第一幕/出立 [家出]第3話‐1
後ろの扉が閉まるのと同時に、[ブレインルーム]の照明が点き、空中ディスプレイが一斉に起動した。アーシムは中央の椅子に座座りシートベルトを締める。目の前のデスクには指揮用のコンソールが併設されている。デスクの下部を軽く押すと引き出しが開き、その中には耳掛け式の小型ヘッドセットが留め具で固定されている。アーシムは、片手コンソールを操作しつつもう片手で留め具を外し、ヘッドセットを装着した。視界の左端の通信用ディスプレイに辛気臭そうな顔をしたラファエルが映る。
「あー・・・アーシムだったか。協力感謝する。」
ラファエルは敬礼をし、話を続けた。
「基本的にはそちらの判断に任せるが、何かあった際にはこちらの指示に従っていただきたい。」
アーシムは軽く鼻で笑う。ラファエルの額に刻まれた皺が寄り深くなる。
「安心してください、艦長。極力そちらの指示には従います。まぁ、より上位者の指示を優先致しますが。」
ラファエルの顔を見ずにコンソールを弄りながらアーシムは答える。ラファエルは溜息を吐き、「・・・分かった。頼んだぞ」と言葉を残してディスプレイから姿を消した。アーシムは気に留める仕草も見せずにコンソールを弄り、「よし!」と勢いよくEnterキーを押下する。通信用とは別の、13のディスプレイの内12個の画面に「start up」と表示された後、艦内格納庫の映像が映し出された。ディスプレイの端には「No」の文字とギリシャ数字が表示されている。
「[パペット]、[No.2]から「No.13」まで起動。装備は宙間用のセラフィムユニット。全機、可動部と装備との接合部に問題なし。」
アーシムはコンソールを操作する。それに反応したかの様にディスプレイの映像が格納庫奥の大型エアロックの方を映した。
「各機、エアロックの前まで移動。」
コンソールの操作をしながらヘッドセットのマイクに向かって指示を出すと、ディスプレイに[Roger]と表示され、映像がエアロックに近づいていく。それを確認したアーシムは艦橋に通信を繋いだ。コール音。その後、通信用ディスプレイにラファエルの顔が映し出された。
「何だ?」
「あー、すいません。エアロックの解放をお願いします。」
‐エアロック開けなきゃ出られないだろ?それぐらい分かれよ‐
いつも通りの笑顔で対応。それを見たラファエルは嫌そうな顔をしつつも、「分かった。担当に繋げる」と一言言った後、オペレーターに指示を出す。ディスプレイの映像がラファエルからオペレーターの顔に切り替わる。
「ここからは私が担当致します。只今、解放致しますので少々お待ちください。」
オペレーターの言葉から一拍置いた後に[パペット]達の目の前の扉が開く。[パペット]達は無重力の中姿勢制御スラスターを吹かしながら順々に中に入っていく。
「全機入室を確認。艦内側のエアロックを閉めます。」
重低音と共にエアロックが締められる
「[パペット]各機、カタパルトに接続。」
ガシャンと何かが嵌ったような音が聞こえ、ふわふたと漂っていたディスプレイの映像が固定された。
「閉扉確認。気圧を調整します。」
空気が抜けていく音を聞きながらアーシムはグルグルと手首を回す。実戦は初めてだが、この時の為に日頃から何回もシミュレーションを重ねてきたお陰で自信はあるし、緊張もしてない。トラブルが起きようとも「周囲の状況を把握し、落ち着いて指示を出す」・・・それさえ守っていれば何も問題はない。
「気圧調整完了。機外側エアロック解除します。」
無音で扉が上下に分かれる様に開いた。その先は暗闇。何もない虚空。
「エアロック解放。先頭の「No.2」から順番にブラストオフ。」
「No.2」を皮切りに、[パペット]達が虚空の中へ放り込まれていく。[ストレリチア]から一定距離まで離れると、姿勢制御用スラスターから蒼い粒子を放ち射出の勢いを殺す。全ての[パペット]が勢いを相殺し終えると、スラスターを器用に吹かしながら[ストレリチア]の方向を向いた。赤い星を背景に[ストレリチア]が佇み、その周りを無人機達が飛び回っている。
「アーシムさん、後は宜しくお願いします。」
懇願するオペレーター。「任せてください」とアーシムは笑顔で返事をした後、艦橋との通信を切った。これでもう邪魔者は居ない。
「艦内レーダーをリンク開始。」
デスクの右側に網掛状の球体が表示される。中央には[ストレリチア]の形をしたホログラムが。その周りに食べ物にたかるハエの様にビュンビュン飛び回る光点。アーシムは舌なめずりをする。
「[パペット]、ゴー、フォア―ド。」
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