第34話 やっちゃいましたか?~エルフですら常識がキーワード~

「「セージ様ッ!」」


 焦ったエルフ二人の声がハモる。

 その声はいつもとは全く違う。

 尋常じんじょうではない真剣味をびていた。


「お~……大丈夫、無事無事。運よく平らな草地だし、クッション魔道具様様さまさまだわ。マジですごいな、コレ。俺は無事だけど、【ランドルバッファ】は? 生きてる?」


「し、心臓が止まるかと思いました。竜は無事です」

「さすがに怪我は負っておりますが。我が王に万が一のことがあったら我ら、この場で自決じけつですよ」


「また重たいこと──って、それだよ! 今の衝撃って【ポロトコタム】からじゃないよな!?」


 セージはひどあせった様子で二人へとたずねる。


「ポロトコタムは海上を移動する都市。エルフカーニバル以降、河口かこうの街【エサンピタ】近くに停泊ていはくしているという話ですので」

「まだ少し距離がありますから、別の何者なにものかと思われますが……何をそんなにあせっておいでで? あ、早く不届ふとどき者をてという勅令ちょくれいですか? 我らの王を攻撃するなど、てんつば愚行ぐこう


 なぜ主君がそんなに焦っているのか。

 エルフ二人にはそれの検討がつかない。

 検討はつかないが、とりあえず仮想敵の打倒を提案。


「いや違うから。方針決定の前にとりあえず敵っぽいのを倒せとか──ああ、エルフバーサーカーだもんな。ふぅ、原因が別なら、まぁ……。とはいえ、被害的にも状況的にも良くはないけど。最悪はまぬがれたか」


「??」

「最悪、ですか?」


「あのねえ。君ら今の自分の発言を振り返ってみなよ。もし──俺の乗った竜を無自覚にでも攻撃しちゃったら……エアルウィンさんは、どういう行動にでると思う?」


「あっ──!!」

「間違いなく……自決……しますね。恐らく後悔しながら、一瞬のためらいもなく」


「まだ返事待ちってことで、敵性国家てきせいこっかに確定されてないかとんでたけど……。フォレストエルフ以外も、俺がからんだらヤバかったんだよなあ。これ、ヴァンデリアの紋章は消しておいかないと万が一があるかな」


「いえ、それは大丈夫です。さすがにその可能性があれば進言しんげんします」

「ポロトコタムが視認できる距離から王の【覇気】が届くかどうかはともかく、間合いに入ったら我らが風魔法で上空に合図を打つ算段でしたので」


「……『だから、そういうのは先に言っておけ』っていつもなら言うところだけど。さすがに今回は俺が話をさえぎっちゃったからな。二人の段取だんどりがなかったら、ヤバかったかもしれない。俺の考えがりず悪かった。この通りだ、素直に反省する」


 そう言って、セージは二人に頭を下げる。

 こういった行為は出会って以来、初めてかもしれない。


「おおお、おやめください!!」

「もし王が気づかなければ、おぎなえない家臣かしんが悪いのです!! どうか、頭をお上げください!!」


 二人は先ほどのセージと同じくらい焦っていた。

 自らの主に頭を下げさせる罪悪感。

 これは彼女らにしか分からない感覚だろう。


「その罪悪感も込みで本当にすまん。でも、こういう反省はしておかないといけない。冒険者時代はコレが出来ないヤツから命を落としていったんだ」


 そこまで言って、ようやくセージは頭を上げた。


「次から、こういったことは必ず申し上げますので!! お願いしますから!!」

「我が王があと3秒そのままでしたら、我ら自決してましたよ!!」


「いや人が謝ってるそばで自害すんなよ!! しかも3秒って、かなりギリじゃねえか!! そんなんされたら俺の方が死にたくなるわ!! え、俺ってロクに頭も下げちゃいかんの!?」


「セージ様、覇王とはそこまでの存在」

「セージ様が世界にそむいたとしても、世界がセージ様に背くことは許されないのです」


「それ暴君ぼうくんじゃん!! ん? その格言っぽいのって、家に伝わる話で──いやダメだ。チラっと聞いた気がするけど思いだせん。って、そんなことより状況確認だ。とりあえず攻撃? の大元おおもとさぐらないと。今のって風魔法か?」


「おっしゃる通りです。恐らくは風魔法・【ウインドインパクト】。込められた魔力が尋常じんじょうではなかったですが」

「まるで、竜をなるべく傷つけずに狩るかのような……いえ、【凶悪竜認定】にもされていない竜を攻撃するようなおろか者はさすがのエルフにも──」


 と、エルフィが言いかけた時。

 3人の落下地点近くのやぶからガサリと音がった。

 そして、一人の少年がやってくる。

 年のころは、魔法学園の問題児と同じか少し若いくらいだ。


「あれ? なんで人が? やっべ! 人殺し──にはなってない。ふう、無傷っぽいな、良かった~。せっかくドラゴンが飛んでたから、素材として狩ろうと思ったのに。じっちゃんからめてもらいそこなっちゃったな~」


