第一幕/出立 [家出]第3話‐3
[No.6]はシャトルまで後数十mまで接近していた。衝突しない様に逆噴射でブレーキを掛ける[No.6]。
「よし、まず先頭からだ。カメラをサーモモードに切り替えろ。」
ディスプレイが熱探知映像に切り替わる。赤い人型が二つ。恐らく操舵室の映像で、二つの人型は機長と副機長だろう。顔の向きや動作から察するに、どうも[パペット]を見て驚いている様子だった。
「・・・ここは確認できた。次へ行こう。」
操舵室を後にし、[No.6]は船体をなぞるように移動する。今度は多数の人型が見えてきた。客室で間違いなさそうだ。
「熱源の数は十一・・・いや十二か?」
[No.6]のカメラ越しにアーシムは客室を観察する。シャトル内に居る人は全て[No.6]の方を見て驚いている。
「機外カメラがオンになっているのか?」
通常なら、機外カメラをオフにして乗客の恐怖心を煽らず、早急にこの場から立ち去るのが定石だろう。しかし、それを行わないこの民間シャトルにアーシムは違和感を覚えた。移動しないのは、下手に動けば攻撃される可能性を考えてだろうとは思うが、それでも機外カメラをオンの状態にするのはいささか客に対しての配慮が欠けている。それに[パペット]との交戦が始まった後、いくらでも逃げ出せる瞬間はあったはずだ。そこまでしないとなると、まるでこの戦闘を見せつけているかの様に思える。
(本当に民間のシャトルか?)
眉を顰めるアーシム。確かにこのシャトルについては、フライトスケジュールにも載っていなかった。もし民間シャトルを装った国家元首側の手の者だとしたら・・・だが、確証は得られていない。画像をじっと見つめ、唸りながら考えるアーシム。何かを察知したかの様に[No.6]は不意に振り返った。
「おい、何を勝手に・・・ッ!」
振り返った先の映像、無人機が作業用クローアームを展開しながら[No.6]の目前まで迫ってきていた。アーシムは急いで回避の指示を出そうとするが、もう遅い。無人機はシャトルを壁にして[No.6]に衝突した。衝撃で揺れ動く映像。無人機が照射し続けているレーザーが、[No.6]の装甲に弾かれ、ちかちかと点滅する。
「「No.6」!今すぐ脱出しろ!」
[No.6]は何とか脱出しようともがくが、一向に無人機から離れられる様子を見せない。
「おい!どうした!」
ディスプレイに映像が[No.6]の右腕を映し出した。無人機のクローアームの先端がシャトルの外壁に突き刺さっており、右腕はその間に挟まっていた。クローアームが突き刺さっている外壁から緑色の液体が漏れ出している。
「チッ!NWジェルか。」
舌打ちするアーシム。
NWジェルの硬質化作用と粘着性の所為で、クローアームが外壁に固定されている状態になっていた。[パペット]なら無理やりクローアームをシャトルから引きはがす事は可能だが、シャトルの内壁まで損傷させかねない。それに無人機はレーザー砲を照射し続けている。今は[No.6]が盾になっているから大丈夫だが、自由になった無人機のレーザー砲が[No.6]から逸れてシャトルに直撃する恐れがある。この状態で強引な手段に出るのはリスクが大きい。画面に映っている[ストレリチア]の姿がどんどん小さくなっていく。このままでは[No.6]もろともシャトルが漂流してしまう。
思慮を巡らせながら画面を見つめるアーシムの目に[No.6]の左肩の箱が留まった。
‐なんだ、答えは簡単じゃないか‐
口元に笑みを浮かべながら、アーシムは背もたれに背中を預ける。
‐見ていらっしゃるのであれば、後は指示を待つだけだ‐
通信用ディスプレイに顔を真っ赤にしたラファエルが映し出された。
「おい!何やっているんだ!早く無人機を引きはがせ!」
‐五月蠅いな・・・‐
ラファエルの怒号を気にも留めずに、アーシムはゆったりと椅子に座ってリラックスしている。
「聞こえてんのか!?クソ!だから良く分からん若造に任せるのは嫌だったんだ!」
‐俺が聞きたいのはそんな声じゃない。俺が聞きたいのは、あの透き通った麗しいたった一人の声だ‐
「アーシム、〝槍〟の使用を許可するわ。」
‐透き通った、麗しい‐アキレアの声が[ブレインルーム]に響き渡る。通信用ディスプレイが二分割され、アキレアは文字通りラファエルの怒号に割って入ってきた。
「多少なりともシャトルには影響は出るでしょうけども、精々照明や軽い電子機器が落ちる・・・あー、後ワープドライヴも駄目ね。まぁ、その位で生命維持には影響はないわ。ただ、くれぐれも槍先を触れさせないようにね。」
「はい、アキレア様。」
アーシムはインカムのマイクを口に寄せる。
「[No.6]。〝槍〟の使用を許可する。槍先は絶対にシャトルに接触させるなよ。」
‐シャトルの乗組員及び乗客。すまないな‐
[Roger]の文字と共に、[No.6]のディスプレイが白煙に覆われる。白煙が晴れると[No.6]の左手には一本の〝槍〟が握られていた。無人機が狂った様に機体を左右に揺らし始める。照射され続けていたレーザー砲も途切れ途切れになり始めた。[No.6]は〝槍〟を無人機のキャノピー目掛けて思い切り突く。槍先はまるで豆腐に箸を入れるかの如く容易く突き刺さり、刺された無人機の動きは一層激しくなったものも、次第にゆっくりとなっていき、レーザー砲を含め無人機は完全に沈黙した。動作の停止を確認した[No.6]は、器用に〝槍〟を操り右腕を固定しているクロー部分を切断し、ようやく無人機の拘束から解かれた。一部始終を見届けたアーシムは他の[パペット]のディスプレイを確認する。他の[パペット]達も無人機との戦闘を終了し、その場で待機してアーシムの指示待っていた。レーダーも、もう無人機の反応は無い様だった。
「申し訳ございません、アキレア様。私の力及ばずに・・・」
通信用ディスプレイに向かって項垂れるアーシム。
「大丈夫よ。人的被害は避けられてそうだったし。けど、今度からは気を付けて頂戴。」
慰めの言葉を掛けるアキレア。ラファエルは眉間に皺を寄せ、文句を言いたげな表情でじっとアーシムを見つめている。
「ほら、艦長も。結果、大丈夫だったんだから。それにアーシムに指示したの私だし。責任の半分位は私にもあるわよ。」
ウィンクするアキレアを見て、ラファエルは大きく溜め息を吐き、「・・・分かりました」と、アーシムを睨みつけながらディスプレイから姿を消す。
「では、アーシム。事後処理の方針が決まったらまた連絡するわね。」
アキレアも小さく手を振りながら、姿を消した。[ブレインルーム]にアーシム一人。アーシムは自嘲気味に笑う。
「全く、周囲確認は基本だろうに・・・反省点だな。」
髪をかき上げながらそう言って、アーシムは大きく息を吐いた。
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