4.そして、朝
来て欲しくない朝がやってきた。
「ほら汐風姉、遅れるよ〜」
「んん……」
野風にゆさゆさ揺すされる。ずっと布団を被ってはいたけど、結局一睡も出来なかった。あの日の、あの瞬間を何回も夢で見ては飛び起きて、水を飲んでまた眠って起きてを繰り返していた。
「汐風姉!!」
痺れを切らしてとうとうバサっと布団を剥ぎ取られる。
「さっさと行けバカ姉!! 行って、無事に帰ってきなよ!!」
「うー……」
渋々起き上がる。行きたくない。本当に行きたくない。
「もう知らないからね!! ちゃんと行ってくるのよ!!」
言うだけ言って野風は部屋から出て行った。しん、と静かになる部屋。このままもう一回寝てしまおうかとも思ったけど、壁掛け時計はそろそろ八時になるところだった。九時前に集合だからそうもいかず。
小さい洗面器で顔を洗って鏡を見る。最近ろくに寝れてないからか、目の下に隈ができていた。今までいろんな作戦に出てきたけど、ここまで乗り気がしないことはなかった。
とりあえず隊服に着替える。着替えたらちょっとは覚悟決まるかな、って思ったけどそんなことはなかった。
重い足を引き摺るように食堂に向かう。この時間ならもう早朝組は出発してる頃合いだろうし、多分席も空いてるかな。出来るだけこれからの出撃の事を考えないようにしていると、「おっ」と今は聞きたくなかった声がした。
「汐風さん、おはようございます! 今からご飯っすか?」
「あ――梅さん、おはようございます。少し食べておこうかなって思って」
ちょっと不機嫌そうに見えちゃったかな、と少し思ったけれど、当の梅さんは「あぁ、そうなんすね!」と気にしてないようだった。
「あっしも実は今日寝坊しちまいまして……。良かったらご一緒しても良いっすか?」
たはは……と頭を掻きながら笑う梅さんに、流石に「一人で食べたいから」とは言えなかった。
梅さんの話に適当に相槌を打ちながら、食堂に行くと、もうすっかり人の姿はまばらだった。食欲もあまり起きなくて、普通のモーニングを頼む。梅さんも同じのを頼んでいた。
受け取って二人席に向かい合って座る。気を遣ってか、色々梅さんが話してくれてるけど、何を話してたのか正直覚えてない。ただただ時間が過ぎて行くのを待っていた。
食べ終わって、やっと梅さんと別れた。あと三十分もしないうちにまた会うことになるけど、ひとまずの平穏に息を吐く。工廠横のベンチに座って、憎たらしいほど青い空を見上げる。
気は持ちようだってヒトは言うけど、そんな簡単な話じゃない。近づいてくれば息苦しくなるし、その事ばかりが頭を巡る。そんな自分にまた嫌気がさして、気が付いたら一日が終わってる。よくこれでヒトは生き抜いてるな、って思う。
作戦開始十分前の鐘が鳴った。そろそろ艤装を付けて集合場所に行かなきゃならない。
重いため息をついて立ち上がる。とりあえず今日だ。今日が無事終われば明日からはこんな思いを抱えなくて済む。
頬を叩いて、自分に喝を入れる。工廠に入って、自分の艤装を身に付ける。
工廠を出る。何にも考えないようにして、集合場所に向かう。
「遅かったな、汐風」
「すみません。野暮用で遅くなりました」
「そうか」とだけ言って、出雲さんは向き直った。ちょっとぐらい、気にしてくれたって良いのにな、って思った。
「それでは、本日の作戦要綱を伝える――」
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