最終話 永久の暗夜にある宝石
極度の体調不良で倒れた僕は目を覚ました。見慣れない天井…ここはどこなんだろう。…まだ体調が安定していなくてベッドから出ようとしたら頭がふらふらしてベッドから転げ落ちてしまった。カーペットだったからそこまで痛くなかった。木造だったり、石造だったりしたら大変なことになっていただろう。一応頭も打っていたから。この状況で出血して死ぬのはシャレにならない。
「…う…う〜ん…」
まだ吐き気とか頭痛とか…様々な症状が僕を襲う。でも魔法を放った直後よりかはマシだと思う。意識を失うほどの重体だったから、目覚めただけでも症状は回復したと捉えていいだろう。
「…あ、えれく」
突然、少女の声…聞き覚えのある少女の声が聞こえた。なんとか目をそっちに向けるとやはり、コハクが立っていた。彼女が遺跡ではない場所にいるなんて珍しいと思った。
「まだ、なおってない。まりょくわける」
「…ごめん」
「あやまるひつようない」
村の人達は僕を魔女の子じゃないって認識してくれたのだろうか。…コハクがいるというのは分かって…くれたのかな?魔女である彼女が村の中にある建造物にいるのだから。
「むらのにんげんには、はなした。えれく、まじょのこじゃない。そう、せっとくした」
「…ありがとう。また助けられてしまったね」
彼女は優しい子だけど、それを狂わせたのは他ならない人間なんだと自覚すると彼女も被害者なんだなと思う。むしろ加害者なのは僕達、人間だということ。だからこれは罰なのかもね。
僕達の村の人達はこの地を出る事が禁じられてしまった。それは僕達が魔女という被害者を生んでしまったから。だから不自由を強要された。それが僕達への「罰」であり、魔女の心を満たすためでもあった。魔女が滅びを望んでいるのであれば、村を滅ぼさせて心を満たし、他の街などに被害を出させないようにした。少数を切り捨てて多数を助ける…そうするしかなかったんだ。魔女の対処法が不可能に近いあの方法しかないというのだから。
「…どういたしまして」
「…コハク」
「なに?」
コハクならあの女性…デジールのことも知っているのかな。もしデジールが魔女なら知っているかもしれないし…聞いておいて損はないと思う。
「デジール・ゼフィルスって名乗る女性を知っている?」
「…しってる。すうねんまえ、ここにきたまじょ」
「…魔女…だからあんな芸当を…」
才能を与えることが出来る魔女は限られていると話を聞いた。傲慢、憤怒、強欲、色欲の4つだと聞いたことがある。つまりその女性が魔女ならこの4つの大罪の…どれかの魔女ってこと?」
「うん。ごうよくのまじょ。よくぼうをつかさどる…まじょともいわれてる」
「欲望…」
強欲の魔女…危険度はたしか…7。かなり危険度が高い魔女だ…。そんな魔女に僕は会っていたんだ。…でも魔女って全員…被害者なんだよね。そうではない魔女もいるかもしれないけど…コハクが被害者だったから他の七つの大罪魔女も被害者なんだろうか。人間に人生を狂わされた…。だから強欲の魔女であるデジールもそうなのかな。人間に人生を狂わされた…。
「にんげんのこと、よくぼうをみたすどうぐだとみてる。そこまでわたし、すきじゃない」
気が合いそうにないよね、強欲と怠惰は…。
「情報提供ありがとう。…魔女って全員被害者なの?」
「ひがいしゃ?」
「人間に人生を狂わされた人間だということ」
「…そうだと、おもう。わたしも、そうだし。ぼーしょくのまじょもおなじだった」
暴食の魔女とは仲がいいのか。確かにこれなら気が合いそう。暴食と怠惰は…。
…魔女が全員被害者。もし、世界がそれを知らないというのなら…魔女は処刑されるべき存在だと思われているのなら…自覚させないといけない。魔女の生い立ちを…みんなに知らせないといけない。自分たちが撒いた種であることを知らせないと。…もしかしたらこれから先、コハクのように魔女が生み出されるかもしれない。国の悪い風習のせいで苦しんで絶望して…悪魔に縋り付き、魔女になる人間が増えるかもしれない。…そうしたらこの世界は終わる。
そうしないためにも…僕は行動しないと…。コハクの過去のことを知れて魔女が被害者だと分かったのだから。…元忌み子で何でもない僕に何が出来るのかは分からない。だけど何も出来ないというわけではない、というより何もしないわけにはいかないというのが正しい。何もしないのは嫌になった。怠惰である自分が嫌いになった。嫌いになったからこそ自分を変えていかないといけないと思った。自分も変えて世界も変えたいと思うようになった。スケールがでかいと思うのも無理もない。でかすぎる、僕にとって。…でも、もしかしたら魔女のことを一番知っている人間は僕かもしれない。…もし、そうだとするなら…僕がやらないと。
「…やっぱり、えれくはきんべん」
「勤勉…か。勤勉でもあり、怠惰でもあった…矛盾しているね。あの頃の僕は」
人間はいつか矛盾を抱えて、そして矛盾をいつか解決していく。自らの手で。…僕もその一人なのかもね。
「…ごうよくのまじょのところにいくの?」
「…うん。行かないと。僕はもう忌み子じゃないって証明された。そしてコハクと関わって…魔女の境遇について知った。…そして僕は魔女のことをもっと知りたいとも思ったし、知って…そして助けたいとも思ってる」
相手からしたら身勝手な救いの手なのかもしれない。信用にならない手なのかもしれない。だけど僕はそれでも手を伸ばし続ける存在でありたい。この行為を悪く言えば魔女を消すため。…良く言えば魔女を過去から救うため。僕は善人でもないし、悪人でもない。誰かは僕のことを善人だと思う、他の誰かは悪人だと思う。僕はそれを受け入れる。だって、「そのとおり」なんだから。
悪人でもなければ、善人でもない。みんなからしたら善人としても捉えられるし、悪人としても捉えられる。どんな扱いをされてもそれは「当然の扱い」なんだろう。
「…なら…わたしもいく」
「…え?君も?…いいの?」
「…わたし、まじょ。だからいまのままじゃ、だめ。ついていくことはできない。でも…」
…もしかして…でもそれでは君が…消えて…。
「…せーれーになる。ここで、べるふぇごーるとの…けいやくをなくす」
「精霊になる?」
「まじょ、けいやくなくしたら、せーれーになる。にんげんとしてのいのち、もうない。のこるのはまりょくだけ。そのまりょくでからだをせいせいして、えねるぎーたいとして、せーれーになる」
…前に読んだ本で精霊と魔女は関連性があると記されていた。本当に関連性があるなんて知らなかった。精霊は魔女の成れの果てだったんだ。…衝撃の事実なのに何故か驚くことが出来ない。前に本で読んでいたからだろうか。
「せーれーになれば、わたし、えれくのやくにたてる。えれくといっしょになれる」
「…どうして僕と一緒にいたいの?」
そういうと彼女は口元をにっこりとさせた。包帯で目は見えないけど、それでもその時の彼女は笑顔を見せたような気がした。人間嫌いである彼女は人間の僕に初めて見せた笑顔を。昇る朝日に照らされて綺麗だった。彼女の髪の毛が太陽で照らされて反射していた。まるで本当の「琥珀」のようだった。
「わたしは、めがみえない。だから、えれくのことも、みえない。でも…みえなくても…」
ーえれくはわたしのほうせき…なのー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます