第5話 銀狼のサーシャ

 俺は赤い巨人の脇にドサリと腰を落とした。


 [レッドオーガ個体名ブザンの討伐に成功しました。ネームド魔獣討伐の報酬と合わせて、功績ポイントを600ポイント獲得しました。]


 [初討伐でネームドを討伐しました。称号:ブレイブハートを獲得しました。ブレイブハート獲得の褒賞として、功績ポイント500ポイントを獲得しました。]


 [緊急クエスト:地母神の愛し子を救えをクリアしました。クリア報酬として功績ポイント500ポイント獲得しました!]


 功績ポイント:1,500 →3,100 ポイント


 「おお、何かいっぱいポイント貯まったな!

 ふう。でも、まずやれる事をしてあげるか・・・」


 俺はその場から立ち上がり、SFP9に新しいマガジンを装填し、弾をチャンバーに送り込んでからホルスターに入れた。

 そして立ち上がって小銃のスリングを首から取って手に持ち、倉庫のアイコンに視線を合わせると、20式とその弾納がシュっと消えた。倉庫の使い方は何となく分かってたよ。


 そして両目から血を流し倒れているレッドオーガを見下ろした。


 「お前レッドオーガのブザンって言うのか。すんごくタフだったよ。一体何発俺に撃たせたんだ?

 それによく見ると立派な角が有るんだな。ん?赤いボディに角付き!?

 カッコいいなー!おい!」


 俺はレッドオーガも倉庫に収納した。


 それから俺は未だ泣き続ける子供に近づいた。

 

 子供がすがり付いているのは女性で、子供によく似て綺麗な銀髪と頭に大きな耳とシッポがあった。

 うん、親子かな?


 俺は黙って立ったまま、母親に手を合わせた。


 俺はせめてもと思い、倉庫から携帯シャベルを取り出して、母親が横たわるすぐそばの一際大きい巨木の根元を掘り始めた。


 「今は泣き疲れるまで泣くがいいさ・・」


 そう呟きながら。


――――――


 「ベルちゃん、お願いがあるんだけど。俺これからこの子の母親を埋葬する為の穴を掘るからさ、代わりに周囲の索敵してもらえないかな?ベルちゃんしか頼れる人がいなくてさ。」


 [万事お任せください。ユグドラシルにアクセスして、この世界に干渉する為に一部基幹プログラムのコードを書き加えました。常時ユグドラシルシステムとアカシックレコードを並列処理しながら、マスターの周囲を索敵します。]


 どうやら、俺の期待以上に頑張ってくれるようだ・・・そうだよね?


 俺は索敵をベルちゃんに任せると、ひたすら母親の為に穴を掘った。木の根が多くて難儀したが、知ってるかい?自衛隊のシャベルの頼もしさを!俺は休まずガシガシと土と木の根と格闘し、1メートル強の深さの穴を掘り上げた。

 俺自身ビックリする程の体力だった。やはり筋肉は裏切らない!


 穴から這い上がり、シャベルとグローブを倉庫に戻した。

 そして水筒から水を飲み、水筒の水で顔と手を洗って、倉庫から取り出したタオルで拭いた。


 それが終わると、泣き続けている子供に近づき、両手を合わせてから、母親の両目を閉じてあげた。虚ろに開いている目が可愛そうだったからね。

 そして倉庫から取り出した新しいハンドタオルを水で濡らしてから、母親の顔を拭いてあげた。

 綺麗に拭き終わった母親は、荘厳で安らかな死に顔だった。


 「子供を残して、さぞかし無念だったろうな。俺に子供を育てた経験なんてないけど、代わりに俺がこの子を最後まで面倒を見てやるから、安心して成仏してくれ。」


 [地母神様からの緊急通信です。]


 俺が母親に手を合わせると、ベルちゃんが緊急連絡を告げた。


 「トーマ君、クエスト達成ご苦労、ご苦労!」


 地母神様の声が、耳元で聞こえた。

 最早メールと言う建前も捨てた様だよ、この神様は。


 「なあ、女神様よ。この子の母親を埋葬してあげたいんだが、このままここに埋めて大丈夫かなぁ?」


 「トーマ君たら、そんな他人行儀じゃなくて、気軽にアーちゃんとでもディナちゃんとでも好きに呼んでよ〜。ねっ♡

 ベルちゃんにばかりやさしくして、アーちゃん妬けちゃうー!

 ごほん!ごほん!

 でも、そうだね、この森で死体を火葬せずに埋葬すると、高い確率で魔物化しちゃうね。」


 「やっぱりそうなのかー。」


 「でもお任せあれ!アーちゃんはその為に来たんだよー!」


 自分でアーちゃん呼び始めちゃったよ。

 そんな事思って居ると、母親の頭の上にキラキラとした一条の光が差し込んで来た。


 「はっ!」


 母親の胸に伏せて泣き続けていた子供が、只ならぬ気配を感じて顔を上げると驚き、そして息を飲んだ。


 光の中、地母神アフロディーテ様がこの地上に顕現していたのだ。


 「初めまして愛し子よ。妾はアフロディーテ。汝の悲しみを癒すために此処に参りました。

 まずは、汝の母をおくってあげましょう。」


 そう言って女神様が手を翳すと、母親の体が光りに包まれて空中に浮かんだ。

 子供は慌てて母親の体から身を起こし、胸の前で両手をギュッと握っりしめ、その拳を口に当てた。


 そして今度は女神様がゆっくりと両手を広げると、母親の体は一際輝き光が瞬くと、傷跡は体からも衣類からも綺麗に無くなり、服に付いた血痕や汚れまで落ちていた。


 そして女神様は手を下ろして、右手を優美に穴の方に振ると、空中に浮かんだ母親はゆっくりと俺が掘った穴に向かって移動して、そして静かに穴に沈んだ。


 「ゆっくりとお休みなさい我が子よ。汝の眠りを何人も妨げぬ様、これを授けます。」


 女神様が両手を胸の前に捧げるように上げると、穴の上に銀色の光が集まり、拳ほどの宝珠を形取った。

 銀の宝珠はゆっくりと穴の中に沈み、胸の上で組んだ母親の手の上で止まった。


 「さあ、愛し子よ。汝の母に最後のお別れをなさい。」


 「ゼーラ。」


 子供は涙を新たにしながら、穴の淵まで進み、そこにひざまづいて母親に別れの祈りを捧げた。

 そして子供は右手をそっと自分の唇に触れて、最後のキスを母親へ贈った。


 「それではこの子を土に還しましょう。」


 すると穴の脇にに寄せていた土と木の根の山から、土だけが穴に静かに流れて行った。

 それを見ていた子供はギュッと自分の胸を抱きしめてか細く絞り出す様につぶやいた。


 「アマン・・・」


 穴が綺麗に埋まり、墓となった。

 

 「なあ、女神様。このままだと、母親が一人ぼっちで可哀想だから、何か花を供えてあげたいんだが。」


 「そうですね、ではこれを贈りましょう。」


 女神様は手のひらにフーっと息を吹きかけた。

 すると母親の墓の上に銀色の小さな鈴の様な、可憐な花をたくさん付けた花が咲いていた。


 「この花の名はサーシャ。この子の名から取りました。世界中でたった一種、ここだけにしか咲きません。やがてこの地はこの花で満たされる事でしょう。

 この娘の祈りの花と宝珠の力により、この花園は永遠に邪を退けます。

 

 ・・今ここに一つ、奇跡が成就しました・・」


 「えーっ!と言う事はこの子、女の子なの――?!」


 [功績ポイントを500ポイント獲得しました。3,100 →3,600 ポイント]

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