第31話 とあるパーティでの勇者裁き~ヴァンデリア婚約破棄の場合~

「いざ刮目かつもくせよ! この御方おかたこそが……かのエルフに認められし、ヴァンデリア王国認定勇者・セージ様である! 我が子・マティアスに加え、問題を起こしたおろか者どもよ。さあ、ふるえるがいい! その罪を懺悔ざんげしろ、さばきのときだ──!」


 無理矢理、セージを場の中央へと押しやった国王。

 そのクセ、偉そうに何やら仰々ぎょうぎょうしく語り始めた。

 先ほどまでの小者こものっぽさが嘘かのようである。

 そして、言葉だけは非常にサマになっていた。

 無論、この場において偉い立場には違いないのだが。


「えええ!! なにこの空気!! 冗談だろ!? マジで俺がやんの!?」


 それに驚愕するセージ。

 藪蛇やぶへびどころの話ではない。

 いわば【人様の家庭のトラブル】。

 彼にとって、たまったものではなかった。


「ウッ!? なにゆえ、このような些事さじに勇者様みずからがおましに!? よ、よもや──国にとって絶対である【勇者裁ゆうしゃさばき】が開かれるとでも!?」


 目をく王太子マティアス。

 全くセージ『自ら』ではない。

 そして『なにゆえ』でも『些事』もない。


 下町したまちでの色恋沙汰いろこいざたレベルの話ではなく、立派な大事件である。

 それこそ、国家の未来を左右さゆうする次元の話。

 さらには、【勇者への謝罪パーティ】で問題を起こした時点で、『よもや』も何もなかった。


『まさか、そんな大事おおごとになるとは!』

 とでも言わんばかりの顔。

 わざとでなければ、完全に常軌じょうきいっした所業しょぎょうだった。

 国王の『無能な一族』という言葉が、急速に現実味げんじつみび始める。


「え!? 【勇者裁ゆうしゃさばき】って、なんですかソレ!!」


 初耳である単語に、セージは付いていけない。

 当事者にされかかっているのに、置いてけぼり状態という理不尽。


「王よ、それには我らがお答えしましょう」

「我がエルフ国も、このヴァンデリアも同じなのですが……目の前でごとが起きた時には勇者が裁く。それは当然であり──勇者がくだした裁決さいけつは絶対なのです。その名こそ、【勇者裁ゆうしゃさばき】!」


 エセ双子は常識として知っているようだった。


「お前ら! よくもぬけぬけと! 『その名こそ』じゃねえよ! だから、そんなのがあるなら事前に言っとけよ! マジで言っとけよ!! さすがにそろそろ怒るぞ、俺も!!」


「ぉ、王の大器たいきからすれば、ささやかな事であると──」

「わわわ、我が王よ。正座でも土下座でもいたしますので、どうかおしずまりを!!」


 途端とたん、焦り始めるエセ双子。

 恐らく彼女らの言う所である、【覇気はき】でもれ始めているのだろう。


「──これ終わったらリコール、検討けんとうするから。……国王様?」


 その言葉に、エセ双子は黙って土下座態勢へと移行した。

 それだけは、なんとしてでもけたいらしい。


「はぃ、何でしょうか」


 静かな様子になったセージ。

 それを見て、さすがに調子に乗り過ぎた国王はちぢこまる。

 まるで、目に見えない圧力を感じているかのようだった。


「本当に俺にやらせるんですか? もう、『やれ』とおっしゃるなら──やりますけれども。結果には一切の責任をいませんよ? それでも、よろしいと?」


「ど、どうぞ勇者様ののままに。責任はこのヴァンデリア国王が持ちますゆえ、なにとぞ」


 ドモりながらも意思はくずれぬ国王。

 これがもし、エルフであるなら──

 自らの王に対する不遜ふそんな態度だと、すでに土下座を決めている。

 そう、今のエセ双子のように。


 政略せいりゃくなどもからんではくるが、王族も代々だいだい優秀な血筋を取り込むもの。

 もしかすると、【感知能力】にすぐれているのかもしれない。

 だとしたら、王族に相応ふさわしい胆力たんりょくは持ち得ていると言える。

 それを見て、セージはめ息をつく。


「はぁ。あのう、【勇者裁き】でしたっけ? 王太子殿下やそちらのご令嬢様方れいじょうさまがたも、本当にそれでいいんですか?」


 そして、当事者たちへ遠慮えんりょがちにたずねた。


「も、もちろんです! 勇者様の意思こそ王家の者にとっては絶対! 先日の端領主ぱりょうしゅなどとは違い、全面的にしたがいます!!」


「わ、わたくしもです! たかが公爵令嬢風情ふぜいが、勇者様からなどと恐れ多い!!」


「え、え? マティアス様、この状況、なんなんですか?」


 一人、【レナ】と呼ばれた令嬢のみ、事の重大さが理解できていなかった。


「レナ……そうか、君は男爵令嬢だったな。王家中心の事情ゆえ、爵位が下がるほど勇者様の威光いこうが届かぬは道理か。いいか、よく聞いてくれ。この御方おかたこそ、このヴァンデリア王国の勇者様。そうだな、一言ひとことで説明するなら──【国王陛下である父上より偉い】と言えば、そのすさまじさが伝わるか?」


