亡くし屋の少女は死神を雇う。3

「……他になにかある?」

「いや…………」

 聞きたいことが無いかと言われたらあるのだが、亞名の生い立ちを聞いたら何も他に言ってあげることがなかった。

「なら……」

「?」

珍しく亞名の方からアクションが起こされる。

「かずとはどうしたいの?」

「えっ」

「わたしを、責める? 怒る?」

「っっ」

「死ぬことは悪いことなんですか?」

真っ直ぐに問いかけられる。

「それは……」

「…………オレには、わからない」

「………………」

「いや、なんて言えばいいのかな。今はまだ、わからない。が正しいかな?」

「今は……?」

「オレは、自分のこともよく思い出せてないんだ」

「………………」

「目が覚めたら変なヤツにお前は死んだ。とか、だから『死神』になれ。やらなんやら言われてさ」

「オレには死んだ記憶もない。目覚める前、どんな生活をしてたかも思い出せない。亞名と出逢って名前は思い出せたんだ。でもそれ以外は今のところ何もわからないんだよ」

「………………」

亞名は黙って聞いてくれていた。

「だから、今のオレには死ぬことが悪いかどうかは判断できない。良いことかどうかもわからないけどね」

「安易に亞名を怒ったり、やっていることを悲しんだり、また肯定したりもできない」

「………………」

「……が、オレの答えなんだけど」

「………………」

亞名の表情を伺う。

「……そう」

それだけ言った。けれどさっきまでの刺すような真っ直ぐな強さはそこにはなく、少しだけ口元が緩んで見えた気がした。


「……とはいったものの」

「?」

「オレは上司メルに亞名の調査を頼まれてるんだよな」

「なにを、すればいいの?」

「オレにもそんなわからなくて……」

と、亞名への返答にも悩んでいた矢先、オレ達の間に入るようにどこからともなく現れた『しろ』が机に乗る。

「うわ、お前どこから……」

「はぁーい?」

「!!」

『声』が聞こえた。

「おいこらメル。いつもいつもお前は急に……」

「メルー? あぁ、あの子ね」

「? メルじゃないのか?」

「声の違いすらわからないのかしら?」

言われてみれば、メルよりすましたような声と口調をしている。

「君は誰だ……?」

オレがそう聞くのと被るように亞名が口を開く。

「お久しぶりです」

「亞名の……知り合い?」

「久しぶりねー、どう? お仕事はかどってるかしら?」

「はい」

「仕事……って、あ」

(そういえば、亞名は『誰か』に亡くし屋にされたと言っていたか)

「君ははじめましてね。タナカカズトくん?」

「えっ?」

「あ、名字ってまだ思い出してなかったかしら、ミスったわね……」

なにやら小さい声で自らの過ちを悔いているようだったが、オレはそんなことよりも気になった。この人が何者なのか。

「オレ、名乗りましたっけ?」

「いやー? でもまぁ別にいいでしょ。そんなことは」

「貴方は誰ですか? メルも知ってるみたいですが……」

「ふふ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。私が誰かはだいたい検討がついているんでしょ? それならそれでだいたいは合ってるわ」

「………………」

「私のことはなんだっていいのよ。貴方達の物語なんだから」

「?」

「今日来たのは、他でもない。君に、次に進んでもらうために提案しにきたのよ」

「次……? 提案?」

「そう。貴方のいう上司メルにも許可は取っているわ。もちろんその上にもね」

(その上って『神様』かなんかじゃなかったか?)

「貴方、亞名を手伝いなさい」

「!」

「亡くし屋の専属死神ってところかしらね。亡くし屋の仕事上、死神を避けては通れないのよ」

(無断でやっていたから、オレやメルにあんな調査依頼がきたのか……)

「お察しの通り」

「!!」

「オレ……口に出してました?」

「いや? まぁだからそういうわけで、公式に順序を踏んできたのよ」

「そうなん、ですか」

(なんか、いろいろ掴み所がなくてわからないなこの人)

「はぐれ死神の貴方なら使っていいらしいし、まぁこれはこれで面白そうだから」

「はぁ」

「亡くし屋さん的にも、問題ないわよね?」

「ない」

「じゃあ決まり! 二人ともお仕事頑張ってね〜!」

ブチッ

通話的なにかが切れる音がして、嵐の様に去っていった。

「なんなんだあの人は……」

「……あの人のことは考えても無駄だと思う」

「……確かに」

(勢いがすごかったが、それなりにメルとは全く違う空気感があったし、なにより少し

どうしてそう思うかまではわからなかったけれど。

「それで、亞名はいいのか?」

「?」

「さっきの人が言ってたことだよ」

「かずとがいいなら」

「そうか……」

(まぁ他に何もすることはないしな……)

「じゃあ、そのなんだ、改めてこれからよろしく」

「……こちらこそ」


 その後、二人と一匹でご飯を食べ、オレ達は今日はお開きにした。

布団に入りながら、今日のことを振り返り、少し考えた。

「亡くし屋……か」

死神の役割がちゃんとできるかも心配だったが、オレはそれ以外に今、選択肢はない。

時間はあるのだろうし、とりあえず記憶が戻るまでやるのは問題ないだろう。

「……タナカカズト」

それが、オレの名前。

ありきたりな名字だったな。と少しだけ残念がったが、馴染みはあった。

ありきたり……普通……

頭を回転させていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。

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