第19話〜迷宮ランキングを上げるには〜

———— 第10階層に二つ目の迷宮がオープンしてから一週間が経った。


 オープンから100組以上の勇者パーティーが訪れており、大成功は続いていた。


 オープン当初の改善点は、幾らか改善した。クモ子さんの強さに関しては、難易度が高い方が勇者が来るのでは?と推測して手加減などはしない方向で決まった。


 ちなみに今のところ、クリアしたパーテーはいない...


 そして、今。タルタロスの居酒屋で女性が大声で説教していた。

 説教をされている3人。オブライエン、ノーマン、ゴンゾーは、メリエンダの止まらない罵声に心が折れないように必死に耐えていた。


 「あんたたち、迷宮の設定がホントなっていないわ!いい?魔物は、入口からボスの部屋に向かうに従って強くしていくのが定石よ!それにノーマンさん!あの罠はなに?入口付近に落とし穴だなんて、最初から落ちたらリピーターが減るじゃない!!だからあれだけの来客数でも迷宮ランキングも上がらないし、こんな口コミ書かれるのよ!オブも魔物の選定———」


 メリエンダの説教...なのか助言なのかはわからない口撃は、約30分ほど続いた。


 メリエンダの口撃の理由....それは、口コミ・レビューの酷さである。


 階層毎に実は、迷宮ランキングという物が毎週発行される『週刊ダンジョン』に掲載される。来勇者数や口コミ、編集部が勇者を雇って内情調査したり。そんなこんなで迷宮ランキングを決めている。


 ちなみに第10階層には、70もの迷宮が現在稼働中であり、オブライエンたちの迷宮ランキングは、60位であった....


 「あんたたちわかってるの?来勇者数は、70迷宮中28位なのよ!なのに他が悪すぎるわ!ボスが強すぎる!あとフィールドに特化させすぎ!こんな広いスペース確保したのに、フィールドとボス以外が手抜きすぎだわ!!それにね——」


 (えっ....まだ続くんですか...メリエンダさん...)


 オブライエンだけでなく、ノーマンもオーバーキル状態である。ゴンゾーも最初は、「俺は第1階層の方だから関係ねぇ」みたいな事言って余裕ぶっていたが、どうやらメリエンダの口撃は、防御無効の広範囲口撃であったらしく、途中からHPを削られていた。


 「じゃあ、メリエンダ...つまり魔物の配置、罠の配置を見直すのが優先...って事でいいのか。」


 「欠点なんてたくさんあるけど、それが1番早急にやるべきよ!あと、迷宮内のアイテムが少なすぎるわ!第10階層に来れるレベルの勇者ならある程度、お金はあるんだから、入場料もう少し上げてでも、アイテムを追加するべきよ!あと——」


 (ノーマンさん、メリエンダは、反撃の能力も持ってるから口撃してはダメだよ.....)


 なんだか、今まで訪れた勇者たちよりもメリエンダが1番強いのでは...そう思うオブライエンであった。



 翌日、開店前の早朝。従業員部屋に集まり、昨日のメリエンダの口撃から得た情報をコルドーとクモ子にも共有した。


 「つまりですね!入口付近からボス部屋に向かうに連れて魔物を強くするのが定石らしいです。勇者たちにボス部屋前まで来させて、クリアできるかもしれない!という方がリピーターになりやすい!.....らしいです!罠も同様とのことです!」


 「じゃあ、私は今まで通りに手加減無しでお相手すれば宜しいのね。」


 「はい!クモ子さんよろしくお願いいたします!」


 「なるほどな。じゃあ、今日の閉店後に罠の位置をもう少し、ボス部屋寄りに変えてみようか。」


 「すまんなコルドーさん。よろしく頼む。」


 「僕も今日閉店したら、フィールドのモンスターを通路に半分ぐらい配置して、エンカウント率を部分部分で変えてみようと思います!」


 「じゃあ、おれは、アイテムをもう少し増やしてみよう。」


 そうして朝礼会議は終了し、閉店後皆で改善作業に入ったのだった。


 ちなみにゴンゾーは、昨日のダメージのせいか朝、オブライエンに欠席のメールを送っていた。


 『オブライエンへ....疲れたので第1階層の迷宮のボス部屋に引きこもります。参加させないでください。』


 (なに、この家出する妻の置き手紙みたいなやつは....)


 閉店後、オブライエンはクモ子に手伝ってもらいながら、フィールドの昆虫型魔物をボス部屋前の通路へと移動させ、なるべくメリエンダの指摘した通りになるように魔物を配置した。


 コルドーは、入口付近の罠を解体し、罠を移動させる。ノーマンは、ストックしていたアイテムを迷宮内に追加設置する。


 「よし!これで一通り、終了しましたね!皆さん残業ありがとうございます!!」


 「オブくんもお疲れ様。では、私はこれにて。皆さんまた明日。」


 クモ子とコルドーは、家事にアイテム屋の仕事にと帰っていった。


 「ホントあの2人は、よく働いてくれますね!給料上げてあげられるように頑張りましょ!」


 「ああ、ホントだな!」



 改善から一週間.....

タルタロスの行き着けの居酒屋にて、メリエンダが酒を飲みながら威張っていた。


 「だから、言ったじゃない!私に言われる前に普通は気づくのよ!」

 

 メリエンダは、手に持った週刊『ダンジョン』をバシバシと叩く。そこには、第10階層の迷宮ランキング第13位にオブライエンたち“ドリームラビリンス”の森の迷宮の名前があった。


 「ははっーーー」


 オブライエンとゴンゾーは土下座をしながらメリエンダを敬うように彼女の前にひれ伏している。


 「だが、本当にメリエンダの言う通り、評価や口コミが上がったな。この調子でいけば、トップ10入りも夢じゃないな。」


 「ほ、本当ですか!?僕らの迷宮がトップ10入りだなんて!!」


 オブライエンは、妄想しながら喜びに顔を歪めている。


 「きもっ!オブあんた魔物の選別やら配置、ちゃんと勉強しときなさいよ!!!次は、もっと上の階層になるのよ!いい?あんたは——」


 オブライエンの全回復したはずのHPは、メリエンダの口撃により、どんどんと減っていく。


 「まあまあ、メリエンダ様。今は成功したんだから今日ぐらい許してやってくれよぉー」


 「はあ!?こいつには何度言っても理解しないんだからこれぐらいがちょうど良いのよ!!てか、ゴンゾーあんたもMeikyu Tubeの動画撮影ばっかやってて、最近ボスとしてどうなのよ?あんたね———」


 ゴンゾーは、オブライエンを回復サポートしたつもりが、メリエンダは、ゴンゾーへと猛口撃を開始したのであった。


 何がともあれ、メリエンダの助言により、本当の大成功?に近づいたのかもしれないドリームラビリンスの2つ目の迷宮であった....








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