 神妙しんみょうな表情で説明するマティアス。


「え。ええぇえええ!! 陛下より偉い御方おかたが国に存在してもよろしいのですか!?」


「よろしいも何も、それがるべき形なのだ。エルフの存在は君も知っているな? 勇者様とは──その国家的脅威に対し命令すらできる、唯一ゆいいつかた。つまり、国を滅ぼすも存続させるも、勇者様のご意向次第いこうしだい


「エルフ!? あ、あの戦闘狂のエルフをですか!? そんな存在が!?」


 末端の爵位でもエルフの恐ろしさは知っているらしい。

 男爵令嬢であるレナは、心の底から震えた。


「あのー……もうエルフは今、どうでもいいんで。さっさと始めたいんですが。よろしいですか?」


 段々だんだんとセージも適当になってきた。

 バカらしくなってきたのである。


「失礼しました! どうぞ、温情おんじょうあるさばきを! お願います!!」


 さっそくセージにび始めるマティアス。

 こういう所は国王と親子らしいとも言える。


「いえ、私情しじょうはさみませんのでしからず。第一だいいち、俺、本来はこの場に関係ない者ですし。淡々たんたんとこなしてゆきますよ。じゃあ、【男爵令嬢のレナさん】でしたっけ? そこのアナタ」


 セージ……というよりはセイヤにつらなる一族。

 彼らが一番ヤバくなるのは、一見いっけんすると冷静に見える時だった。


「はいぃいい! レナです! わ、悪いことなんてしてません!」


「いや、そういうのはいいんで。まず──いや、もう単刀直入に聞きましょう。アナタがマティアス殿下と懇意こんいになった理由は何ですか? 権力目当て? 財力? 殿下の容姿や能力? それとも、単純にれただけですか?」


「えっと……好きになっただけです。身分違いなのは自覚しておりますが……それでも、心がかれてしまい──殿下も、それにこたえてくださいました」


「らしいですが。うーん……このさい真意しんいほうはいいか。殿下にお聞きします。レナさんのぶんに間違いはありませんか?」


「はい! レナの申すことは真実です! 私たちは【真実の愛】でつながっております!」


「なるほど、【真実の愛】。じゃあレナさん、【勇者的判決ゆうしゃてきはんけつ】を言い渡します」


 セージの言う『勇者的判決』。

 もちろん皮肉を込めた発言である。


「お、お早いですね!?」

「さすがは我らの覇王!!」


 いつの間にか土下座から正座になっているエルフの二人。

 エセ双子は、こういう時にセージを持ちあげることを忘れない。


「は、はい」


 固唾かたずをのむ、令嬢のレナ。


「【国家反逆罪こっかはんぎゃくざい】で。重罪です」


 短く判決をべるセージ。


「は、え……? え!? 国家反逆って! わ、私、そんなだいそれた野望やぼうなんて!」


「えっとですね。野望だとか関係ないんです。この婚約は国王陛下と、その周辺の国家重鎮こっかじゅうちんにあたるかたが決定なさったこと。それは周知しゅうちの事実として、ご存じでしょう? そういう、【勅令ちょくれい】とも言える決まり事に対して手順もまずこうから歯向はむかっています。よって、理由はどうあれ【国家に反逆している】となします」


「そ、そんな……」


 ガクリと膝をつくレナ。

 事の重大さを、ようやく理解し始めたようだ。


「で、罪状は以上として……。次、さっそく刑罰けいばつに移ります。一応、【思春期ゆえの恋心】という情状じょうじょう酌量しゃくりょう加味かみした上です。本来は極刑ですが、さすがに若気わかげいたりで可哀そうなので。終生しゅうせい、修道院入りか国外追放。連座れんざで家の爵位剥奪はくだつ──までは必要ないか。とりあえず決断までの猶予ゆうよ期間はもうけます。どちらか選んでおいてください」


「あ、ああぁああ」


 言い渡された罰に、レナは魂が抜けたような様子になった。


「じゃあ、次。ええと、【カタリナさん】でしたっけ?」


「は、はい! カタリナでございます! 家の爵位は公爵位をいただいております」


「わかりました、公爵令嬢のカタリナさん。【レナさんをイジメた】と殿下はおっしゃっておりましたが、今回はそういう問題ではないです。なので、アナタに【罪らしい罪はありません】」