 疑問から一瞬だけの焦燥。

 それから後は、えらく呑気のんきな声だった。


「…………君は? この辺の人? それと、さっきの魔法は君が? 竜を殺そうとしたのか? 俺はセージ。この竜に乗ってた者だ」


 思う所があるのだろう。

 セージは怪訝けげんそうに少年に尋ねる。


「えっ、そんな矢継やつばやに聞かれても! えーっと、オレは【セナ】。近くに住んでるよ? 魔法はうん、オレ。ドラゴン? 殺したら素材がいたみそうだから、り狙いさ!」


「王よ……もしや、この者……」

「竜の意味も……紋章の意味も……わかっていないのでは……」


 エセ双子ですらあきれたコメント。

 その内容は魔法学園の時のジーノ、ベガマインの時と酷似こくじしていた。


「──これさ、俺なりの直観なんだけど。少しだけ分かってきたんだよね……。君、【転生者】とかいうのじゃないの? アレだろ、神様とかいうのから【チート】もらってんだろ?」


 最初は馴染なじみの無さから概念がいねんが全く理解できなかったセージ。

 なんとなく、本当になんとなくだが輪郭りんかくつかみ始めていた。


「!? なんで分かんの!? これ、じっちゃんすら理解できてないのに! チートのことまで!? もしや、同郷どうきょうの人!?」


 そして、その推測すいそくまとていた。

 いきなり言い当てられたセナという少年は驚く。


「これ、会うたびに説明しないといけないのか……。えとな、俺のご先祖様が多分だけど、君と同郷。んで、なんで分かったかというと、君と似たような人を見たことがあるから」


 非常に面倒臭そうにセージは言った。

 似たような人──もちろんジーノのことである。

 面倒くさいというよりはゲンナリが近いだろうか。

『こんな展開は一回だけでお腹いっぱい』

 そう言わんばかりの、おざなりな言葉だった。


「オレと似た──!! 地球からの転生者、他にもいるんだ! おぉ! 色々いろいろかたりたいし紹介してくれない!?」


 そのセージの様子に気づかず、少年は興奮する。


「ああうん。紹介、紹介ね。機会があればしてもいいけど。こっちも今は急いでてね。それより、先に君の保護者を紹介してくんない? この状況の次善策じぜんさく──大事な大事な用があってな……」


「はぅ!」

「は、覇気が……」


 事態に対する少年の無頓着むとんちゃくさ。

 エルフ二人の態度が、セージの内心を物語っていた。


「ん……? 別にいいけど。あれ? じっちゃんの知り合い? オレ、赤ん坊の頃から記憶があるけど、今まで見たことあったかな……? つか、横の二人ってエルフ……? うわ~美人! さっすが異世界、本当にいるんだね~」


 あくまでも呑気なセリフ。

 エセ双子からのコメントで、常識に関してはお察しであるが。

 どうやら、もともと空気が読めない人種らしい。


「そうだな。君が思いえがくエルフが、どういう存在かは知らないけど。で、連れて行ってくれるの? くれないの?」


 早くポロトコタムに行きたいセージ。

 必然、かす言葉になってきている。


「そ、そんなに怒んなくても連れて行くさ!! なんだよ、ドラゴン落とされたからイラついてんの? あー……コレじっちゃんに怒られるかな。あーあ、やっちゃったかな~」


「やけにひとごとが多いな? それよか──は や く 行 か な い ? 」


 もはや、普通の人間にすらさっせられるセージの様子。


「エ、エルフィ……王が、ここまでの覇気を出すのって──」

「アイナ! 我々は空気、今は空気なのです。とばっちりを受ける前に存在感を消さなければ……!」


 今回はセージの注意が少年に全て向いているからか。

 二人は声を震わせるだけでんでいた。

 もし自分に向けられていたら腰を抜かしている。


「ああもう、わかったって~! カリカリしてるねぇ。カルシウム足りてないんじゃ? ──あ! これ地球の知識なんだけどさ、小魚とか牛乳にカルシウムっていう──」


「禁忌魔ほ──」


「おおおおおおお、王よ! 禁忌魔法はダメです!」

「いけません! おいかりはごもっともですが、ここはおしずまりを!!!!」


 セージが暴走しかけ、それをエルフがなだめる。

 非常に珍しい光景が、そこには展開していた。


 そうして二人に引きずられながら、セージはセナという少年の家へと向かうのだった。

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