彼女の秘密は終わりを迎える。1

 雪が積もっている裏庭を歩く。裏門の扉へと続く道だけは雪かきを二人でしていて人一人分は通れるくらいの積もり具合になっている。通りながら思い出す。雪かきは大変だった。二人でどうにか歩けるくらいになるまでにはできたが……。その時に毎年どうしてたんだ? と疑問が浮かんだ。が、まぁ亞名のことだし業者にでも頼んでいたのだろう。雪かきも慣れていない様子だったし。

「今日の仕事ってどこかの病院?」

「うん。近いから歩いていくのでもよかったんだけど……」

「近くなのか?」

「街外れの大きいところ」

「あー……って」

思わず足を止めてしまった。今日行ったところじゃないか。気にしないようにしていた悩みのタネがまたふつふつと湧き出てきた。

「?」

亞名は足音が止まったことに気づき、振り返る。

「あ、いやなんでも……って裏門のところ誰かいないか?」

視線上、亞名の少し奥。目的の扉の前に人影が見えた。が霧が深くちゃんとは確認できない。亞名も視線を元に戻して確認する。

「いるね」

「ここって誰でもは入れないんじゃなかったか?」

「そうだけど」

オレ達はゆっくりそちらへと近づいて行った。ここに入れる時点で数名、いやほとんど一人に絞られていたが……。

「やっぱり、メルか」

「なにその呆れたような感じ」

「いや別に……」

一瞬でも不審者かと思った自分のビビり具合に呆れてはいたが、メルに対してではない。

「こんにちは」

「こんにちは。ご丁寧にどうも」

亞名は律儀に頭を下げて挨拶をする。メルもそれにつられて軽く会釈する。

「なんでいるんだ?」

「うん、まぁちょっとね……」

「?」

メルは亞名の方を向いて話をする。

「亡くし屋さんの今日の仕事、アタシが彼の代わりにやってもいいかしら?」

「はぁ? 何言って」

オレは条件反射で文句を言うが、メルに遮られる。

「カズト君には聞いていないよ。君、一応アタシの部下だし」

キッとオレの方を向いて言ったかと思うと、表情を変えて亞名の方へ向き直す。

「カズト君の雇い主は貴方なのだし、貴方に決めてもらいたいのだけれどどうかしら?」

まるで商談話をしているかのような普段との声色の違い、それにはちゃんとメルに呆れた。

「わたしは別に構わないけど……。かずとが……」

亞名は少し困ったのかオレの方を見る。

「まぁ、メルの言うとおりオレはあいつの部下なんで。亞名がいいならそれでいいよ」

「ですって」

「じゃあお願いします」

亞名はもう一度頭を下げる。

「こちらこそ。よろしくね」

そしてオレの方を向いて言った。

「彼女のことは任せてもらって大丈夫だよ」

「まぁそこは心配してないよ」

「それと……」

「?」

「この仕事、終わったら少し話があるから、いい?」

「え、あ、あぁ」

今日のことが頭によぎり、少し狼狽えてしまった。

「じゃ、行ってきまーす」

裏門が開くとメルは手を振り、二人はそのまま行ってしまう。一人置いていかれたオレはやる事もなくなってとりあえず部屋に戻って暖を取ろうと決意した。



 部屋に戻ると、暖を取っている先着がいた。

「あ、おい、いつ帰ったんだよ。というかあんな所にオレを連れて行って……、何がしたかったんだ? 魔女さんよお」

「………………」

机の上に乗って丸まっている黒猫のしろは寝ているのか無反応だ。

「……ってもう魔女なわけないか」

「んー? なにー? 呼んだかしらー?」

「うわっ」

しろは放置し、こたつに入ろうとしていた矢先、いきなり声が聞こえた。てっきりもう魔女はいないのだろうと油断していた。

「ふぁーあ、私寝てたんですけどー。何か用かしら〜?」

「寝てた……?」

「あー、『魔女』ってこの子に話しかけたでしょう? そしたら私に繋がるようになっているわ」

「なるほどね。じゃなくてお前なんのつもりだよ」

「? 何の話かしら」

「……駿河夢依のことだよ」

「あぁ」

「あぁって……。お前は知っていたんだろ? それをどうしてオレに教えた?」

「だって、そのほうがこの先面白そうだったんだもの」

想像通りの身勝手な回答。

「面白いことなんてないだろ」

「さぁ、それはどうかしらねー?」

なにやら色んな意味を含ませているように答える魔女、オレにその真意がわかるわけもない。

「そういえば入口付近で、オレに隠れろって言ったよな。あれって……」

「まぁ想像におまかせするけれど」

「やっぱりメルだったんだな」

「私、明確に真実を答えるのは控えることにしているの」

「……じゃああいつがあそこで何をしてたか聞いても無駄か」

「そんなの、本人に聞きなさいな」

「あいつはこの事実を隠しているんじゃないのか? なのに勝手に……」

「さあ? そんなこと私は知らないわ。まぁ、例えそうだったとしてもバレるのも時間の問題だったでしょう。えぇきっと」

魔女はなんの悪気もないように言った。いや違う、たぶん逆で清々しいほどに悪意しか持ちあわせていないからそう聞こえるんだろう。

「あとはどうするかなんて貴方達次第よ。私はそれを見てるだけ」

「そうかい」

「えぇ、面白くなることを期待しているわ」

「………………」

「………………」

部屋がしんと静まり返る。魔女にはもうしばらく繋がらないのだろう。オレからは繋げたくもない。ただの猫と化したしろを撫でてこの先どうするかを少し考え、亞名達の帰りを待った。

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