亡くし屋の少女は死神を雇う。1
少しすると看護師や医師達がオレ達のいる病室に入ってきて、その後の対応を滞りなく円滑に行っている。
亞名はというと、すでにこの病室からは去っていた。
「なぁ、メル」
「なに?」
「聞きたいんだが」
「………………」
「『死神』の仕事はだいたいわかった。だけどまだわからないことはある」
「メルはなんでオレ達より先にここに居たんだ?」
「それは、リストでわかるからだよ」
「リスト?」
「そう、死神、というか管理者のアタシには、人などが亡くなるということ。それが確定した時に事前にわかるリストがあるの」
「亡くなる……のが事前にわかるのか」
「そういうこと。それを持ってしてアタシは現場に他の死神を送ったりするのが主な仕事なんだけど」
メルは亡くなった老婆の方へ視線を向ける。
「この人もそうなんだけど、最近、イレギュラーでまだ予定は先なはずなのにリストに急に名前が載る人が増えてるの」
「……それって」
「まぁさっきのを見た感じ、確認した限りでは、あの子がやっているのは確実だね」
「……なに、を」
「かずとくん、君も見たでしょ?」
「………………」
「あの子が、この人を殺したんだよ」
「っっ!」
メルが言おうとしていたことは薄々わかっていた。それでも自分では認めたくない気持ちのほうが強かった。
「亞名はまだ高校生だろ? それに、物理的になにか被害を及ぼしたわけでもないじゃないか」
「物理的には、ね」
「なにが、言いたいんだよ」
「別に。アタシからは憶測でしかないし、そもそもかずとくんは納得しないんじゃないかな?」
「じゃあ……」
「あとは、本人に直接聞くしかないよね?」
「っ!」
「ここに君を連れてきてるってことは、彼女もそれなりの事は聞かれる覚悟なんだろうし、君の仕事的にも都合がいいじゃない」
「………………」
「引き続き、調査の仕事、よろしくね。アタシはもう行くから」
そう言い残してメルはその場から消えた。
「くそっ」
オレにはどこにもぶつけることが出来ない感情だけが残っていた。
いつの間にか看護師や医師達も仕事を終えいなくなっており、この病室はオレ以外誰も何も残っていなかった。
「………………」
これからどうするか、悩んでいた。
亞名に聞くとしても、なにをどう聞けばいいのか、怒ればいいのか、悲しめばいいのか、そもそもオレにそんな資格もあるのかすらわからない。
人に説教できるほど長く生きていたわけでもない。生きていた時の記憶すらない。亞名も亞名の事情があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
そんなことをただずっと考えていた。
ポツンとその場に残されたオレは、物寂しさすら感じていた。
(まるで捨てられた野良猫みたいだな)
なんて自虐しても状況は変わらない。
と、瞬間、病室の扉が開いた。
「!!」
そこには亞名が、いつもの無表情で立っていた。
「………………」
「………………」
両者無言で時間が進む。
「…………帰る、けど」
最初に口を開いたのは亞名だった。
「…………かずとは?」
「………………」
「………………」
「帰らないの?」
「…………お前は、」
言いかけて、やめた。
話すのはここでなくていいのだろう。せっかく亞名が声をかけてくれたんだ。素直に聞くことにした。
「いや、帰るか」
「…………うん」
オレ達は、亞名が住んでいる寺への帰路へついた。
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