第6話 衝撃と独白
「い、いきなり何を言うんですか」
とっさのことで驚きつつも慌てて言葉を返す。なぜいきなりそんな事を言うのか。何より、なぜ自分が自殺を図ろうとしているのが分かったのか。うろたえる自分をよそに、彼女はやれやれ、という感じで髪をわしわしとかき上げる。
「あー。やっぱりか。図星でしょ?あ、ごめん敬語止めるね。見た感じそんなに年も離れてないみたいだしさ」
そう言いながら彼女はこちらの返事を待たずに、改めてこちらの顔をまじまじと見つめる。言い当てられたショックで、大和はその場から動けなかった。
「だ、だとしても……死にたいだなんて……見ただけで、何で分かるんですか!」
思わず大きな声を出してしまう。幸いにも周りに人気はなく、自分の声は彼女にしか聞こえなかった。
「オーケー、落ち着いて。あと敬語、無理に使わなくていいから。さっきみたいな口調のままでいいからさ。とりあえず座ろうか」
促されてベンチに座る。自分が座るのを待って彼女も少し間を空けて座る。
「えっと、じゃあ話そうか。その前に一つ。否定しなかったって事は……当たってるよね?」
彼女の言葉に無言でうなずく。いまだパニックに近い感情が沸き上がりそうになるのを必死で抑え、冷静さを取り戻す。
「……ちょっと待ってくれ。詳しく聞く前に、ちょっと一服させてほしい」
彼女がうなずいたのを確認し、近くの灰皿まで歩いてタバコを吸う。口から煙を吐き出し、徐々に思考がクリアになってきたところで改めてさっきまでの出来事を振り返る。
なぜ、彼女は自分が死のうと思っているのを分かったのだろうか。少なくとも、先ほどの会話のやり取りの中で、自分はそんな素振りは一切見せていない。第一、今日初めて会った人間に対し、あのような発言を何の根拠もなく言えるはずがない。
一本では吸い足りず、二本目を吸いながら大和は冷静になり考えた。
ひとまず彼女の話を聞いてみよう。今更人に何を言われたところで、自分の決意は変わらないが、死ぬ前に人と会話をするのも悪くないかと思った。
何より、なぜ自分が死のうとしているのを見抜いた彼女に興味があったからであった。死のうと思っているはずなのに少しこの後の会話を楽しみにしている自分に気づき、大和は一人苦笑しながらタバコの吸殻を灰皿に投げ入れた。
「ごめん、待たせたね」
言いながら大和は戻り際に自販機で買ったペットボトルのお茶を一本彼女に渡す。
「いいの?さっきも貰ったのに。まあ、ありがたくいただきます」
言うと同時に蓋を開け彼女はお茶を飲む。自分が先ほどと同じようにベンチに座ったのを確認したと同時に彼女が口を開く。
「それでさ、さっきの話の続きなんだけれども」
彼女の声に耳をかたむける。
「わたしもさ、具体的に説明しろって言われても出来ないんだ。ただ『分かる』だけ。この人は今、死にたいほど悩んでいるなあ、死のうとしているな、って。あ、それも目に見える人全部が分かるわけじゃないよ?さっきみたいに面と向かって顔を合わせてようやく分かるぐらいのものだけど」
彼女の言葉に大和は少し落胆した。具体的にとまではいかなくとも、もう少し面白い答えが返ってくると思っていた。内心そう思っていたところに彼女が続ける。
「あ、でもあなたが何でそう思っているのかは分かるよ?仕事、更に言えば人間関係。それも上司でしょ」
その言葉に大和は驚いた。ただ死にたいとか、悩んでいる程度ならば、言い方は悪いが当てずっぽうの可能性もある。大小の差はあれど、死にたいと考えたことがない人間も、悩みのない人間もいないと思うからだ。だが、目の前の彼女は大和が死に至る理由まで、会話もろくにしていないこの状態で言い当てたのだ。
「ど、どうしてそこまで……」
それだけつぶやくのがやっとだった。
「だから言ったでしょ。『分かる』って。でも流石に何て言われたかまでは分からないよ。ただ、あぁ、この人は職場で心が折れるくらいの言葉を言われ続けたんだな、ってくらい」
もはや言葉も出なかった。何故彼女はそこまで分かるというのか。見ず知らずの、それもたった今ここで会ったばかりだというのに。
「ま、とりあえず話してみない?どういった事がきっかけで、そういう事になったのか。死のうとする前にさ、ちょっと吐き出してみようよ」
そう言った彼女に、何故か逆らえない気持ちになった大和は今まで自分の中に溜め続けていた気持ちと感情を初めて外に放つこととなった。
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