第18話 ガバガバチャートになりそうなときほど指差し確認大事
「それじゃあ、いきますよ!!」
こん棒を振りかぶって構える俺と、それを見守る三人娘。構えられたこん棒の先には、木にくくりつけられた野盗の親分モッグズが絶望の表情で何か叫んでいるが、まぁ気にしない。
「振り逃げ……ダイナマイトっっ!!」
木にくくりつけられらたモッグズの横腹を掠めるようにこん棒を振るいながら走り抜けると、技が発動したエフェクトが発生してモッグズに僅かなダメージが入る。それ自体はとても軽いものであり、泣き叫びながらわめいていたモッグズは、自分の身が『まだ』無事なことにキョトンとした表情で固まっていた。
「さて、振り逃げダイナマイトは成功しました。ので、ここからはユピテル様、お願いします」
「う、うむ……だが、本当に大丈夫なのか?」
右手を天に掲げたまま訝しげな表情でこちらをみてくるユピテル様。困ったような表情、グッド。
「大丈夫でございます。体力が0になろうが死なないのがオリンポス・サーガの醍醐味でございます故」
オリンポス・サーガには通常の体力を示すHPと、生命力を表すLPの概念がある。戦闘時にはHPが尽きるとそのキャラは戦闘不能になり、パーティー全員が戦闘不能になるとゲームオーバーになる。が、アイテムや魔術で戦闘不能状態を回復すれば再度戦闘に復帰が出来るのだ。
しかし、その際にLPが1消費されてしまうという仕様がある。そして、LPが尽きるとそのキャラが例え重要人物であろうと二度と生き返らないという鬼畜仕様だ。主人公等、進行が不可能になるキャラのLPが尽きた場合、その場でゲームオーバーになる。
なので、仲間の中には結構重要なキャラで、そのキャラがいないと進行しないイベントがあるのに、LPが1しかないうえにめっちゃ弱いという、おめぇの存在がブラックだよとツッコミたくなるキャラもいる。なお、イベントクリア後は超強くなる(ので、弱いまま連れてクリア縛りという中級者縛りもある)
さて、今回使用するバグはそっくりそのまま『振り逃げダイナマイト』というバグだ。これは、先程あった仕様の特殊性を応用したバグだ。詳しいことを言えば何処からか御叱りを受けかねないので省くが、『全滅したときにゲームオーバーにならない戦闘』かつ、『全滅するターンの前に振り逃げダイナマイトを使用』し、『振り逃げダイナマイトを使用したキャラを含めて全滅する』を行うと、様々なバグが発生するのだ。
ここで振り逃げダイナマイトの説明をすると、振り逃げダイナマイトは僅かなダメージを与えた後に使用キャラの姿が消え、次のターンは行動不可になる。その代わり、次のターンの行動順の最後のタイミングで最初にダメージを受けた相手の背後から大ダメージを食らわせるという序盤ではダメージソースを叩き出せる技である。透明化している際には攻撃(全体攻撃除く)を受けない点から、色々な縛りプレイでの応用がされる技でもある。
そして、この後行うバグ技を使うと、グラフィックの割り振られているナンバーがずれるのだ。ちなみに、いくつずれるかは行動する人数で調整できる。振り逃げ後に敵も含めて行動した人数分ナンバーがずれるのだ。
なので、
・モッグズが行動不能(状態異常による行動判定はターンの最初に行われる仕様)
・俺がダイナマイト
・戦闘に関係なくアンネと遊んでいたユピテル様の雷(必中かつ敵味方全体最低ダメージ1がでる仕様)が体力0ギリギリの俺に『偶然』当たって俺乙
・一人パーティーなので戦闘不能。だけど、モッグズ戦なので負けた条件下のイベントに移行
・バグ技が完了し、俺より後に行動した人がいないのでグラフィックのナンバーが一つずれる
・魔王(のグラフィック)が吹っ飛ぶ
と、いうわけだ。
ユピテル様はパーティー扱いにならないのかって? 知らんなぁ、そんな女神様なんて。それ言い出したら、近く通りかかった人類皆パーティーにせんといかへんのちゃうかぁ?