「そ、そうでございますか……!」


 ホッとする様子のカタリナ。


「ですが、【この状況をまねいたことこそが罪】です」


「えっ……え?」


 さらに続くセージの説明。

 カタリナは意味が分からず、目が点になる。


「要は──【後宮こうきゅうや貴族のパワーバランス調整どころか、現在の人間関係ですら満足に制御する能力が無い】。よって、罪に相応そうおうする罰こそありませんが……国母こくぼには明らかに不適格ふてきかくです。なので、次期王妃の立場を剥奪はくだつ。能力に応じた別の貴族か、国外へととついでください」


「そ……そんな……」


 カタリナもレナと同じく、膝をつき放心ほうしんする。

 イジメ云々うんぬんはしてない自信があったのだろう。

『今回、自分に非はない』とたかくくっていたカタリナ。

 レナといい、どちらも貴族令嬢らしからぬ振る舞いにおちいる。


「で、最後にマティアス王太子殿下」


「は、はい!!」


「判決を言い渡します。【国家転覆罪こっかてんぷくざい】。名称が正しいかどうかは俺は無知なので、ご了承ください。というわけで、衆目しゅうもく眼前がんぜんにて死刑。暴動ぼうどうこそともないませんでしたが、【革命】ともとれる行為が、残念ながら今回は失敗ということで。まぁ……ギロチンあたりが適当ですかね」


「はい! ご温情おんじょう──え!?」


 マティアスは耳をうたがう。

 すでに許されるつもりでいるようだった。


「あれ、聞こえませんでした? ですから、死刑です。ギロチン」


「お、お待ちを!! たかが、色恋沙汰いろこいざたではございませんか! それが極刑きょっけいなど、あまりにも!!」


「たかが……?」


「ヒィッ!?」


「はわわわ!」

「王よ! どうか【覇気】をお収めください!」


 セージの迫力にビビるマティアス。

 その巻きえをらうエセ双子。


「あのですね。お立場、ご理解されてますか? 殿下の言動げんどう一つによって、国家──いては国民全員のすえ左右さゆうされるんですよ。この醜聞しゅうぶん、民にご説明できますか? 【たかが色恋沙汰】のため、国民の安寧あんねい犠牲ぎせいにしてでも【真実の愛】をつらぬくと? ええ、それはそれで結構です。【死をもいとわぬ愛】、お見逸みそれしました。ただ──それでは民の溜飲りゅういんが下がりませんので。当人とうにんらを目前もくぜんに、納得させてあげてください。時期王太子は殿下の男性の御兄弟ごきょうだいがいらっしゃれば、その御方おかた。女性しかいらっしゃらなければ、その方の配偶者はいぐうしゃが時期国王で。まさか、お子様がマティアス殿下のみではないですよね? 以上です。それでは【勇者裁き】、これにて閉廷へいていということで」


 セージは粛々しゅくしゅくと終わりをげた。


「お、お、お、お待ちを!! 勇者様!!!!」


 と、そこへ物申ものもうすヴァンデリア王。


「国王様? なにか?」


「いえ……あの……身内びいき、と申されても、仕方がないことなのですが……マティアスの、死刑だけは、なんとか、なりませんでしょうか……」


 セージに一切の丸投げをした国王。

 それが今、あわっていた。

 まさしく自業自得である。

 からくも、途切とぎ途切とぎれに息子の無事を嘆願たんがんする。


「国王様が擁護ようごなさるなら減刑げんけいしましょう。そうですね、【王位継承権剥奪はくだつの上、終生幽閉しゅうせいゆうへい】もしくは、【去勢きょせいした上で城から追放】。王家の落胤らくいんは国に混乱をもたらします。どちらでも、お好きな方を。レナさんとは事情が違いますので、猶予ゆうよは一日で」


「それで……結構です……ご温情、ありがとうございます……」


 項垂うなだれて結果を受け入れる国王。

 普段、腰が低いようではあるが……。

 どこかでセージをあなどっていたツケが回ったと言える。

 先日の領主配置の一件も、こういう迂闊うかつさが出ていたのだろう。

 でなければ、いくら内部に支障が出ようが、万が一に気づくハズである。


「──────」


 マティアスは真っ白になっていた。


「の、ノータイムでこのようなご決断を……」

「やっぱり、セージ様こそが覇王に相応ふさわしいですよ……」


 中々の容赦ようしゃのなさ。

 セージも大概たいがいである。

 まさかの【エルフもドンき】だった。


「えー……。勝手に頼んでおいて、何を今さら。エルフ二人に至っては、ドン引きされるのが心外なんだけど。国家滅亡じゃなく、国家を守る措置そちでしょコレ」


 セージとしては振り回された結果である。

 だが、この場に列席れっせきしている誰しもが思った。


『この勇者、ヤバい。ちょっかいをかけたり怒らせるの、ダメ絶対』


 断罪劇の幕がりると同時に、シンプルにそれだけがきざまれる。


 ちなみに、この出来事は──【エルフの勇者伝説】の項目にもしるされたという。

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