第35話 手作りケーキ+α
「おい、マックス大丈夫か? アレクはもう行ったぞ」
アレクシアが立ち去った後、オーギュストは固まったままのマクシミリアンの肩に手を置き揺さぶった。
「……はっ! はぁはぁ、息をするのを忘れていた……。アレクシア嬢に微笑みかけられて愛称で呼ぶ許可を貰った様な気がしたが夢だったのだろうか、死んだ曽祖父が花畑に居て複雑そうな笑顔で早く戻れと言ったのも……」
「アレクが微笑みかけたのは現実だが、お前の曽祖父は知らないぞ。息するのを忘れて死にかけたんじゃないだろうな。嫌だぞ、親友の死因が息するのを忘れたからだなんて」
オーギュストは胸に手を当て、真剣な顔で息を整えるマクシミリアンに呆れた目を向ける。
「まったく……、いくらアレクが美少女だからって大袈裟だろう」
ため息と共にオーギュストが溢した言葉にマクシミリアンの目がカッと見開き、ガシッとオーギュストの両肩を掴んだ。
「何を言っているんだ、さっきここで奇跡が起こったんだぞ? 令嬢といえば俺を見ると見下すか蔑むか顔を顰めるか目を逸らす生き物なんだぞ!? それなのに……、微笑みかけてくれて
「だから言っただろう? アレクは他の令嬢とは違うって」
「ああ! 本当にそうだった! 容姿も心も美しいだけじゃなく1年生で
「私は今、正にマックスが気持ち悪いと思ってるけどね」
見た事が無い程舞い上がり、しかも大切な妹に対して性的な目を向ける親友にドン引きしながら冷めた言葉を放った。
「くっ、やはり突然黙ったりして変な奴だと思われてしまっただろうか、もうア、アレク……と呼ぶのもダメに……」
さっきとは打って変わってガクリと項垂れ、ネガティブな発言をし出した。
オーギュストはアレクシアの居る1年生の教室の方に視線を向け、ため息を吐いてマクシミリアンに視線を戻した。
「マックス、落ち着いて聞いてくれ。実は今朝アレクが昨日焼いたケーキを食べて感想を聞かせて欲しいと言われたんだ。それで……マックスと一緒にどう」「俺も食べていいのか!?」
「…………そうだよ。マックス、性格変わってないか?」
今までのマクシミリアンはどちらかと言えば寡黙でストイックな印象だったが、アレクシアに関しては別人の様に舞い上がったり動揺している。
そして午後の剣術の授業で初めてオーギュストが浮かれていたマクシミリアンから勝ち星を奪った。
そして放課後、アレクシアが男子寮にケーキを届けようとしたらニコルに止められた。
「そのような使用人の真似事はなさらないで下さい、私からポールに渡しておきますから」
「…………あ」
「どうされました?」
「あのね、ガトーショコラをオーギュ兄様とマクシミリアン様で食べてって言ったんだけど……、ポールの分が無い事に今気付いたわ……」
(ヤバい、ニコル達にはあげたのに、マクシミリアン様に食べて欲しさでポールの存在自体頭から抜けとった! 従者やからってことで無しって言うても平気やけど、ちょっと可哀想やんな。夕食の時間もあるし1時間……、いや、30分くらいで作れそうなんは……)
「決めた! 絞り出しクッキーなら間に合うわ、すぐに作りましょう。これなら型を抜く時間も生地を寝かせる時間も要らないし、半端に残った生クリームも使えるもの。すぐにオーブンを予熱してちょうだい」
「はい!」
幸い30分程で最初に焼けたクッキーが出来上がったので冷まし、オーギュスト達に出した残りのクッキーはポールの分と伝言をお願いしてニコルに届けてもらった。
「お嬢様、只今戻りました……」
「ご苦労様、もうすぐ次の分も焼けそうよ」
結局生クリームを使い切る為にも、それなりの量を焼く羽目になっている。
といってもアレクシアは混ぜて絞り出すだけで他の事はニコルがやっているのでかなり楽をしているが。
ニコルが、戻って来て何か言いたそうな顔をしている事に気付いたアレクシアは、コテリと首を傾げた。
「ニコル、どうかしたの? ポールに何か言われた?」
「あっ、いえ、ポールは自分も食べていいのかと凄く感激していました! ポールでは無く……廊下でリリアン様に……」
そこまで聞いてアレクシアは全て理解した、また香りを撒き散らした事に対して苦情を言われたのだろう、と。
「仕方無いわね、今日も食後のお茶でこのクッキーを出して機嫌を直してもらいましょう」
「はい」
そう言うとニコルは苦笑いして頷いた。
前世では食べ過ぎて太る心配をしていたが、今世では太る事は歓迎されるので気にしなくて良いのは嬉しい。
ただ自分の美意識としてはこれ以上ぽっちゃり度がアップするのは避けたいと思いつつ、夕食後にリリアン達とクッキーを貪るのだった。
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