタ王国の公爵と、お姉さんの代わりに結婚させられるって言ってました」

「サンバスタ……」


 王が崩御してからずっと情勢の不安定な国だ。


「辺境領主の血を引いて、かつ聖女であることに付加価値があるって言ってました」


 『極大結界』を持たない他の国は魔物の被害を避けるため大陸の端に国を建てている。

 『極大結界』と密接な関わりを持つ聖女は喉から手が出るほど欲しいだろう。


「よく調べられたわね。すごいわルビィ」


 地下牢に幽閉されながら事情を深く知るルビィを褒めると、彼女は頬を掻きながら微妙な笑みを浮かべた。


「調べたというか、リアーナさんが牢の前で全部説明してくれたんです」

「……」


 リアーナがアホで助かった、と言っていいのだろうか。


「と、とにかく! 私はすぐにユーフェアを追うわ」


 私は口笛を吹き、ワイバーンを呼び寄せる。


「お姉様、この子は……?」

「知り合いの魔物研究者から借りたの。大丈夫よ、大人しくて賢いから」


 殴って言うことを聞かせたことは伏せつつ、私はワイバーンの背中にルビィを乗せた。


「魔法研究所に戻りなさい」


 ワイバーンはゆっくりと翼を羽ばたかせ、空を飛んだ。


「マクレガーって名前の研究者に事情を言えば帰りの馬車を手配してくれるわ」

「分かりました。お姉様、くれぐれもお気を付けて」

「大丈夫よ。ユーフェアと帰ってきたら延期になっていたお茶会をしましょう」

「はい!」


 ルビィを見送ってから、私は懐から念話紙を取り出した。

 しばらく音信不通になっていた仲間の声が、雑音と共に聞こえてくる。


『どうかしましたか、先輩?』

「ベティ。力を貸して」



 ▼


「――すまないッスね、直接行けなくて」

「大丈夫よ」


 場所は変わり、私とベティはシルバークロイツ辺境領に来ていた。

 ベティの転移は遠距離の移動に制限があるため、一足飛びにサンバスタまで行くことができない。

 なので、ここにある『魔女の遊び場』を使うことにした。


 秘密の地下道を通れば、サンバスタへは徒歩で行ける距離だ。


「さ、すぐにユーフェアを連れ戻すッス」

「ベティ。ここまで転移してくれただけで十分よ」


 今回はサンバスタ王国の中にまで入る必要がある。

 公爵の嫁となったユーフェアを連れ戻すのだ。当然、激しい戦闘になる可能性が高い。

 外の森でコトを終わらせられた前回とは比べるべくもなく危険だ。


「なーに言ってるんスか」


 握った拳からみしみしと音を立てながら、ベティは答えた。


「前々からあの国は気に入らなかったんスよ」

「ベティ……」

「大丈夫でス。足手まといには――」


「いや、アンタは足手まといだ」


 『魔女の遊び場』の入り口前に、ここにいるはずのない人物がいた。

 杖をつき、深いシワを携えた老女。

 私たち聖女を、束ねる存在。


「――マリア?」



 ▼


「ベティ。アンタは待機だ」

「なんでッスか」

「アンタは結界負担割合が多い。クリスタと二人で出て行かれちゃ困るんだよ」

「……見損なったッスよ、マリア婆」


 唇を噛み、ベティがマリアを睨む。


「ユーフェアを放っておくつもりなんスか!?」

「アタシたちは聖女だ。その両肩に国民全員の命を乗っけてることを忘れちゃいけない」

「ユーフェアだって国民の一人でしょう!? なら、助けに行くのが筋のはずッス!」

「アンタが行く必要は無い、と言ってるんだよ」

「話にならないッス!」


 ベティは私の肩を掴んだ。

 転移でこの場を離れ、正規のルートを通るつもりだろう。


「マリア婆が何と言おうと、私はユーフェアを見捨てたりしないッス」

「少し落ちつきな、ベティ」

「これが落ち着いてられまスか!」

「誰もユーフェアを助けに行かないなんて言ってないよ」

「――え?」


 マリアは自分の胸を叩きながら続けた。


「アタシとクリスタが行けば、アンタの出番はない。それだけの話だよ」

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