というヤ○ザみたいなムーブで作戦開始。そして、無事バグ技は成った。
成った、が……。
「な、なんだこれ……」
草原に広がる大惨事。
俺は何故か鎧を着た騎士のグラフィックになっている。まぁそれはいい。
そして、木にくくられてたモッグズは半魚人のグラフィックになっている。これもどうでもいい。
問題は次からだ。
まず、アンネが血まみれでニコニコと笑っている。狂気だ。
そしてアイリスは獣系モンスターレベル5のキマイラという、かなり大型のなんかヤギとライオンと蛇と蝙蝠が混じった姿になっている。正直、怖い。
だが、何よりも問題なのが、ユピテル様が謎のボンっキュっボンっな美女に成られてしまった事だ。おぉ……。
「神は、死んだ……」
「いやいやいや、死んではおらんからのッ!? これじゃ! これこそが、ワシの本来の姿なのじゃ!!」
「誰か、誰か早く俺の目を潰してくれ……もう、光なんていらない……」
気を取り直し……いや、取り直せるだろうか……。いや、誓ったのだ。ユピテル様がどんなお姿になろうとも、俺は信仰すると。
まぁ、アンネの痛ましい姿(本当に怪我はしていない)から察するに、どうやらグラフィックのナンバーが二つ飛んでしまったのだろう。そして、その原因はどう考えても……。
「で、お前は誰だ?」
「い、いやぁ、どうもぉ」
俺の足元で正座をさせられているグラフィックだけモッグズの謎の人物だ。本物は木に縛られてるからグラフィックがずれた野盗の子分だろう。
ユピテル様の雷が当たるその瞬間、俺は見た。草むらから飛び出してきた、野盗の子分と思わしき人物の姿を。こいつが戦闘に乱入してきたことで、行動順がさらにひとつズレたのが今回の原因だ。
グラフィック変更バグはバグ技の中でも世界の影響に比べて、ゲーム進行不可やデータ破壊ほどに危険ではない。ゲーム内では見た目が違うだけで、会話内容もイベントフラグも影響が無いからだ。なんだったら解消方法すらある。
なので、今回に関してはまだ大したことはなかったが、俺は大いに反省させられた。もしこれが『主人公交代』とか、『没アイテム・イベント変換バグ』の時に起こっていたならば、どんな事になっていたか想像もつかない。
一応、成功率をあげるのと不確定要素を省く為に、モッグズを木に縛って戦闘開始という、ゲーム内では絶対に起こらないであろう現象を起こしてのことだったが、これからはもっと周囲のランダム性というか、ゲームでは起こり得ないことが起きるという事を頭において行動しなければと思いました。まる。
「見てみて、ユピテルちゃん! 血だよー!」
「うわぁ!? 止めるのじゃアンネよ! ワシだって血を見ていい気分にはならん!!」
「ご主人様、ゴ主人様! スッゴク、強そウにナリマしタヨ!!」
血まみれのまま笑顔でユピテル様を追いかけるアンネと、逃げ回る大人ユピテル様。そして、もうその声にコボルトの時の面影を感じられない、なんか脳が拒絶反応を起こしそうな声で話しかけてくるアイリスに、俺は頭を抱えた。
「……とりあえず、一個戻すぞ」
予定通りにいかないと、魔王をぶっ飛ばせたかわからないし、二個ずれたのであれば一部の一般人の方がモンスターカテゴリーに突っ込んでしまい、世界の一部の市民がいきなりモンスターになってしまうのだ。なので、ずらすのは一個だけなのは死守しなくていけない。なんだったら記憶通りなら、どっかの王様のグラフィックの二個先はその次のイベントで登場する、白骨化した忘れ去られた囚人とかだったような気がする。だから、飛ばすのは一個先と決めたのだ。
一個戻す際には先程の行動順に、アイテムの持ち変えを追加してあげるだけでいい。まぁ、順番やらアイテムの数やらの知識は必要だけど。
そんなこんなで、俺たちのグラフィックは一つ元に戻り、俺は謎に半裸の獣人おっさんになり、アンネはちょっぴり豪華な衣装(中盤にフレイアの心象風景に出てくる姿)、アイリスはレベル4モンスターのでっかいビーバー。ユピテル様は中学生くらいの、少し幼さの残る姿になってしまい、唇を尖らせてすねてしまったのであった。
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